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◇21◇ ご友人たちの本性

   ◇ ◇ ◇



「マレーナ!

 大丈夫か!?」



 マレーナ様に化けた私が控え室を出るなり、外でずっと待っていらしたらしいギアン様が駆け寄ってきた。



「ご心配をおかけしましたわ。

 少し休みましたら楽になりました」


「本当か! 無理していないか!?」


「ええ。少しコルセットで身体を締めつけすぎてしまったようですわ。緩めましたのでもう大丈夫かと」



 安心させるためにそれらしい原因をでっちあげ、その原因が解決したことにした。



「そうか……。もう少し休まなくても良いか? いまからでも医務室に」


「いえ。重ねてご心配をおかけして申し訳ないことですわ」


「謝ることではない! 身体は何より大事だろう!?」


「お心遣いありがたく存じます。できるだけ安静にしていればきっと大丈夫ですわ」



 ギアン様の心配げな瞳は変わらない。

 嘘つきの私には居心地が悪い。

 こんなに優しくしてくれて、ごめんなさい。



「謝恩パーティーの終了までラウンジで休もう。

 温かい飲み物でも飲んでゆっくりすると良い」


「そうですわね」



 ギアン様が私に差し出した腕を、私は手に取った。



   ◇ ◇ ◇



 学園のなかはまったくわからないのだけど、まだ少し具合が悪いふりをしてごまかしていたら、ギアン様がそのまま連れてきてくれた。


 豪奢なティーラウンジの中は人が少ない。

 私としてもホッとする。


 時折私のようすをうかがってギアン様が顔を覗き込むのにドキッとする。



「もう一杯、温かいレモネードをもらってこよう」


「いえ、要りませんわ」


「そうか。毛布を借りてくるか?」


「お気遣いなく。座っておりますわ。ギアン様も卒業生の方へのご挨拶がございますでしょう?」



 言いながら(もうすこし口調の調整が必要かな)と思った。

 体調が悪くて、言葉も弱気になっている設定で話しているけど、マレーナ様ならもう少し気遣いに対してもつっけんどんかも。



「そんなことより、マレーナの身体の方が大事に決まってるだろう!」


「貴族ならば『そんなこと』ではありせんわ。わたくしの評判にもかかわってくることでしてよ」



 そう私が言い返すと、

「…………マレーナ様、そのようなおっしゃりようはないのではありませんの??」

と、横から誰かの声が飛んできた。


(……?)


 制服姿の女の子たちが近づいてくる。

 誰だろうか。

 マレーナ様のお友達?



「ギアン様がおかわいそうですわ」

「そうです。せっかくマレーナ様のお身体を心配してそばにいらっしゃるのでしょう」


(え、見てた? 会話、聞いてた?)


「いつも、こんな素敵なギアン様を邪険にあつかわれて。おかわいそうです」

「わたくしが婚約者ならそんなことはいたしませんわ」

「わたくしだって、そうですわ!!」



 不意にギアン様の身体が動いた。

 それは私を守るような位置だった。



「……どうしてそんなことを?

 あなた方、マレーナ殿のご友人だろう」


(待って、本当にお友達なの? お友達がこういうこと言ってるの?)



「ええ、忠誠を誓った友人ですわ。ですがマレーナ様にはどう思われているか……」


「友人だからこそ、わたくし、マレーナ様の態度には苦言を申し上げてきたのですけど」


「先ほども、卒業生の方々にお声をおかけしようとする王太子殿下のお邪魔をして、殿下に叱られたばかりですわね。ギアン様というものがありながら……」



 直感的に理解した。

 彼女たち、マレーナ様に注意したいんじゃない。

 ギアン様に悪口を吹き込み、マレーナ様からギアン様を奪おうとしている。


 どう答えるか?

 マレーナ様なら多少嘘ついても徹底的に己の正当性を主張するはず。

 それか論点ずらしか……。



「――――私の婚約者を侮辱するのか?」



 考えていたら、ギアン様が先に話し始めてしまった。

 声がぐっと低くて、何だか胸が甘苦しい。



「で、ですがギアン様……」

「わたくしたちギアン様がお気の毒で」

「いつもいつもギアン様のことを悪くおっしゃるのですよ、マレーナ様は!!」


「どういう立場であなた方は、私の婚約者を面前で中傷しているのだ」



 ギアン様がバシリと言い返して

(これがギアン様!?)

と私は思わず彼の横顔を見つめた。

 え、この人女の子にこんな言い方できるの!?



「ただ、わたくしたちは忠告を……」


「要らぬ、無礼者」さらにギアン様が畳み掛ける。

「いますぐ我々の視界から消えろ」


「「「…………!!」」」



 女の子たちの顔色が青くなって、そそくさと背を向け去っていった。



 …………守ってくれた?



「すまない、マレーナ。場所が悪かったな」


「いえ…………」



 ギアン様から『マレーナ』と呼ばれた瞬間、いままでになかった痛みが胸を締め付けた。


 ギアン様が守ったのは『マレーナ』だ。

 私じゃない。


 つまり、私は、ギアン様のことを。



「……ただ、驚いてしまって言葉が出てこなかったのですわ。ですが、あれはわたくしの友人たちがギアン様にご無礼をはたらきましたわね。お詫び申し上げます」


「そんな! マレーナはただ、言われていただけではないか。

 もっと早く止めればよかった。苦しかっただろう??」


「そんなこと……わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?」



 自分の感情に気づいたところで、隠して演じきるのが私の務めだ。


 ────私は、役者なんだから。

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