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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
解き放たれる魔王節
19/201

にぶにぶユイカ

 ユズ姉さんの感情ジェットコースターの後、エフィールさん、リオンさん、スノウさんとの初顔合わせ――という名のオンライン挨拶会――の日程を決めた。

 それが今夜の予定。

 なので今日は学校から寄り道せずに帰る予定だ。


 今はもう期末テストも終わって、あとはもう春休みまではほぼ自由登校みたいな状態だ。

 消化試合ならぬ消化登校。

 行っても行かなくてもいいって感じ。


 正直言うと今から全部休んでしまっても出席日数が問題になるって事もないし、配信の作業とか色々やりたい事があって、あまり行く気はなかったんだけど……トモとユイカが訓練校と仕事の都合で出席日数が足りず、登校しなくちゃいけないという事で巻き込まれたというか、ね。


 まあいいんだけどね。

 いざとなったら午前中で帰るし。

 ウチの学校はその辺りに対して寛容というか、割りと普通に自分で選べるから。


 ともあれ、そんな訳で一応登校。

 今日は大寒波がどうのと言われてやたらと人が滑って転びそうになってた。

 分かる、あっちこっち凍ってて滑る滑る。

 実は雪が降ってる日より、翌日の方が面倒なんだよね……。


「お、おぉおぉおはははよ、リ、リン……」


「おはよう。すっごい寒そうだね、ユイカ」


「さ、ささ、寒いよ……っ!」


「凍死しそうな遭難者みたい」


 ぶるぶるぶるぶる震えながら声をかけてきたユイカは、スニーカーに学校ジャージにスカート、上着とジャケットという完全防備。

 対する私は学校ジャージにスカート、上着はブレザーの上からジャケットを羽織って前を開けているという、あまりもっこもこになっていない格好だったりする。


「な、なな、なんでそんな薄着なの……!? さ、寒くないの!?」


「ほら、私北欧の血が入ってるから」


「あ、そ、そっか……! 今日だけは私も北欧の血、ほしい……!」


「関係ないけど」


「信じたのにっ!?」


「あはは、血で寒くならない訳ないじゃない。寒さに強いだけだよ」


 嘘である。

 むしろ私も寒さには弱い方だ。

 ただ、今の私、魔力で肌の一ミリ範囲でやんわり暖房かけているような状態なんだ。

 少し温度を上げればこの寒さで半袖短パンとかでも普通に過ごせちゃうんだ。ごめんね。


 さすがに学校の校舎内に入ると寒さも多少は落ち着いたのか、ユイカが少し緩んだ笑みを浮かべてため息を吐いた。


「ああぁぁぁ……風がないだけでも助かるよお……」


「うん、そうだね」


「ジャケット脱ぐのはまだ早くない!?」


「寒さに強いから」


「すげーな、寒さに強いひと!」


 適当に言ってるだけなのにノリで受け入れてくれるあたり、私、ユイカのこと大好きだよ。ちょろ……げふん、純粋で。

 私が脱いだものだから自分も大丈夫だと思ったのか、ユイカがもこもこジャケットの前を開けて、目を見開いたかと思えば、ジャケットの前を開ける時の倍の速さで即閉じ。身体を縮こまらせた。


「リンネ、私、寒さに強くなかったわ……ッ」


「知ってるよ……その服装見れば誰でも分かるレベルだもん……」


「えっ、そんなに!? わりと遠慮したけど!?」


 何に遠慮したんだろう。

 大寒波に遠慮?


