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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
プロローグ
3/201

母娘の会話

 配信デビューからすぐに眠ってしまったのは、おそらく私の記憶が妾の記憶と共に混ざり合う為に、敢えて意識を遮断したのだろうと思う。


 私が()と溶け合った事で、私としての自我と妾としての自我が乖離していたような奇妙な状態はすっかりと解消したらしい。

 さすがに日常生活から妾としての物言いや口調を続け過ぎるのは問題だったので、とりあえず落ち着いてくれて良かった。


 とは言っても、まだまだ意識的に『()である事を意識している』という所が正しく、この切り替えを自然にできるようにシフトしていきたいところだ。

 配信中はヴェルチェラ・メリシス――その名も見た目も前世の私と同じ存在として、前世の妾のままでいいけれど、日常生活では私、凛音としてしっかりと切り替えるようにしないと中二病を拗らせた痛い人みたいになってしまいそうだからね……。


 今はその境界にいるからこそ、私という存在を客観視している気分でもあった。

 私は自分に向けられる奇異の視線に耐えられず、内向的で、自分の見た目である銀髪や金色の瞳も隠すようにして、顔もあまり見られないように下を向くようになってしまっていたのだ。


 でも、妾であった頃を思い出した今となっては隠し続ける気はない。


 周りがどう思おうがどうでもいいという事を思い出したからだ。

 我ながら心が子供であったせいか、狭い視野で物事を捉えていたものだと思う。


「凛音ちゃん、配信見たわよ! お疲れ様ああぁぁぁッ!」


「ふぐぅっぷ」


 溶け合った精神で私のこれまでを振り返りつつ、空腹を訴えたお腹を摩りながらリビングへと顔を出すと、同時にお母さんが勢い良く私を抱き締めた。

 午後四時から配信を一時間、今は夜の七時で、夕ご飯の準備が終わってちょうど私に声をかけに来ようとしたところだったのだろう。


 それにしても、息苦しい。

 お母さんの二つの球体が私を抱き締めて離さないせいで、息苦しい。


「最高だったわ! まさに魔王様って感じだったわよ! 思わず私もひれ伏してしまうかと思ったわ!」


「~~っ、えぇい、いい加減離れよっ! 息ができぬではないか!」


「きゃっ!?」


 まったく、人の顔をいつまでも埋めさせて窒息させる気かっ!

 無駄に大きな胸をして……!


「あ、ごめんなさいねぇ~。それより凛音ちゃん、ウィッグとカラーコンタクト、外してるのね……? それにその口調……」


「あー、うむ……じゃなかった、うん。なんかこう、vtuberとして堂々とやってみたら、こういうの隠さなくていいかもって思って。口調は少しヴェルチェラのまま――あ、真似をしていると、喋れるから。だからつい出ちゃっただけ」


 我ながら少し苦しい言い訳だと思うけど……お母さんはぱあっと顔を明るくして、涙を浮かべていた。


「……よかった。凛音ちゃん、ずっと隠したがってたから……。お父さんがいなくて寂しい凛音ちゃんをずっと苦しめて……」


「ううん、それは違うよ」


「……え?」


「私はこの見た目が嫌いなんじゃない。この見た目に視線を向けてくる、周りが嫌いなだけ。私はこの見た目も、お母さんの娘に生まれた事も、それが嫌だなんて思ったことは一度もない」


 そう、私は私だけの記憶しか持たなかった頃は、確かに「この見た目のせいで」と思った事がなかった訳じゃない。けれど、私自身は自分の見た目を嫌ってはいなかった。

 ただ、目立つ見た目で、人と違うからって変に注目を浴びたり、ごちゃごちゃと煩わされるのが嫌だっただけだと、魔王としての記憶を取り戻して、心を整理したからこそ今はそう断言できる。


「お母さん、ごめんね。もう隠すつもりはないから」


 ――何を臆する事があるというのか。


 他人の目など気にする必要はない。

 見たければ見ていれば良い、珍しいと思うのなら目に焼き付けよ。

 他人がどう思おうが、()の征く道は、()自身は何一つとして変わらないのだから。


 このような事に気付かなかったというのだから、まだまだ私は幼かったと思う。


「……凛音ちゃん……ッ!」


「ふわっぷ――っやめぬかああぁぁッ! 何度窒息させる気じゃああぁぁっ!」


「ゔぇえ゛え゛ぇぇん、り゛ん゛ね゛ぢゃん゛ん゛ん゛」


「お、落ち着けい! ほら、ご飯! ご飯にするから顔洗って!」


 自分が思っていた以上に、私はずいぶんとお母さんの心を苦しめてしまっていたらしい。

 その代償として甘んじて抱き締められるぐらいは受け入れようかと思ったけれど、さすがに何度も窒息させられるのだけは勘弁してもらいたかった。




 さすがにまだ記憶が混濁しているせいか、ついつい地の喋り方が出てしまいそうだったけれど、お母さんと喋っている内に段々と切り替えられるようになってきた。


 元々小声かつ無口だったせいで女子らしい話し方というものがいまいち分からないけれど、少しサバサバとした喋り方で喋っていれば普通っぽくは聞こえるはず。そう思っておきたい。


「でも、凄いわね、凛音ちゃん……。まさか初回配信が終わっただけで、もう登録者数三千人もいるなんて」


「……は?」


「再生数なんて一万回よ? お母さん、びっくりしちゃった」


「…………は?」


 そう言われても、スマホは特に鳴っていないんだけど……って思って、ポケットの中に突っ込んでいたスマホを取り出す。


 ……ん?

 あれ、バッテリー切れてる。

 道理で通知音とかも一切鳴らない訳だった。


「………………んんんんん?」


 …………え゛、登録者数三千人!?


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