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後日談3:【マクスウェル視点】1

   ◇ ◇ ◇



「今回のお芝居も良かったです!!

 やっぱりリリス様はあのアクションが素晴らしいですよね!! まだ火傷の治療中でセーブなさっていたようですが、それでもあの身のこなしは健在で。美貌と演技力と気迫と相まって、説得力を生むんですよね……わかります? マクスウェル様」


「うん、うん。そうだな……リリスの楽屋に会いに行かなくて大丈夫か?」


「駄目ですよ! 全身全霊をお芝居に注ぎ込んで集中力もお使いになった後ですよ。よっぽどのことがない限りは行きません。まぁ復帰の舞台の千秋楽のあとはお伺いしましたが……。

 こちらは楽しませていただいている身です。推しに十分に休息をしていただけるよう、ファンならば配慮するのが当然のことです」


「……なるほど?」



 我がファゴット侯爵家の侍女シンシア、改め、伯爵令嬢シンシア・グルーフィールドと私はとある平民向けの演劇を見た帰りに、近くのカフェに入っていた。


 演劇の主演女優はリリス・ウィンザー。たぐいまれな美貌と演技力を誇る女優で、平民たちの間ではスターだ。

 最近になって私マクスウェル・ファゴットの妹だと判明し、ファゴット侯爵家で暮らしているのだが、いまだに彼女は役者を続けている。



「シンシアは、そんなにリリスが大好きなのか?」


「はい!! 恩人です!! リリス様がいらっしゃったから私は今生きていられるのです。マクスウェル様には心から感謝しています」



 シンシアを最初にリリス主演の演劇に連れていったのは私だったが……あまりにリリスに夢中なので、最近はたまに後悔するときがある。


 ……いや、夢中すぎるから心配になっているだけで、妹に嫉妬しているわけでは、断じてない。



「そういえば、実家の方は大丈夫か? 何か言ってきてはいないか?」



 シンシアは今、ファゴット侯爵家の親戚に預けている。

 この歳まで一度も社交界に出たことはなかったのに、突然『どうしたら社交界デビューできますか?』と言い出したのだ。

 グルーフィールド伯爵家に戻ればそんな間もなく嫁がされるのが目に見えていたので、親戚に預けたわけだが。彼女の実家からシンシアに何か言ってこないかは不安だった。



「ああ……そうですね。まだ、あの方と結婚させるのを諦めていないようですよ。あと末の妹をマクスウェル様に嫁がせたがって、取り次げと言ってきてます」


「末の妹って、確かまだ15ぐらいだっただろう?」



 前半は想定内だったが、後半には驚いた。



「ええ。父には、男は女が若ければ若いほど喜ぶはず、教育に時間をかけて歳を食う前に若いうちに嫁がせてしまうべき、という妙な固定観念があるようです。

 マクスウェル様はそういう方じゃないって何度も言ったんですけどね」


「さすがに若すぎる。誰が結婚相手であれ、そんな歳の子から教育の機会を奪うのは問題だろう……。早く娘の結婚相手を決めたかったとしても、近い年頃の令息と婚約して、王立学園卒業後結婚あたりが妥当だろうに」


「私もそう言ったんですが……父いわく、妹もマクスウェル様のお顔が好きで乗り気だそうです」


「……会ったことないぞ?」


「お茶会か何かで遠目に見たようです。

 乗り気というか、50越えた方と結婚させられそうになった姉を見ているから、少しでも自分が好感を持った相手と結婚できそうなチャンスなら、何をおいても飛び付きたいのかもしれません」


「そもそも比較対象がおかしい」



 私はため息をついた。


 学園に通う機会も与えられず、ずっと大伯母の介護をさせられ、さらに大伯母が亡くなったら高齢の男に嫁がされそうになったシンシアを、ファゴット侯爵家の侍女にしたのは私だ。グルーフィールド伯爵家との交渉は半ば脅しも交え、決して円満なものではなかった。

 そういう経緯からグルーフィールド伯爵は私のことを嫌っていたはずだが、娘の結婚相手として好条件となると話は別らしい。


 …………なぜそれでシンシアが最初から除かれているのかはわからないが。



「シンシアは、自分の結婚は……その、他の相手と結婚してしまうつもりはないのか? そうすれば実家も干渉できなくなるだろ?」


「結婚自体、正直あんまり……。

 貴族の世界に入ったのは、リリス様のお役に立つと決めたからですし、結婚してしまうと自由に動くのも難しくなるのかなと。

 それに学園に通えず、貴族の夫人として必要なことも学べていませんし。

 結婚してしまったらこうしてマクスウェル様に演劇に連れていっていただくこともできませんしね」


「そ、そうか」



 結婚自体に乗り気ではない言葉にがっかりしたが、最後の言葉には少しホッとした。

 少なくともシンシアは、私との時間を楽しんでくれているらしい。



(焦る必要はない。様子を見ながらじっくりタイミングを見極めよう)



 そう思った。



   ◇ ◇ ◇



 ────帰宅後。



「それって油断していると横からかっさらわれるパターンでは……」



 というリリスの言葉に頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。



「よ、横から!? 誰に!?」


「はい、横から。どこぞの馬の骨に」



 貴族の娘らしからぬ口調でしゃべりながらお茶を飲んでいるのは、リリス・ウィンザーあらためリリス・ファゴット。

 最近になって見つかった私の妹である。

 一言で言えば、身内の贔屓目ゼロで絶世の美人だ。今日の演目を終えて、自分の婚約者に家まで送ってきてもらっていた。


 離れた席で呆れたような目線をこちらにむけるのは、マレーナ。こちらも私の妹だ。リリスとマレーナは双子で同じ顔だが、性格はまったく違う。

 こちらは今は寮暮らしをしているが、所用があって今日は家に帰ってきていた。



「ええと平民目線で恐縮ですが、理由はいくらでも考えられますよ。

 友人としてはありだけど恋人候補としては見てなかったりとか。まさか相手からそう見られているとは思ってなかったりとか。

 あるいは、意識していても微妙な関係が耐えられなくて、いっそ自分にパートナーができれば良い友達で居続けられると思ったりとか。

 向こうから告白してきて欲しいと思っていた場合は、いつまで経っても進展がないと、業を煮やして他の異性に走るとか。

 あとは……」


「……すまないリリス。もう少し手心を加えてくれ」



「単純に、もっと好条件の殿方からアプローチされればそちらに心が動く可能性もありますわね」


「……マレーナはさらに手加減してくれ」



 私は何故使用人たちもいる前で妹2人に恋愛で弄られているのだろうか。

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