悪役令嬢の死
「これより、反逆罪でデシュベリー伯爵家令嬢、アリーネを死罪とする!!」
(あれ、何か見たことある・・・これ、デジャヴュっていうんだっけ・・・)
ここは王城の敷地内、そしてギロチンのあるいわゆる処刑場だ。 私の主人はこれから、死ぬ。
アリーネ様に仕えてはや10年、目の前で自分の主人が処刑されようとしている中で私はそのような思いに一人ふけっていた。しかし、なぜこのような考えに至ったのかはわからない。ただ、今世にはない『デジャヴュ』という言葉が私の脳裏に浮かんだことに戸惑っていた。
「ヴァニー!ヴァニー!聞こえないの!?私よ!あなたの主人のアリーネよ!ねえ、助けて!お願い!」
ああ、アリーネ様はそう叫んで私の助けを求めるが、私は貴女を助けるつもりなど全くないということを理解していただけているのだろうか。いや、理解できていないだろう。あの我儘ばかり言って屋敷の人間を困らせるようなアリーネ様に何度も注意しても理解できていなかったのだから。
「ねえ、ヴァニー!私の声が聞こえないの!?ねえ、答えて!ヴァニー!」
その時、アリーネ様の「ヒッ!」という短い悲鳴とともに、アリーネ様の首と胴体が離れ、彼女の血で染められた床の上で沢山の人々が踊り狂った。
「やった!あの『悪党令嬢』アリーネがこの世を去った!神に感謝を!」
「この国は、いやこの世界に平和が訪れたんだ!」
人々が歓喜に湧いているとき、私は一人ぽつんと離れたところに寄る。アリーナ様がいたときには感じなかった、たった今感じた『デジャヴュ』に関する違和感について考えるために。しかし、なかなか思い出せない。この言葉を思い出したのはなぜか。いや、むしろ思い出したのか?考えをまとめることができす、一人悶々としていた。
「おい、ヴァニー!何を考えているんだよ。あの悪党令嬢がいなくなったんだぜ。お前、ずっとアイツのこと嫌がってたじゃねえか。もっと喜べよ」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してたから」
「おいおい、こんな時になっても考え事かよ。ヴァニーは本当に考え事が多いな」
「うるさいな。あっち行っておいてよ。私も少しは喜んでるんだから」
「ほーう?つまり、一人で喜びを噛み締めてたってことか」
なるほどなるほどと言いいながら、急に話しかけてきた男、もとい私の同僚は戻った。
しかし、私の中では更に考え事が増えた。私は、先程の同僚以外の誰かに同じこと、「考え事が多い」と言われた記憶があるのだ。今世ではあの同僚以外に言われたことなどない。ならば、誰に言われた?
その時突然、私の脳はパァァァン!!と何かが弾けたような音がした。今の私には何が弾けた音なのかわからない。とにかく、その音で私は血まみれの床、そして歓喜に酔う沢山の人の中で倒れたのだ。