原発再稼働した結果……
「こちらJFF現場です」
リポーターが伝える。JFFとは燃料棒を作る会社だ。
まただ。
またやったのだ。あれほど福島第一原発事故後に有識者たちが警告したのに、この国はまたやったのだ!
そう、ステンレスバケツで二酸化ウランを運ぶ事故。この国はどこまで人命が軽いのか。臨界事故が起きたのである。『裏マニュアル事故』という名の事件をまたやったのだ!!
「あー、制御棒が~~~!!」
築40年超の原発は設備がもろい。制御棒引き抜け事故が地震のたびに起こる。震度5以上なんてどこでも起きるのに、だ。燃料棒が落ちる!!
「現実を見ろ」
福島第一原発事故から11年、電力不足に耐え切れない日本人は「現実を見ろ」の声に押され「次世代原発」に頼ることになった。本当は次世代でも何でもない。20世紀のローテク技術である。「次世代革新軽水炉」とはただの小型軽水炉でしかない。本質は一緒である。ただ小さいだけなのだ。小型モジュール炉にするパターンが最も多い。SMRという。出力30万キロワット以下の原発である。これなら確かにリプレースできる。なんとSMR無人運転に成功した!
しかし出力10~20万キロワットでは既存の原子炉も活用しないといけなかった。そう、ダウンサイジングだからである。
築50年超の原発を活用した結果……。
「こちら現場です。配管から、放射性物質が漏れてます!! 水蒸気が上がってます!」
ヘリからカメラマンが映すのは水蒸気が漏れてる原発。配管は錆びるのだ。そんなことも日本人は分かってなかった。
原発から半径20km圏内の全員はまたしても全村避難。本来避難できないはずの高齢者はまたしても強制移動中に尊い命を失った。
そもそも築40年超の原発を動かす国なんて日本だけだ。
「俺知らない」と言いながら原発の電気を使い、
「あいつがやった」と言いながら臨界事故、
「しょうがない」とうそぶく作業員。しかも再稼働のスイッチを押す、
「済んだこと」と言いながら福島第一の教訓を忘れる。
この現象を頭文字を取って別名『オアシス』と呼んだ。
「よくわからないけど前任者がやってたから『ヨシ!』」
セキュリティーカードの貸出だ。日常茶飯となっていた。原発作業員というのは出入りが激しい。結果……。
「こちら山形原発です。見てください。原発からなんと小型原子炉の燃料棒が、盗まれてしまいました!!」
テロ支援国家に核物質が渡ってしまった! リポーターが伝える。小型原子炉は無人運転である。技術倫理がなってないとこうなるのだ! 小型原子炉のサイズは従来型の十分の一。ということは燃料棒の大きさも十分の一だからキャスクに格納して船に運んでしまえば持ち出せるのだ!
「今日も衰退国事象確認、ヨシ! 指差呼称、ヨシ!」
◇◆◇◆
「ウラン卸価格が従来の3倍になったので電気代を引き上げます」
電力会社の社長が電気代値上げを伝える。我が国はウランだって99%が輸入なのだ。何が「現実を見ろ」なのだろうか。しかもウラン鉱石の大半はなんとロシア製なのだ。つまりウクライナ側に着いた国は主にカナダ産ウラン鉱石やオーストラリア産ウラン鉱石を使うことを余儀なくされるのだ!
「あれ~!? おかしいわ? 再稼働したのに電気代上がってるじゃな~い!?」
その時専業主婦は気が付いた。揺れている! 例のチャイムが流れる!
「緊急地震速報です 強い揺れに警戒してください 緊急地震速報です 強い揺れに警戒してください」
「えっ!?」
「緊急地震速報が出ました。倒れやすい家具などから離れてください……TVのスイッチを切らないでください」
机の下に隠れる主婦。皿が割れる音がする。大きい!
揺れが収まり机の外に出る。
「震源地が出ました。能登原発の直下です! 震度5強。 石川県です!」
汗がにじんだ。そう、自分の住んでる場所は……。
「能登原発の配管から水蒸気が漏れてます。指定の区域の方は早めに避難してください」
そして二回目の緊急地震速報が鳴った。あれは前震だったのだ。
崩れ落ちる。何もかもが。自分の未来も故郷も全て。
あれなんだろうね。前任者がやってたから「よくわかんないけど『ヨシ!』」とか言って事故る現象。
それはともかくこの国は普通の国じゃないです。普通の国じゃないから原発再稼働してはいけないのです。我々はJCO臨界事故の時点で気が付くべきだったのです。でも気が付かないからこんなことになってる。だから福島第一原発事故は防御壁建設費用をケチったがために非常用発電ディーゼル機を津波で流されてSBO(ステーション・ブラック・アウト:つまり全交流電源喪失)となり2011年3月12日に福島第一原発1号機で水素爆発が起きました。のちに2号機・3号機・4号機と次々に爆発しました。もう忘れたのですか?まだ事故は収束してませんよ。
お願いですからこの国は「衰退国」という自覚をいい加減に持ってほしいのです。しかも原発内でセキュリティーカードの貸し借りをするほど(柏崎原発セキュリティーカード事件:2021年)の間抜けな国なのだということに自覚をもってこのSF短編小説を読んでほしいです。
この国は核物質を扱う資格なんかないです。杜撰すぎます。
小型モジュール炉(SMR)は無人運転できます。今のところは理論上なのでこの作品のジャンルを「SF」とさせていただきます。しかしSMRの出力は圧倒的に小さいので減った分は結局既存の原子炉を活用することになります。そして、既存の原子炉を活用するとこういう危険が待ってます。