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◇53◇ 仕返し……?


(……なんで……)



 聴こえたその声は確かにギアン様だった。

 軍艦の一隻がこの船の行く手を阻み、そして二隻が船を挟むように接近する。

 さらにその向こうの軍艦に、軍装のギアン様の姿を見つけた。


 ギアン様も私を見つけたようだ。甲板の上で駆け出すと、なんと重い武装のままで軍艦から軍艦へと跳びうつる。私でも恐くなるほどの見事な軽業に息を飲んだ。



(……私を、探しに来てくれた?)



 そんなことじゃないと、期待するなと打ち消しながら、胸が高鳴ってしまった。



「畜生!! 餓鬼が!!」



 この船の男の1人がギアン様に銃で狙いをつける。

 私は慌ててナイフを投げた。刃は男の顔をザクリと切り裂き、彼は悲鳴を上げて銃を取り落とす。



 ─────最後のナイフを、使ってしまった。


 あと、たぶん銃が撃てないことがこれでみんなにバレた気がする。



「このアマぁっ!!」


「くっそぉ!! とりあえず、女を捕まえろ!! アイツを人質にする!!」



 私は撃てない銃を抱えて甲板の荷物の影に走る。


 近寄ってきた男に重たい銃身で一撃食らわした。

 思った通り。ほどよい重みのせいで遠心力が効いて、殴打武器としてちょうどいい。


 このまま、甲板の上を逃げ回って撹乱してやろう。海軍が周りをがっちり固めて船の身動きが取れなくなるまで。


 船尾側は一段高くなっている。私は銃を抱き抱えたまま、そこを駆け上がった。

 次の瞬間、船の片側が軍艦とぶつかり、グラリと揺れた。


 ハッ、と気づいた時には船べりから身体の半分以上がはみでていた。


 身体のバランスを崩し、そのまま、私は海へと─────



 落ちていくその寸前に、バシッ、と力強く腕を掴まれた。



「リリス!!!!」



 瞬きする間もなく船の上に引き上げられ、抱き締められる。

 いつの間にか、この船にまで乗り移っていた、その人の腕のなかに。



「─────ギアン、様?」



 息が止まりそうな緊迫感。心臓の音がうるさく聴こえ始める。

 ギアン様は何も言わず、噛み締めるように私を抱き締めていて、それからやっと「良かった」と呟いた。



「怪我はないか?」

「は、はい」

「酷いことはされなかったか?」

「縛られたぐらいで……」



 起きていることに頭が追いつかず、問われるままに答える。

 ただ、抱き締められているだけで癒されていくのだけは実感した。



「─────賊を海に飛び込ませるな!! 残らず生け捕りにしろ!!」



 私を抱き締めたまま、ギアン様は指揮を出す。


 レイエス海軍の人たちがこの船にもどんどん乗り込んでいき、父の仲間を取り押さえていく。

 船室から父が引きずり出されてきた。私をにらみ、何か叫んだけれど、それを見て私はただ、これで終わったんだと安心していた。


 いや、もしかしてこれから私に何か、審判が下るのかもしれないけど……それでも、見知らぬ誰かの愛人として売り飛ばされることだけはないのだから。


 ため息をついた私の顔を、くい、とギアン様が上げる。


 え、と思う間もなく、私の顔の両側をギアン様の手が包み、顔が近づいて、強く唇を吸われた。



(……!!!????!??)



 唇が離れた瞬間、身体の力が抜けて、ギアン様に支えられる。


 え、ちょっと待って、いまこの人何をした!?


 身体の力が入らない。……何が起きたの。何が起きてるの。



「あの、いま、なんで」

「あとで貴女に聞きたいことがある」



 そう言ってギアン様は再び私にキスをする。



(……!??!??!!)



 も、もしかして、いま私は仕返しをされてるとか?? でもこんな激しいやつしてないんですけど!?



「逃げずに、待っていてくれ。

 このあと、貴女の父親を尋問する」



 ギアン様にささやかれ、ぼうっとする頭で見回した軍艦のひとつの甲板に、ファゴット家の人々の姿を見つけて、私はいったい何がどうなっているのか混乱した。



   ◇ ◇ ◇

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