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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
解き放たれる魔王節
33/201

レイネルーデ・アーテル

 結局、あの後でもトモの態度は変わらず、でもやっぱり怖かったのは本当だったようで、トモに付き添ってユイカと合流する事になった。


 ユイカはトモの遭遇した内容――つまり東條たちによって拉致監禁状態だったこと。それと、女の子としては非常に危険な状況にあったこと――を知ると、即座に殴り込むと言わんばかりに血気盛んに怒りを顕にしていた。

 カチコミじゃーっ、って叫んで周りから白い目で見られてる。


 そんなユイカを落ち着かせつつ無事に何かされる前に助けられた点と、私が助けた時の拳法の達人とかいうトモの中の謎の設定をトモがユイカに伝えたのだけれど、さすがにそんな話をいきなり告げられても信用はできなかったらしい。


「リンネが拳法の達人って、なにそれ? なんか言いたくない事があるの?」


 はぐらされていると思ったのか、ユイカがじろりとトモに疑いの目を向ける。

 うん、まあそうなるよね、普通。


「マジだってば! 男たちバッタバッタなぎ倒してチョー強いから!」


「えー、嘘だぁー」


「むぐぐ……っ、リンネ、見せてあげて! ユイカを黙らせてやらなきゃ!」


「いや、別に信じないなら信じないでいいんじゃない? 別に私が疑われて傷つく訳でもないし」


「ドライが過ぎるよっ!? ねぇー、りんねぇぇ! 見せてあげてよぉぉ! ウチが嘘吐いてるみたいになるからああぁぁぁっ!」


「別に私が信じてほしいって訳でもないし……トモ、放して、抱き着かないで、体重かけないで」


「りんねぇぇぇっ」


「あーもう、分かった。見せるのはいいけど、何すればいいの?」


「なんかこう、ぐわっとするやつ!」


「語彙力」


 ギャルはフィーリングで生きている生き物だと最近学んだけれど、さすがに「ぐわっとする」では私も何をどうすればいいのか分からない。

 それで伝わるのは同じ感性を共有できる相手だよ、トモ。

 少なくとも私はその表現で「あー、アレね」とはならないんだ。


 結局、トモの要望で靴を脱いで回し蹴りをユイカの顔のスレスレで止めてみせたら「北欧ヤベェ」と言いながら目を白黒させて納得していた。

 北欧は拳法の縁の地ではないと思う。


 東條たちについては警察に通報しておいたし、私たちがあの廃工場を出る頃にはパトカーのサイレンも鳴っていたので、大量に捕まって病院に搬送されているはず。


 意識を取り戻し次第、警察に洗いざらいこれまでやってきた犯罪と恥ずかしくて他人に言えない過去の話を暴露するように魔法で洗脳と魂に呪いを刻んでおいたので、あとは警察のお仕事だ。


 トモの事は家まで送ってあげて、今晩はユイカが一緒にいてくれるそうだ。

 私も用事もあるので、一度帰る事にした。






「――お帰りなさいませ、お嬢様」


「…………やっぱりいた。というか、堂々と不法侵入してるし」


 家に帰って扉を開けたところで、見覚えのあるお仕着せを着た、これまた見覚えのある顔をしたレイネルーデが当たり前のように頭を下げて迎えてくれた。


「この世界の鍵など、あってないようなもの。ちなみにセキュリティ装置についてもしっかりと解除しておりますので、ご安心ください」


「堂々と不法侵入した事に対して安心しろとは」


「はて、私は陛下――もとい、凛音お嬢様のメイドです。故に不法侵入ではございませんが?」


「雇用契約を結んだ記憶がないんだけど……。まあいいや。着替えてから話そうか」


「かしこまりました。リビングにて軽食と紅茶をご用意しております」


「……ありがとう」


 他人の家に堂々と侵入しておきながら、すでに紅茶やら軽食やらを準備できる程に内部を把握しているとは。

 いや、レイネルーデならそれぐらいはできるというか、できて当然っていう謎の信頼と実績があるから驚くというより、呆れの方が強い。


 レイネルーデ・アーテル。

 彼女は彼女自身が宣言している通り、前世で魔王であった頃の私の側近であり、侍女であり、メイド。私の右腕と言ってもいい存在だった。


 種族は闇竜魔人。

 実際の姿は黒く禍々しいと言える程の巨大なドラゴンだったりする。


 前世で魔界を旅していた頃に死にかけていた子供のレイネルーデを拾い、そのまま世話してあげたんだけど、傷が治ってからも私から離れようとはしなかった子で、私が転生するに至った理由に最後まで納得しようとしなかった子だ。


 そのせいで神の一族に殴り込みに行ったり、色々と大変だったけれど……最後は納得していたはず。


 ……うん、納得した訳じゃなかったんだろうね、多分。

 じゃなきゃここにいるはずないもの。


 自室で部屋着に着替えた私がリビングに向かうと、昼食も食べていなかったせいでお腹が空いている私にこれでもかと香ばしい焼き立ての匂いを主張してくるクッキーの匂い。

 そんなクッキーが置かれたテーブル横には、すでに紅茶を淹れる準備を済ませ、ぴしりとテーブル横でこちらを立って見つめているレイネルーデの姿があった。


「……クッキー、焼いたの?」


「はい。家電では間に合わないと思い、魔法でご準備させていただきました」


「……魔法で準備って、まさか時空魔法使ったの?」


「はい。時間の流れを少々加速させて」


 ……時空魔法っていうのは、基本的にそんな目的で使うような類のものではない。

 間違いなく費用対効果が最悪な作り方だよ。


 半ば呆れつつため息を漏らしてテーブルに歩み寄っていくと、レイネルーデがこちらを見て少しそわそわとし始めた。


 ……あぁ、うん。

 そうだったね。


 レイネルーデの前で歩みを止めて両手を広げると、鉄面皮だのなんだのと言われている無表情がデフォルトの彼女の目が、大きく見開かれた。


「おいで、レイネ」


「……っ」


 短い一言ではあったけれど、その一言を待っていたらしい。

 レイネルーデがくしゃりと表情を歪めて、ぼろぼろと涙を零しながら抱きついてきて、ぎゅっと腕に力を入れてくる。


 むぅ、私より少し背が高いせいで少し上を向く形になってしまう。

 こういうサイズ感も前世と一緒かぁ。


「……あい、たかった……です……! ずっと、ずっと……っ!」


「……うん。私もだよ、レイネ」


 背も大きくて、鉄面皮なんて周りからも言われて、それでも表情一つ動かさない。

 でも、私に時折こうして抱きついたり、甘えたがるのは前世の頃からどうやら何も変わっていなかったらしい。

 そわそわして私が許可を出すまで我慢しているところも、何も変わっていないのだから、ついつい笑ってしまう。


 ぽんぽんと背中を優しく叩きながらレイネルーデが落ち着くのを待ちつつ、数十秒程。

 私は改めて口を開いた。


「……レイネ、その力で抱き締めたらこの世界の人間は潰れるから気をつけてね」


 魔力で強化してなかったら、多分私死んでるよ。

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