テスト終わりの配信準備
期末テストの真っ最中、私はピアノ演奏動画をアップしていた。
テスト勉強? フハハ、魔力最高。
圧倒的に動画作成と編集の方が時間を使ったよ。
結局動画編集するのって割と時間かかるんだよね……気がついたら数時間経ってるし。
ピアノは結局他の配信者の人を参考に手元と足元を映しつつ、途中で話してみたりっていう感じでちゃんと私がやっているっていう事をアピールしておいた。
私以外の誰かがやってる、みたいに言われたくないし。
動画のコメントを見る感じ、普通に受け入れてくれてる人が多い。
アンチが多いかな、とも思ったんだけど、なんだか割と下火になったというか、落ち着いた印象かな。
ただ、腕が細いとかそういうのはいらん。
何を見ているのかと言いたい。
Vtuberなのに容姿を褒められて喜ぶ訳がなかろうに。
あとはお絵描き動画だけど、こっちについてはやっぱり生放送でやろうかなと思ってる。
というのも、ゲームで絵を描いてNPC相手に売っていく、みたいなゲームがあるので、そちらでやればいいかな、って。
あんまり本格的なものとか描いてもしょうがないし、デフォルメしたものを描いていけばいいんだし、時間がかかるようなものはモノロジーでアップするつもり。
学校もあとは新学年に上がるだけという事で落ち着きつつあるんだけど、相変わらず東條とかいう男子は私に声かけてくるし、東條狙いの女子たちが明らかに私を敵視しているらしく、学年が変わるまでに何かありそうな気がしてる。
どうせ何か仕掛けてくるにしても、クラスが変わったりする前じゃないとできないだろうし。
まあ、私の方でもすでに仕掛けはできているし、何かあるまでは放っておけばいいかな。
お母さんは前に言っていた通り長期撮影で絶賛お出かけ中。
私も魔力を使えるかを試す為にちょっと遠出したりもしたけど、うん、前世ほどの力はないけど充分に魔法は使えた。
転移魔法も学校の屋上に設定したし、いざとなればギリギリまで寝てられる。
うん、素晴らしい。
ちなみに飛行魔法なんてものもあったりするんだけど、さすがに空は飛ばない。
この世界で空を飛ぶのは目立ち過ぎるからね。
姿を消していればどうにでもなるけど、そこまでして空飛びたいとも思わないしなぁ。
まあ、そんな訳で。
私は現在、目の前に表示されている文字から現実逃避していたりする。
『ウチのエフィールとコラボしてくれない??』
……うん、ユズ姉さんからのチャットに書いてあるコレ。
別に私個人としては全然問題ないんだけれど、どうしたものかな、と思う。
相手は登録者数150万人超え、ジェムプロの代表的なVtuber。
対する私は登録者数3万……あれ、3万になってる。まあそれはいいとして、どちらかと言えばまだまだ知名度なんてない、ただの個人勢。
そんな私たちがコラボ配信をするなんて、一体全体なんのメリットがあっての提案なのか分からない。
しかも私、自分で言うのもなんだけど炎上したりとかもしてるのに。
『えっと、私はいいんだけど、何が目的で?』
『エフィがあなたとコラボしたいって言ってるのよ』
返信意外と早かった。
あぁ、そっか、一応コレもユズ姉さんにとっては仕事の一環だもんね。
まあ、断る理由もないんだけどね。
私の方もそういえば収益化がようやく通ったので、その御礼配信とかもやろうと思ってる。
『私は大丈夫。だけど、そういう感じでコラボ通ったりするんだね、ちょっと意外』
『本来ならちゃんとメリットがあったりしないとなかなかできないものだものね。でも、メリットがない訳じゃないのよ』
『え、そうなの?』
『えぇ。エフィのやる気が出るわ』
……それは……メリット……?
予想していなかった返答に思わず固まってしまう私を置いて、ユズ姉さんがチャットを入力中、と表示され、新たなメッセージが届いた。
『あの子は精神的な波があるから、やる気を出させるっていうのは大事なのよ。場合によってはあの子の意向通りにいかないなんてことも珍しくないもの』
『なんか大変そうだね?』
『……まあ、そういう事でジェムプロとしてもメリットがない訳じゃないわ。これはジェムプロからの依頼と考えてもらっていいわ』
なるほど、ジェムプロからの依頼、ね。
つまりユズ姉さんは仕事として私にアポイントメントを取って交渉している、という形になるんだろうね、きっと。
まあ恩返しって訳じゃないけど、ユズ姉さんにはVtuberを勧めてもらって機材なんかの選定にも付き合ってもらっているし、私としてもなるべく力になってあげたいとは思うし、うん。受けようかな。
『わかった、じゃあ受けるよ。いつ? あと、内容は何をしたいとか聞いてる?』
『ありがとう、助かるわ! リンネの春休み中のどこかで調整させるわね。明後日までにエフィにまとめさせるから、明後日の夜にまたそっちに行くわね』
『わかった。こっちは平気だから無理しないでね』
『ありがとう、本当に助かるわ。また何かあれば連絡するわね』
ふむぅ、どうしたものかな。
エフィールさんの配信は基本的にFPSゲームが多い。
しかもかなり強い配信者として有名で、色々な大会にも顔を出しているらしいし、Vtuberの中でも最強の一角である、という話だったはず。
私はそういうゲームをやった事はなかったけれど、エフィールさんと一緒にやれるゲームって言ったらこういうゲームになるのかな?
エフィールさんの動画を見ながら、彼女がやってるゲーム配信動画を色々見ていく。
うーん、最近彼女がやってるゲームだと『OFA』というFPSゲームらしい。
四人一組で最後まで生き残っているチームが優勝するというチームサバイバルゲーム。
拾った銃やナイフ、手榴弾なんかを使うのと一緒にキャラクター毎に超能力みたいな必殺技があり、それを使って戦うというものらしい。
今夜は収益化の御礼配信をするつもりだったけど、御礼を言うだけじゃ早く終わっちゃうし、どうせなら収益化御礼配信と組み合わせて少し触ってみる配信をしてみよう。
早速とばかりにダウンロードを開始しつつエフィールさんの動画にあった初心者向けの解説動画を見ていく。
武器によって反動、飛距離、威力なんかも違うのかぁ。
能力もだいぶ違うみたいだし、マップもかなり広いからマップを熟知してないと難しそうだ。
前世の私なら建物とかもまとめて吹っ飛ばしただろうなぁ……。
建物ふっ飛ばさないで戦うとなると、構造を理解してないと裏をかかれたりもするだろうし。
夜の配信に向けて、しばらく練習してみようかな。
いや、初心者でうろちょろしていってる方が配信としては面白いかも?
初心者だって分かってもらいやすいし。
《――こういう曲射とかはグレネードの方が楽だねー。っしゃー、ヒットォッ! 見たか、おらぁっ! 芋野郎!》
……うん。
ほら、こういうゲームだしね、うん。
なんかこう、興奮して口悪くなったりするみたいだね。
たまに配信者の人ですっごい口悪くなって台パンして、ってすごい事になるのがお約束だったりするのは動画で何度も見たことがあるよ、私も。
アイテムがあちこちに落ちているのを拾いながら装備を整えていかなきゃいけないみたいだけど、だいたい何がどこにあるのかは決まってるのかな?
二倍速再生にして内容を見てるんだけど、高低差、建物の中と外、段差っていう、要するに何処にどう敵が動けるのかを理解できていないと予想できていないところにいる感じだ。
とりあえずモノロジーで御礼配信プラスゲーム配信ということを宣伝して、サムネイル作ろうっと。