【初コラボ】ご挨拶
「……む? なんじゃ、もう始まっておるのかの?」
《始まってるよ!?》
「おぉ、すまぬ。いちジェムプロ視聴者として楽しんでおったわ」
《ヴェルちゃんマイペース過ぎない!?》
『草』
『いち視聴者発言は分かるw』
『デビュー一ヶ月ならそうだろうよw』
『エフィが振り回されるとかレアじゃね?w』
どうやら掴みは上々であったらしく、コメント欄が盛り上がる。
草、という文字が大量に流れているし、エフィさんはいつも周りを振り回す側なので、こうして振り回される側になるなんて事もない。
そのため、新しい姿を見れた事にコメント欄は喜んでいる、といったところみたいだった。
「すまぬすまぬ。……で、なんじゃった?」
《お婆ちゃんみたいな反応!?》
「失礼じゃのう。たかが千年程度、魔界じゃ多少長生きという程度の話じゃぞ? そもエルフとて長生きではないか。変わらんであろ?」
《私の公式は318歳だよぅ! 千年も生きてない!》
「ハッ、百を超えたら人間からすればもう一緒じゃぞ。揃ってBBAじゃ」
《むっきゃああぁぁぁ! BBAって言うな! というか、ぶっちゃけヴェルちゃん華のJKでしょーがああぁぁ!》
「うむ、そうじゃな。羨ましかろう?」
《イラァっときたよ……!》
『え、JKなん?』
『隠してないんかいw』
『エフィが完全に振り回されてるのはホント草』
『あっさり認めよるw』
いい感じでエフィさんがノッてくれているおかげで、コメント欄の流れは凄まじい。
正直、この速度でも全部読めるのだけれど、基本的には好意的な反応が多く、アンチか何かは即座に「このメッセージは削除されました」と表示されている。
運営の涙ぐましい努力の成果だね。
しかし、リオさんもスーさんもにっこにこだね。
モニターの向こうで笑ってるのがすぐ分かるし、コメントもそっちに気が付いてほっこりしていたり、スーさんの笑顔がレアだのなんだのと盛り上がっていたりもするらしい。
さて、実はここまでの流れはおおよそ打ち合わせ通りだ。
というのも、初手で私の挨拶、要するに名乗り上げみたいな真似をしてしまうと、視聴者の最初の印象が「偉そう」とかそういうものになるかもしれないから、最初は気をつけてほしい、なんてユズ姉さんからオーダーされていた。
そろそろリオさんとスーさんからもツッコミが入って止まる予定なんだけど、お腹抱えて笑っているのか、時々画面の中のアバターが変な体勢で止まっている。
仕方ない、もう少し続投かな、これは。
今ツッコミ入れられても困るし、待っていても沈黙しそうだし。
「で、なんじゃったかの?」
《だからお婆ちゃんなんよ、それ! そうじゃなくて、ほら! 挨拶とか、こう、ほら! 色々あるよねっ!?》
「おう、色々とか言っておる割に挨拶しか出てきておらんのじゃが??」
《ぬああぁぁぁっ、ぶっちゃけ挨拶しか浮かばんかった……!》
「お、おう……」
『これはひどいw』
『リオちもスーちゃんも完全に腹抱えとるやんw』
『エフィ、ドン引きされてるぞw』
『これでジェムプロのトップw』
《とにかく! ヴェルちゃん、挨拶!》
「うむ。ヴェルチェラ・メリシスじゃ。よろしくの」
《……え? 終わり!?》
「え、なんじゃ?」
《もっとこう、ほら! よく来たな、我が臣下どもよ! 妾こそが魔界唯一の王、魔王ヴェルチェラ・メリシスじゃ! っていう、いつものアレは!?》
「よく覚えておるの、おぬし。じゃがここはおぬしのチャンネルじゃぞ? 我が臣下が妾の為に来ておる訳ではあるまい。さすがに場を弁えるぞ?」
《うぐ……ぅ!》
「なんじゃ、そのシメられた獣みたいな声は」
《ふ……っ! し、しめ……っ! やめ、エフィ、ヴェルちゃん……! おなか、おなかしんじゃう……!》
《……ぷふっく……! わら――んふっ》
『正論パンチw』
『〆られた獣はくっそw』
『リオちとスーちゃんが流れ弾ひでぇw』
『スーちゃん噴いてるやんw めっちゃレアw』
どうやらリオさんとスーさんはもう完全にツボに入ってしまっているらしく、言葉がなんかおかしな事になっているみたいだ。
エフィさんからはさっきから『Connect』で緑化計画も真っ青なぐらい草を生やしてきているし、裏側も相当なカオスと化していた。
