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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
プロローグ
1/201

【初配信】魔王の覚醒 表

明けましておめでとうございます。


こちらは不定期更新となりますが、週2~3程度の頻度維持をしていく予定になっています。

感想欄については反応できない可能性が高いため、予め閉じていますので、ご了承ください。


それでは、よろしくお願いします。




 ――どうしてこうなった?

 混乱して頭の中の大多数を占めていたのは、うるさいまでにその一言の羅列であった。


 しかし時というものは人の感情や願望、あるいは後悔といったものに遠慮する事はなく進み続けるもので、秒針と長針が頂点で重なった瞬間、己の混乱や動揺の一切をまるで無視して机の上のクリックを押し込んだ。


 オープニング曲として流れ出す、()が作ったアニメーションとBGMが流れ、画面の中ではデフォルメされたキャラクターが芝生の上で陽光を浴びながら鼻提灯を浮かべて寝ている姿が映し出されている。

 それと同時にネットの海を漂う視聴者らのコメントが流れていくその様を、妾の頭は未だに混乱している最中(・・・・・・・・)だというのに冷静に全てを読み、理解していた。




 ――ど、どうすれば……?


 ――そんな思考など今は捨て置け、どうでも良かろうに。




 混乱する()と、この状況においてもどこまでも冷静な()という相反する思考が一斉に噴き出してぶつかり合うという思考の混雑ぶりは酷いものだ。

 未だに溶け切らない『かつての妾であった頃』の記憶を()がぼんやりと見つめており、『今の私の記憶』はすでに()が掌握している。


 ―――故に、自意識として未だに溶け切っていないらしい妾と私(・・・)は今、基本的に妾が主導権を握っているおかげでフリーズも狼狽も表に出さずに冷静に対応できておる。

 我ながら今生の私(・・・・)とは、随分とまあ控えめな性格になったものだ、と主導権を握った()の人格が口角をあげた。


「――くはっ、何やら面白い事になりおったのう」


 妾を忘れておった頃の私であれば、決して笑えるような状況ではなかろう。

 が、妾を思い出した今の妾にとって、これ程片腹痛くなるような状況はそうそうなかった。


 ――――異世界転生。

 そう、妾があの長き魔界における生に飽いて実践した、生命に関わる超越魔法は成功したのだ。


 故に私は妾を思い出し、妾と私が溶け合おうとしている。

 もっとも、どうにも()は随分と妾とは似つかわしくない存在であったようで、いわゆる根暗のオタク女子高生でぼっちとやらであったようではあったようだが。


 それも無理からぬ事よな。

 ()()も知らない父親の顔ではあるが、ずいぶんと綺麗な顔を持った北欧人が父親であるらしい。

 生粋の日本人の母と血が繋がる娘であるというに、妾はどうやらその北欧系の血が濃かったとされたせいか、銀髪に金色の瞳を有し、顔の造りも日本人らしい醤油顔ではない。


 そう、その顔は私が妾であった頃のものと瓜二つ。

 転生とはどうやら、魂が決まっているのであれば器である肉体の造形は似通うものであるらしい。


 ともあれ、そうしたいわゆる派手顔のせいか、周りからはかなり奇異の視線を向けられたようで、すっかり内向的な性格になっておったようじゃな。

 髪は染めるのが嫌だからと黒いウィッグを被り、眼には黒いカラコンを入れておったようじゃが……フン、煩わしいので外してやったわ。


 等しく妾と私は同一の存在であるというのに、記憶が溶け切らないせいかまるで異なる存在が同居しているように思えてしまう。


 とは言え、だ。

 今はそのような些事に構っていても仕方あるまい。


 続いて『OBS』をいじり、映像を出す。

 そこは薄暗い城であり、遥かに伸びた赤い絨毯の先、玉座に座るかつての妾(・・・・・)を絵にした存在がおった。


 その絵は口角を上げてにやりと笑い、頬杖をついた右頬とは反対の左目を眇め、妖しい光を放った。


 本来ならばこのタイミングで()が録音していた、半ば棒読みめいた台詞が流れる事になるのじゃが――今の妾はそのような愚を看過するつもりはない。

 映像の音声をオフにして、マイクをオンにし、かつての妾が口にした時と同じように、配下の者共へと言いつけるように、傲岸不遜な物言いを思い出しながら、口を開いた。




「――頭が高い。跪け、誰の前だと思うておる」




 くくっ、と笑い声を噛み殺し、嘲るような物言いになってしまったが――まぁ良かろう。

 不敵な笑みを浮かべる映像の妾の表情のそれが覗かせる表情は、まさにその物言いこそが相応しい。


 そんな妾の声に合わせて画面が視点の主が跪く足先と赤い絨毯を映すのを見て、妾は軽い調子で続けた。


「くくっ、冗談じゃ。許す、面をあげよ」


 その直後、画面が暗転し、実際に妾の身体の動きに合わせて動く2D映像に切り替わる。

 うむ、我ながら最高のタイミングじゃの。


 しかしなんじゃ、コメントがまばらになりおったようじゃが、ラグったかの?

