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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
解き放たれる魔王節
22/201

【初コラボ】ゲリラ配信の始まり

《――はーい、枠開いたよー。こんばわー、ジェムプロ一期生、エルフの姫ことエフィール・ルオネットでーす。はい、続いてリオ》


《がおー、ジェムプロ二期生の獅子歌リオン! 今日もよろしくー! ほい、スノウ!》


《ん。ジェムプロ四期生、雪瑪スノウ。よろ》


『ばんわー』

『こんこん』

『始まった!』

『突発ゲリラコラボとか助かる!』


 別モニターにて凄まじい速さで流れていくコメントを見やれば、そこにはそれぞれの推しのファンからの挨拶が溢れていた。


 ジェムプロはコラボ配信をする際、ゲーム内容によって誰か一人の枠で配信を行うのだけれど、今日の枠はエフィールことエフィさんの枠である。


 最初はエフィールと呼び捨てにしていたのだけれど、それだと他の視聴者からは失礼だのなんだのと言われてしまう可能性もあるので、ならば愛称で呼び合ってはどうか、というユズ姉さんの提案で私もエフィと呼ばせてもらっている。

 ちなみに、リオンさんはリオ。スノウさんはスーという愛称が定着しているので、その呼び名を私も使い、私に対しては基本はヴェルちゃんで統一されている。


 この辺りも何度かコラボしていく内に変わっていったりもするのだろう。

 ジェムプロはコラボ回数を経る毎にお互いに遠慮がなくなっていって、凄く自然体な配信ができていて和む、みたいな人気もあるしね。

 視聴者を含めての掛け合い、V同士の軽いプロレス――要するに煽り合いや言い合い――が始まったりするんだよね。


《今日はさー、突発コラボなんて組んじゃった訳なんだけどねー。いや、もう理由はみんな分かってるんじゃない? モノロジーでだいぶ出回ってるしさ》


《つかウチら三人でコラボって大体アレだもんなー》


《ん、いつも通り》


『お、OFAの大会か!』

『メッチャ楽しみw』

『ジェムのあと一人どうすんだ?』

『新人いると勝つの難しいよな』


 あぁ、ユズ姉さんが言っていたのはこういう事か、なんてコメントを見ていて思う。


 悪気のない、悪意のない一言。

 新人がいると勝てない、三人は大丈夫だけどあと一人、なんて言われてしまうと、その枠に入り込むというのはなかなか難しい。

 それでいて、エフィさん達のファンとして推しには活躍してほしいと思っているから、なかなかその一人にかかるプレッシャーは凄まじい。


 もしもジェムプロであと一人を見つけなきゃいけないとしたら、裏で相当練習していい成績を収められるようになったり、もしくはよっぽど戦い慣れて高いランクにまで育っていないといけなくなってしまう。

 精神的な負荷だけじゃなくって、そういう実力的な問題も付き纏ってしまうのはなかなかに苦しいものがあるんだなぁ、と実感した。


《そうそう、大会なんだけどね。ほら、ウチってそれぞれ結構独自に動いてるから、なかなか難しくてねー。だから今回は外部から一人お願いしようって話になってるんだよー》


《うますぎてウチらが足引っ張ったりしなけりゃいいけどなー》


《ポンしてシカトとかされたら泣く》


『おー、外部かー。ありだね』

『Vで個人勢ってこと?』

『有名どころはもう組んでるっぽいぞ、ばっちゃが言ってた』

『モノロジー見ると個人勢でいい人大体捕まってる』


 ばっちゃが言ってた、ってどういうルーツで出てきた言葉なんだろう。

 でも本当にお婆ちゃんとかが『OFA VtuberCUP』の情勢をチェックしてたら面白いかもしれない。

 仲良くなれそう。


 ちなみに「ポンする」とはポンコツ、要するにちょっとしたミスとかを指す言葉だね。

 だからそういうミスが多い人は「ポン(PON)」と呼ばれ、「親しみを持てる」という言葉として使われていたりする。

 普通にポンコツって悪口なんだけどね。


《それがさー、いたんだよね、一人。初心者だけど、こう、光るモノがある子をね》


『え、誰それ、そんなんいた?』

『聞いた事ないんだけど』

『初心者は無理やろww』

『陛下だったら最高w』


 おぉ、なんか私の事を知ってる人がコメントにいるっぽい。


 Vtuber業界は人数だけならかなりの数がいる。

 もっとも、その多くがチャンネル登録者数二桁とか、三桁とか、少し頑張って四桁にいくかいかないか、というのが現実的なところだ。


 Vの見た目がどれだけ良かったとしても、盛り上がらない配信は誰も見ない。

 V配信はどこかラジオめいた役割も担う部分があって、トークが面白くて声の聞き心地が良ければ視聴者として延々と放送を流しながら他の事をしたりもするけど、そのトークが面白くないと感じればすぐに他の配信に移動してしまうという視聴者の性質上、トーク力は必須とも言えるからね。