《……ぐぬぬぬ……、まさかヴェルちゃんが他人のチャンネルだとお行儀いいなんて……!》
「いや、妾とは違って他人の、それも有名な箱のトップのチャンネルでさすがに妾の臣下とか言えぬであろうよ。常識的に」
《ふっ、ぐっ!》
《ぷひゃ……っ》
リオさんとスーさんに追い打ちをかけるようなやり取りをしていると、『Connect』にはユズ姉さんからのチャットが届いた。
『すっごい盛り上がってるし同接も伸びてるし、いいわよ! そのまま本筋に戻って!』
いえすまむ。
「さて、そういう訳でじゃな。改めて初めましてじゃな。妾が今回、エフィから声をかけられた個人勢のヴェルチェラ・メリシスじゃ。Vも『OFA』も新人なんじゃが、なんで妾を誘ったのかについては妾も分からぬ。エフィに訊ねておくれ」
《いきなりの軌道修正!? はーっ、まさか私がツッコミに回らなくちゃいけなくなるとは……。って、リオ、スー? だいじょぶ?》
《ひー……っ、ひー……》
《…………だいじょ、んふ、ん、んんっ》
『こーれアカンヤツやんけw』
『大丈夫じゃないだろ、どう見てもw』
『リオち、酸素足りてないのではw』
『苦しそうw』
……やり過ぎた、という事はないと思う。思いたい。思っておく。
実際、ユズ姉さんは普通に喜んでいるみたいだし、同接――同時接続の視聴者数の略――も相当伸びているみたいだし、うん。私、悪くないよね?
《はいっ、という訳でヴェルちゃんの登場でーっす! 彼女の言う通り、今回は私がどうしてもヴェルちゃんを誘いたくってねー。だからジェムのみんなには声をかけず、枠をもらっちゃったんだよねー》
『さすがエフィ、やりたい放題w』
『まあOFAのジェム内トップだしな。いいんじゃね? 候補もいねーし』
『え、さっき初心者って言ってただろ。大丈夫か、それw』
『陛下はエイムが魔王だからなぁw』
《コメでも気が付いてる人がいるけど、ヴェルちゃんは確かに『OFA』は初心者なんだけど、エイムと目の良さが尋常じゃなくてねー。だから私たちのチームにはいない後方支援と監視をメインにしたスナイパーをしてもらいたいんだよ!》
『なーる』
『確かにいないな、それ』
『シールドキャラとアサルトと重火器だもんなw』
『初心者になんちゅー重荷をw』
コメント欄にもある通り、本来後方支援と監視、それにスナイパーという役割は玄人向けのポジションだからね。
『OFA』はFPSでは珍しく、既存のキャラクターを使うのではなく、自分でキャラメイクしたキャラクターを使うタイプのゲームだ。
チュートリアルでは全ての武器、全ての超能力を試せたのだけれど、実際に試合をする時に兵科と超能力をその都度選ぶ必要があって、兵科にはそれぞれの武器にボーナスがあるのだけれど、逆に兵科が適していない武器は使えなかったりっていう事もある。
それを活かす装備を探しながらマップを進み、お互いに融通しあって戦力を整えていく、という流れになるのだけれど……実はこの兵科の中のスナイパーは初心者がやるようなポジションではない、と言われていたりするんだよね。
理由は単純。
マップを把握して戦略を理解し、判断しなくてはならないこと。
それと、その役割柄、常に前線組から少し離れた位置にいなくてはならないため、見つかれば他のチームのプレイヤーにあっさり殺されてしまうリスクもあるからだね。
《あれ? そういえばヴェルちゃんにポジションの話とかしてた……よね……?》
「いや、初耳じゃが」
『えっ』
『ちょ、エフィw』
『それはさすがに可哀想w』
『PONじゃんw』
実際そういうポジションをやってほしい、とは直接言われてないんだよね、私。
エフィも慌てているのか、「え、あれ?」と困惑した声を漏らしているし。
「なに、構わぬよ。妾もどちらかと言うと後方からのキャラクターにしたいと思っておったからの。そういう訳で都合は良い」
《そ、そっか! あ、もちろん、最初は私らもフォローするよ! 初心者なヴェルちゃんに丸投げ、なんて事はしないって!》
「うむ。何かあれば言ってもらえる方が助かるの」
『素直偉い』
『後方支援と監視は一番人を選ぶからな』
『ただの芋スナだったら意味ないし』
『今日やらんの?』
《お、今日かー。……やっちゃう?》
「は?」
どうやらやる事になるらしい。
聞いてないんですけど。