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後日談1:大公殿下のお叱りもごもっともです。

   ◇ ◇ ◇


「求婚が承諾されたのはよかった────だが、さすがに七、八年はないだろう!?」



 レイエス大公家、大公殿下の書斎。


 エリカ・レイエス大公殿下から投げ掛けられたまったく想像どおりのお言葉に(ええ、ごもっともです)と内心呟いた。



「リリスにも話していたが、大公である私には未だ世継ぎがおらぬ。ギアンを大公世子として披露目をせねばならんのだ。それだけに子だけは早々に成さねばならぬ」


「姉上。どんな歳でも結婚してもすぐ子どもができるとは限りません」


「なればこそではないか!!」



 ご機嫌かご体調でも悪いのか、大公殿下は以前にお会いしたときの印象よりも少しピリピリした印象だった。


 それからしばらく、ギアン様と私はひとしきり大公殿下のお叱りを聞くことになった。

 …………まぁ、これは想定の範囲内。

 それぐらい大それたことを望んだという自覚はある。


 大公殿下は、そこまで結婚を遅らせることがどれほど問題かということを言葉を変えてしばらく語り尽くした。そうして、落ち着いた頃に、ふと、



「せめて、ギアンが士官学校を出た時ではどうだ?」



と、おっしゃった。



「大公世子としての披露目と同時にすれば体裁も整う。もっともそれでもリリスは『行き遅れ』と揶揄されかねん歳にはなるが」


「あ。『行き遅れ』とかまったく気にしてないです」



 21、22あたりでの結婚なら、平民ならむしろ早い方だ。


 まぁ……ギアン様の士官学校卒業辺りがきっと妥協点だろうなとは思っていたので、これも予想の範囲内だな。

 むしろ良かった。



 ……と、私は思ったんだけど。



「姉上。リリスは結婚までに、大恩ある劇団に少しでも長く恩を返したいと望んでいるのです。恩を返す、これは我が国では大変賞賛される行為。大公子妃となる人間がそれを為すことはまさに国民に範を示すものと言えるでしょう」



 よくここまで屁理屈出してきますね、ギアン様。



「ベネディクト式ではなくレイエス式で語って良いのか? ならば我が国の慣習を当てはめ処女性は重んじぬ。結婚は待つが先に子どもを作れ」


「あああ姉上!! み、未婚の女性に対してそのようなはしたないことを……」



 大公殿下強い。

 ……本当に常識って国によって違うんだなー。



「だいたいそなたたちは……」



 大公殿下が何か続けようとしたとき、ノックの音がした。



「何事だ?」


「はい。リリス様がこちらにいらっしゃるとのことで、ファゴット侯爵夫人がいらっしゃいましたが」


「侯爵夫人が? お通ししろ」


「はっ」



 ────しばらくして、どこかうきうきした様子の侯爵夫人が入ってきた。



「あ、どうも、お久しぶりです……わっ」



 入ってくるなり夫人は私を抱き締めてきた。



「あああ、やっと戻ってきてくれる決心がついたのね、リリス!!」


「あの、それは本題では……というかマレーナ様は大丈夫でしょうか?」


「マレーナのことを心配してくれているの?」


「あの。私がファゴット侯爵家に入ると、マレーナ様のお気持ち的にどうかと……」



 マレーナ様がさらに孤立しないか、が、懸念点だった。



「それがね。その、マレーナは家を出て王立学園の寮に入ることにしたの」


「……寮に?」


「フォルクス侯爵家のカサンドラ様と同じ、王宮事務官候補生を目指すための勉強に打ち込むそうよ。候補生になったら国外に出ることも多くなるから、1人で出来ることを増やすために寮に入るんですって」



 ……なるほど。私が心配するまでもなくマレーナ様は自分の選んだ道を進んでいるのか。



(そりゃマレーナ様だものなぁ……)



 変な納得をしてしまった。



「ファゴット侯爵夫人。こちらの説得にご協力ねがえまいか」


「失礼いたしました、大公殿下。説得とは?」


「そちらのリリス殿が弟の求婚を承諾してくれたは良いが、結婚を七、八年後にするというのだ」


「まぁ!! ではわたくしはリリスとそんなにも長く一緒に暮らせるのですね!! 賛成ですわ!!」


「侯爵夫人!?」



 …………大公殿下、味方がいない。



「いや、そこは常識的に考えてほしいのだ。さすがに17歳からの婚約期間がこんなにも長いのは……」


「大公殿下。リリスは貴族としての人生をこれから生き直さねばなりません。あまり短い時間では学べることも少なく、レイエスにご迷惑をおかけしないか心配ですわ」



 侯爵夫人────いや、お母様って呼ばないといけないんだけど、意外と強かった。



「それよりも大公殿下。お顔色がお悪いですわ。ご体調が優れないのではございませんか?」


「おお。よくお気づきになった。そうなのだ。少し前から風邪でも引いたのか、眩暈(めまい)や、船酔いのような吐き気のある気分の悪さがあってな」


「姉上が船酔いはなさらないでしょう。こっそり寝酒をして二日酔いになられたのでは」


「人聞きが悪いことを言うなギアン! ここしばらくは飲んでおらぬ!!」



 そう言えばお風呂で一緒だったときの大公殿下酔ってたな。やっぱりお酒好きなのかな?



「────眩暈や、吐き気、船酔いのような……」


 侯爵夫人が呟くように繰り返す。


「他になにかお変わりになったことは?」


「ん? うむ。においによってはさらに吐き気が増すのだ。煙などがきついな。また、私は煙草(たばこ)(たしな)まぬが、吸う家臣が近づくとえづきそうになる。ほか香水もだな」


「においでさらに吐き気が……」



 うんうん、と、うなずき、侯爵夫人は「大公殿下」と立ち上がる。



「少しお耳をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「ああ」



 侯爵夫人が何事かこそこそとお話をすると、んんんん?と大公殿下の表情がなんとも言えないものになっていった……。



「…………確定は先になるかもしれませんが、まずは何よりお医者様をお呼びすることですわ。しばらくはとにかく安静に。のちほど、食べたり飲んだりしては駄目なものをお手紙でおおくりいたしますわ。

 ああ、お酒は絶対に絶対に、お飲みにならないでくださいな」



 そう言って微笑む侯爵夫人。

 うぬぬ……と何事か1人考える大公殿下。

 どういうことなのかわからず、ギアン様と私は顔を見合わせた。



【後日談1:おわり】

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