【配信】雑談からの……
「唯一無二の魔界の女王、魔王ヴェルチェラ・メリシスじゃ。よくぞ来た、我が臣下ども」
『ゲリラおつー!』
『ご機嫌麗しゅう、陛下』
『お待ちしておりました』
『エフィコラボからきました!初見!』
「む、初見が多いようじゃな。そうそう、エフィとのあの配信以降、ずいぶんと伸びておったようじゃな。少々こちらもリアルがバタバタしておっての。先程言われて登録人数に気付いたので、こうしてゲリラ配信しとるという訳じゃ」
『もっと配信回数増やしてくれてもいいのよ?』
『リアル大事』
『リアル大事と言いたいけど配信見たい複雑な漢女心』
『漢女心は分からんが気持ちは分かる』
漢女……あ、オトコオンナじゃなくて漢女、かな?
なんかこう、バチコーンとウインクしてくる筋骨隆々のマッチョマンみたいなのしか想像できないんだけど、それ。
「すまぬが、妾も華のJKじゃからな。色々忙しいんじゃ。ホレ、バレンタインデーやらもあって世間も忙しなかろう?」
『バレンタインデー……?』
『何も日常と変わりない一日ですが何か』
『販促キャンペーンね、しってるしってる』
『陛下誰かにあげたの?』
「あれじゃな、なんかこう、画面前ですんっとした連中が多そうじゃなぁ……。ま、とは言え妾もそう変わらんよ。秘めた想いでもある訳ではあるまいし、そも、妾はそういう興味は皆無じゃからな」
『キ、キマ、キマ……す?』
『タワーを建設するにはまだまだ刺激が足りぬでござるよ』
『個人勢でタワー建設する程の絡みってあるのか……?』
『え、今のとこエフィしかおらんぞ、コラボしたのw』
「いや、別にオナゴが好きという訳でもないんじゃが。そもそも恋愛なんぞに興味がないと言うておるんじゃ」
これについては多分、私が魔王という一種の超越的な存在であった事が起因しているのだと思う。
私たちのような寿命のない超越種と呼ばれていたような存在は、そもそも本能としての種の存続とかそういうものを考えない傾向にある。だからこそ異性に対して惹かれたりもしない。
長命種の生命でさえそうであったのだから、私みたいな存在は余計にそうだね。何せ前世の私にはそもそも寿命もなかったし、不老不死だったから。
まあ、そんな私が転生するに至ったのは理由があったからなんだけど、それはともかくとして。
「まあ、ともあれじゃ。まさか15万人を超えておるとは思いもせんでな。改めて、御礼を伝えようと思ってな。感謝するぞ、臣下共よ」
『勿体なきお言葉』
『いいってことよ!』
『不敬であるぞ、処すか?』
『お、処す? 処す?』
「いや、別に構わん。その程度の事で目くじらを立てるはずもあるまい。で、御礼ついでに雑談で良いのかの、こういうの」
『いや、草』
『だいたい御礼配信って雑談とかお披露目よな』
『箱だとそうだけど、だいたい個人は雑談多め』
『新衣装も安くないからなぁ』
「ふむ、新衣装か。妾の場合、自分で作れば良いのでな。そろそろ作っておくか……? いや、妾は配信始めてまだ一ヶ月ちょっとじゃぞ……? 衣装を見飽きると言える程の時間も経っておらんではないか」
『それもそう』
『さすがにまだ早いのよw』
『配信回数だけで見てもまだ二桁行ってないからなw』
『アーカイブ全部追っかけるの余裕なレベル』
うーん、まいった。
だいたいこういうのの新衣装ってこう、半年とか地道に頑張ってきてそれからじゃない?
いや、個人勢の配信だと最初から用意していたりっていう人もいるみたいだけど、節目とかに発表したりとかするものだったはず。
私の節目って……早くても初夏あたりなのでは……。
「ふむ……、では新衣装はまあ追々じゃな。季節に合わせたものでも作れば良かろう」
『自作だから言えるこのセリフw』
『プロに頼めばパーツ分けもしてれば数十万とかかかるし、モデラーやらアニメーターやらでもゼロ一個増えるから……』
『自作でもプロと変わらんのよ、この魔王様』
『全部自作とか強すぎやろ』
「ほー、そんなにかかるんじゃな。高いのう」
『他人事w』
『財布と相談してる個人勢を一気に敵に回すぞw』
『箱でも最低限しか出してもらえないとことかあるしなぁw』
『世知辛い』
ホント世知辛いね、それ。
箱なんだから全部箱で出してくれればいいのにって思ってしまうけどなぁ。
経費として認められにくかったり……? うーん、よく分からない。
まあそういうのもよく分からないからこそ、私は面倒事がない個人の方が気楽でやりやすいって思うけどね。
箱でトップになってるような人達ほど有名になりたいって思ってるワケでもないし。
「しかし貴様ら、ずいぶんと詳しいんじゃな、値段事情やら何やらまで。妾より詳しいのでは?」
『興味本位で調べた』
『一時期Vになりたくて色々調べて挫折した』
『お金という最大の関門を前に心が折れた』
『昔Vデビューしてみてやっすいモデル使ったけどトーク力なくて心折れた』
……うん、色々あるんだね、悲喜こもごもが。
まあ、『喜』がなくて悲哀ばっかりな空気感ではあるけど。
「うむ、なんぞ辛気臭い空気になりそうじゃからやめじゃ、やめ。貴様ら、バレンタインデーと言いVに対する感想と言い、地雷が多すぎるじゃろ」
『それはそうw』
『確かにw』
『なんか今日は心にクルものがあるw』
『痛い、痛いよ……!』
「えぇい、やめんか。雑談をしておるとどこに地雷があるのか分からな過ぎて手に負えんではないか。しかし、他に何しようかの~……?」
『OFAしてくれてもいいのよ?』
『お絵かきまだー?』
『お絵かき期待』
『やりたいようにやってくれればいいよー』
うーんと、なになに……コメントはお絵描きが6、OFAが3、その他が1程度って感じに分かれてるっぽい。
うん、近々やろうと思ってたけどOFAの大会の為にコラボ増やしたいってさっきもユズ姉さんに言われたし、この機会だからやろうかな。
「ふむ、ではリクエストが最も多い絵描きゲームでもやろうかの。という訳で、ちょいと待っておれ。起動準備するからの~」
『きちゃ! 才能を魅せつける!』
『ピアノでも凄まじかったからな……。絵も凄い事になりそう』
『音大のわい、完全に自身を喪失』
『自信じゃなくて自身を喪失するとか相当だぞw』
ゲームを起動しつつコメントを見れば……アイデンティティ失ったみたいなコメントがあるね。
いや、そこでも地雷があるみたいな感じやめて??