 私が配信を見たりしても、大体人数の少ない配信は口数が少なかったり無言の配信とかだったりで、「見ていよう」とは思えないからなんだよね。


 厳しい話ではあるけれど、よっぽど他の要素――ゲームとかが普通じゃないぐらいに上手かったりとかしたとしても、そうそう定着しない。

 何故なら「生配信として見るのが楽しい」という付加価値が皆無だからだ。

 お手本だけを見たいなら解説動画を見る方がいいし、そもそもVtuberが配信している必要性がないから、とも言える。


 選べるコンテンツである時代だからこそ、こうしたものに対する切り替えの早さ、ドライさは凄まじいね。


 そんなV業界において、『箱推し』という文化は個人勢とは違って非常に強い。


 たとえば同じ箱であるのならコラボを打てるし、推しとの共通の話題ともなるので箱に入ってきた人はだいたいの視聴者ならチェックする。

 結果として「ソロ配信はあまり面白くない配信だけれど、誰かと一緒ならツッコミ、あるいはボケが面白い」という良さを見つけやすくなったり、他の推しからの話を聞いて、それがきっかけでソロ配信を見るようになるケースも少なからず有り得るから。

 要するに、ソロだったら開花しないようなキャラクター性というものが定着し、そのキャラクター性が愛されるという可能性はいくらでもあるからだ。


 その一方で今回のように箱だからこそ苦しむ要素というものもあるのだから、まあ一長一短というところではあると思うけど。


 とまあ、箱推しについてはさて置き。


 そういう業界だからこそ、個人勢の伸びというのはなかなかに難しいものがあったりするのが普通なんだよね。

 ジェムプロとコラボできる程の個人勢なんて、「ママ」――Vの原画担当など、生み出したクリエイターに対する呼び名――以外にはそうそういない。


 ……我ながら、なんでこんなトコに混ざってるんだろうね。


《ふっふっふー。彼女を見つけたのは私なんだ》


《彼女? 女の子?》


《ん、男は無理。私、喋れない》


《いやいや、女の子だよー。というかスーは女相手でもあまり饒舌とは言えないと思うけど……?》


『それはそう』

『男が絡むと視聴者も減る。というか俺も見ない』

『分かりやすいぐらい男に敏感なワイらも安心』

『ジェムプロはそういうトコ分かってるからな』


 うん、分かる分かる。

 なんかこう、普段女の子同士でわいわいきゃっきゃしてるのに、そこに異性という異物が入ると途端にすんってなるよね、V視聴者は。


 トラウマ抉られてるのかなってぐらい視聴者伸びないもんね、異性コラボ。

 面白い事があったら切り抜かれるだろうし切り抜き動画でも見ればいいや、みたいなモノロジー多いもんね。


《もしかしたら知ってるかもしれないんだけどね。デビュー一ヶ月にしてついにチャンネル登録者数5万人! 個人勢、しかも堂々とした態度をしながらも、実は華のJKなんていうリアルをポロっとしちゃった異界の魔王様! ヴェルチェラ・メリシスさんに来てもらう事になりましたー! はい、拍手!》


《わーわー! ウチも知ってる! なんか、うん、なんかスゴい子!》


《リオ、語彙力》


『誰それ?』

『あー、知ってるかも。切り抜き見た』

『陛下きちゃあああ!』

『個人勢でデビュー一ヶ月で5万って、前世有名人?』


 パチパチパチと力いっぱい元気に拍手してくれてるのはリオで、その後ろでペツペツと小さく聞こえてくるのは多分スーちゃんの拍手音かな。


 コメントも私を知っている人も少しはいるらしくて、なんだかんだで反応はあるみたい。

 そんな中、エフィが私の事を色々と紹介してくれていて、自分がデビュー配信から気に入っていた、みたいな事を言えば、先日の私の配信に対する反応モノロジーをしていた事なんかもコメントにツッコミを入れられていた。


《――それで、だよ。やっぱり知らない人もいると思うからね。今日、呼んじゃった》


『は?』

『テヘペロ感出しながら言うなやw』

『その子も参加ってこと?』

『すごw 個人勢でそんな早くジェムプロコラボに混ざるってマジかw』


《はい! そうです! 魔界の魔王、ヴェルチェラ・メリシスさんです! という事で満を持して、どうぞー!》


 ハードルを思いっきりあげるような物言いで声をかけられ、私はようやく自分のマイクをオンにした。

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