 たまにこういう謎の言葉が出てくるのが面白いんだよね、トモとユイカって。

 使い方は全然違うんだけど、なんとなく言わんとしている事が理解できるような発言だったり、独特な表現だったりね。


 いや、遠慮は分からないけど。

 多分、ファッション的に妥協したとか、配慮したって事を言いたいんだと思う。

 きっとそう。知らないけど。


「そういえば、トモは今日休みなの?」


「ん? いや、何も聞いてないから来るんじゃないかな?」


「あれ? トモとユイカって家近いんだよね? 一緒に来てるんじゃないの?」


 私のイメージだと基本的に二人はいつも一緒だと思っていたから、ちょっと意外。

 なんかこう、百合的な匂いはしないんだけど大親友って感じだから距離感も近いし、二人ともアイドルか何かの訓練生って話だったはずだし。


「んー、まあ家近いから大体一緒に来るけどさー、家出るタイミングって日によって違ったりもするからね。髪型決まんないとか、色々あるからさー」


「ふ~ん、そういう感じなんだ。家近いって話だし仲いいみたいだから、だいたい朝は一緒に来てるのかと思ってた」


「先行っててー、ってなって、電車来るまでに合流できなくて校門前でやっと合流とか、よくあるよ? どうせ電車二駅だし、どうしても一緒に乗らなきゃって訳でもないからねー。幼馴染だから一緒にいても苦じゃないけど、いつも一緒にいたいって訳じゃないからさー」


 ふむ、そういうものなのかぁ。

 私には幼馴染と言えるような相手もいないし、ちょっと新鮮な感覚と言えば新鮮な感覚なんだよね。


「それにトモってば、バレンタイン近いから最近忙しいみたいだし?」


「え、トモって好きな人いるの?」


「好きっていうより、憧れっぽいけどねー。まあ詳しい話は私からじゃなくてトモから聞いた方がいいと思うよ?」


「――ユイカ、今の流れで喋ったら襲ってたわ」


 うん、後ろからトモが近づいてきているのに気が付いていなかったらしい。

 むしろ私は後ろにいるトモに向かって質問してたんだけど、ユイカは自分に質問されたと思ってたのかも。


「っ!? トモ!?」


「おはよ、トモ」


「はよ、リンネ。こっち気が付いてたよね?」


「うん。だからトモに訊いたつもりだったんだけど」


「えぇっ!? 私だけ気付いてなかったってコト!?」


「にぶにぶユイカだもんね。ま、変なこと言ってなかったからいいけど。許してしんぜよう。んで、アタシのバレンタインのは、アレだよ。義理だよ、義理」


 そうは言いながらも、けれどトモの頬は寒いところから暖かいところに移動したからという訳ではなく、赤く染まっていて、笑顔も恥ずかしさを誤魔化すようなものだ。


 ……恋じゃな、恋!

 げふん、いけない、私の魔王の部分がめっちゃテンション上がってしまった。


 魔王時代にも自分は恋愛に興味なかったのに他人の恋愛っぽい話とかを聞くのは好きだった。

 というか、恋愛してる感じで恥ずかしそうにはにかむ姿が見ていてほっこりした。

 あれは可愛い。

 異論は認めない。異論は拳で叩き潰す。


「アタシさ、訓練生だから。恋とか今はなるべくしたくないんだよ。でも、なんか気になっちゃって、ちょっと集中できなくなりそーだから。だから義理で渡して、ちゃんとおしまいって決めてんだ。これ以上はいかない。けじめってヤツ」


 それは……うん、本人が決めているならいいと思う。


 私は恋愛っていうものがよく分からないけれど、きっと中途半端に想い続けるよりも、諦めきれずに曖昧にさせるよりも辛い選択なんだろうね。

 でも、終わらせると本人が決めていて、それを選んだのなら、周りから何かを言うべきじゃないんだろうな。


「……そっか。ウチら、そーゆー恋愛って問題になるしね」


「だね。だからけじめなんよ」


 ……自分の夢のために、諦めなくちゃいけない、かぁ。


 なんだかそれって、すごく矛盾してると思う。


 なりたいものになりたい。

 そういう夢っていう想いは叶えたい。

 だから、好きになったっていう想いは諦めなくちゃいけない。


 別にどっちも取っていいんじゃないのかなって思うのは、多分私がトモやユイカの業界を知らないから言える事だったりするんだと思う。


 でも、さ。

 なんとなくもやもやするんだよなぁ、私としては。


 なんでこの世界は、こんなにも諦める事が正しいみたいな考えが多いんだろうか。

 他人の目を気にして、ルールに則って動くことだけが正義みたいになっていて、本当に大切なものを押し殺して笑顔を振り撒く。


 それって……なんとなく、息苦しいなって。

 トモの笑顔を見て、私にはどうしてもそう思えてならなかった。

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