何、今日のコメント欄、何が地雷になるか分からない感じが凄いんだけど。
――そんな事を考えていると、部屋の扉がノックされた。
……完全に油断していたのだ。
そもそも普段から、私の部屋にはお母さんもやって来ない。
何故なら用事があればスマホで連絡してくるし、そうする方が効率的ってぐらいには部屋が離れているからだったりする。
で、今日はユズ姉さんもウチに泊まる事になっているけれど、ユズ姉さんの場合は私のパーソナルスペースに踏み込みすぎないように気を遣ってくれているのか、部屋までやって来る事はない。
つまり、元々この部屋までわざわざ誰かがやって来るって事がないのだ。
なので、当然ながら私も誰かが来てしまわないように鍵を締めたり、なんて事も当然していなかった。
けれど。
「――お嬢様、紅茶をお持ちしました」
『は? え?』
『誰の声だ?』
『おじょうさま?』
『え、陛下ってやんごとなき身分のお家の人なの?』
レイネがいるのだ、今の我が家には。
どうやら私のマイクはしっかりとレイネの声を拾ってしまったらしく、私はマウスを掴んだままレイネを見て思わず固まってしまう。
そんな私の反応と、私がパソコンの目の前にいるということ。そして、私の画面に映し出された画面の表示の数々を瞬時に見て、レイネは改めて続けた。
「――申し訳ございません、陛下。ご公務の最中であるとは知らず」
「……ふむ」
……画面表示や私の反応、それらを見て敢えてマイクに声が入る程度に声を張って告げてくるって、どういうこと?
え、レイネって私がVtuberとして活動してるって知ってたってこと……?
……あ、そっか。
さっきまでユズ姉さんと配信の事とか話してたし、その会話から情報を抜き取ってすでに調べてあったとか?
……レイネならやりかねない。
なんでもかんでも把握しておきたがる節もあったしね、この子。
「……レイネ。ちょうど良い、お主もここで一言ぐらい挨拶していくが良い」
「よろしいのですか?」
「なに、構わぬ」
『え、ちょっと何事?』
『さっぱりわからんけどいいぞもっとやれw』
『大人びたクールそうなお姉さんってだけで好き』
『まさかの仕込み? 一体何が始まろうというんです?w』
コメント欄も何やらザワついているようだけれど、レイネもレイネで特に忌避する事もなく紅茶をテーブルに置いてこちらに近づいてきたし、別に気にするつもりはないのかもしれない。
まあ、簡単に挨拶するぐらいならと割り切ってたりするんだろう。
「では……初めまして、皆様。私は陛下の侍女にして専属のメイドをしております、レイネルーデと申します。以後お見知りおきください」
『専属のメイド……!?』
『キャラ名もあるって事は仕込みじゃね?w』
『御礼配信の準備できていないと言いつつ仕込んでやがったw』
『メイドさん!?』
「仕込みを疑われておるようじゃな」
「仕込み、とは?」
「お主が紅茶を持ってきた登場から挨拶までの一連の流れを妾が仕込んだものだと思っておるんじゃろう」
「なるほど。申し訳ございません、陛下。お手数をおかけいたします」
「なに、構わぬ」
正直言って、単純にアクシデントだからなぁ、これ。
レイネが悪いって事でもないし、私も配信するから入るなとか一言も言ってなかったし。
視聴者も別に悪い反応してる訳じゃないんだし、私としては別に問題なんてない。
というより視聴者盛り上がってるんだよね、コメント速度的に。
「ふむ……悪くなさそうじゃな」
「いかがされましたか?」
「のう、レイネ。――なんなら、お主も妾と一緒にやってみるというのはどうじゃ?」
『えっ!?』
『まさかの個人勢が箱になる!?』
『メイドさんくる!?』
『ちょっ、マジで!?』
コメントが急加速した。