 いや、よくよく思い返してみれば、妾が魔王として配下の者に話しかけた時も、妾に見惚れ言葉を失い惚ける者は少なくなかった。

 いくら作り物の絵とは言えど、妾のカリスマ性に当てられて正気を保てない者がいてもおかしくはなかろう。


「さて、と。自己紹介、とやらは良かろう。どうせこの場で流れるように語ってみせたとて、貴様らは今、妾に呑まれ、言葉の半分も拾えておるまい。故に、必要な事だけに絞って声を聞かせてやろう。有り難く思えよ」


 うむ、妾に見惚れて惚けておっても、時が経てば落ち着くというもの。

 痴れ者めと追い出してやるところじゃが、この時代の人間ども、ましてや動画でそのように妾が告げたところで意味などなかろう。

 ゆっくりと進めてやりながら待ってやろうではないか。


 そう思いながら、リスナーのファンネームやハッシュタグ等の諸々を決めておいたので、そのスライドを表示させる。


「妾はここではない異世界の魔界を統べる唯一無二の魔王、ヴェルチェラ・メリシスじゃ。年齢は千を超えてからは数えておらん。崇拝と畏敬の念を抱いて陛下と呼べ。ま、配信の方針としては、まあゲームやら雑談やらがメインになるんじゃが、その辺りは妾の気分次第じゃな。ファンネームは……そうじゃな、貴様らは妾の臣下じゃからの。当然、ファンネームとてそれ以上でもそれ以下でもない。妾の臣下である以上、その責と重みを自覚し、節度ある態度を心得よ」


 ()であった頃はこの辺りは視聴者と決めていくつもりであったのじゃが、そんなものはいちいち決めてもしょうがなかろうよ。言いながらスライドに直接文字を打ち込み表示させていく。


「次に、配信に関する事をモノローグする際のハッシュタグじゃが、『陛下のお言葉』で良かろう。妾の配信についてはいちいち細かく決めぬ。必要な時に必要なものだけ決めれば良かろう」


 細かく決めても構わんのじゃが、そこはどうでも良い。

 ()であった時に考えておいた唯一のものがこの『陛下のお言葉』じゃが、これだけあれば充分であろう。


 ちらりと見てみれば、視聴者数が何やらずいぶんと増えておるな。

 先程まではせいぜい百にも届かぬ程度であったというのに、何時の間にやら八百を超えて千に近づいてきておる。


 それと同時に、何やら妾に対して文句を言うような輩も現れたか。

 アンチとやらであろうが、しかし無名である妾にそんな真似をしに来るというのだから、これは面白い。


「くはっ、堪え性のない連中よな。妾に文句を言うためにわざわざ配信を観て、届くかも分からぬ嫌味を吠えておるのか? くくくっ、愉快よな。貴様らのような愚か者のおかげで、妾の視聴者は増えておるようだ。礼を言おう」


 どこから妾を知ってやってきたのかは知らぬが、それにしてもこうして話題を提供してくれるというのであれば拒む道理もない。

 関心を持たれなければそこに価値は生まれぬ。たとえそのきっかけが何であろうと、最初を踏み出せるというものは大きな意味を持っている。


 もっとも、妾とてそのような者達と同じ土俵に立つつもりがない事ぐらいは明言しておいた方が良いであろう。

 妾にすでに心酔した者とそうではない者の間でコメント欄が僅かに荒れ始めたらしいしの。

 ここらで釘を差しておくべきじゃな。


 さて、愉快に踊れよ。


「妾が言えることは一つ。本当に妾のやり方が気に喰わぬと言うのであれば、さっさと()ね。妾はやり方も意見も曲げる気はないのでな。貴様らが好きに選べば良かろう? 妾は一度たりとも、貴様らに媚びた覚えはないからの。万人が万人、妾を観て欲しいと思うとらん、好きにせい」


 そもそも妾は今や王ではない。

 妾の言葉を聞かなければ不敬とされていたあの時代と今とでは違うのだからな、好きにすれば良い。


「また、妾に代わってそのような者に対して言い返すような輩もいらぬ。妾の気持ちを代弁しようなど、身の程を知るがよい。妾は臣下を守りこそすれ、臣下に守られたいと思った事はないからの」


 ま、それはこの時代の配信者にしては異端な考えであるとは思うがの。


 ……それにしてもコメント欄。

 御意、の一言で埋め尽くされ過ぎておらんか?


 貴様ら、いくらなんでも心酔が早すぎるのでは??


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