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ふーいずひろいん  作者: 夏野 千尋
一学期
3/9

03折れないフラグ



 目の前の美少女は、かわいいモブではなかったようだ。

 確かに、ヒロインと言われたら普通に納得する容姿だった。


 桜の花がモチーフとなっている、天真爛漫で運動が得意なヒロイン。初期名『結姫 桜』


 そして、もう一人。今はよく思い出せないけれど、イメージカラーが青の、内気で大人しい、勤勉なヒロイン。


 桜はスポーツ特待生で、もう一人は成績特待生だった筈だ。二人に共通しているのは魔力量が他者と比べて桁違いに多いこと。

 私は桜の魔力量を調べるために、桜を注視する。見つめればその人の魔力量はなんとなくわかるものだ。


「紅葉、どうしたの?」


 黙り込んでじっと桜を見つめる私を不審に思ったのか、彼女に声をかけられ、手を振って否定した。


「ううん、何でもない。桜の髪飾り可愛いね。名前ともぴったりだし、桜の雰囲気によく似合ってるね」


 話を逸らすために彼女のヘアピンを誉めると、桜は嬉しそうに微笑んだ。






 桜の魔力量は多かった。流石ヒロインといったところだろうか。私は片付けを再開して考える。

 私、ほんの数時間前に関わらないように、とか思ったよね?目立たないようにとか思ったよね?桜と仲良くしたら御破算だよね?


 ヒロインズは同室で、スポーツ特待生の桜と、成績特待生のもう一人。成績と言うだけあって、首席で新入生代表挨拶をしていた筈だ。

 んんん?私は、原作に介入してしまっているの……?

 ヒロインって誰だっけ。私ではないことは確かなんだけど。


 大きなため息を吐く。もう仕方がない。同室な以上、桜と仲良くしない方がおかしいし、桜に好感を持ったのは事実だ。仲良くしようじゃないか。


 原作のことは、考えたって仕方がない。なるようになる。これを座右の銘にしよう。





 荷物の少ない私が衣類や諸々の生活用品を片付け終えたのは、すぐのことだった。



 クローゼットに衣類をしまい、本は本棚、靴は靴箱。

 勉強机の上には筆記具とペン立て。家族写真を隣に並べるか少し迷って、結局引き出しの隅にしまった。家族の写真を桜に見られるのは、少し恥ずかしい。


 呆気なく片付けは終わった。しかし何処もかしこも隙間がある。自分でもあきれるぐらい荷物が少ない。同じ設備なのに、桜の方は女の子らしく、私の方はひたすらに殺風景だ。


 私の女子力の問題か、とも思ったが、それ以前の問題だろう。別にミニマリストを目指しているわけではないのだし、そのうち物を増やそう。



 最後の仕上げに、仕切りを使って桜からは見えないように、残りひとつのトランクをベッドの上で開けた。


 中には金物がぎっしり。目が眩しい。


 …………金銀財宝又は高価な装飾品だと思った方はすみません。


 中には刀剣寸鉄銃スタンガンサバイバルナイフエトセトラ。ほら、目に眩しい!


 なぜ現代日本でこんなものを、と思っただろうが、それこそが、『私』の世界と私の世界の差違だ。この世界には、明るみには出ていないものの、あやかしや魔物といったら空想上の存在が、実在している。あやかし退治を生業とする人もいるし、銃刀法など彼らはお構いなしだ。私も縁があって様々なことを習った。師匠と呼んで、師事する人一応もいる。



 この学園にはあやかしが多く集まる。



 『私』の知っている乙女ゲームは、キャラクターに人外の男の子と人間の男の子が半々。

 あやかしの男の子が物騒なのは当たり前だが、残りの人間も大概厄介だ。大抵があやかしに対抗する力を持ち、ストーリーで当たり前のようにあやかしと闘っている。


 そしてヒロインズは、魔力量が多いことで彼らに注目され、さまざまな過程を経て恋に発展する。

 つまり、魔力量が多いと、厄介事に巻き込まれるのだ。

 私は魔力量が高く、自衛のために護身術として叩き込まれた。


 武器を整理し、整備する。これから物騒な恋愛が始まるかも知れなく、ヒロインの同室として巻き込まれる可能性が高い。

 武器の手入れは欠かせない。私は丁寧に、武器の手入れを始めた。








 夕食を食べるために食堂に着くと、そこは人で溢れていた。広い食堂だが、流石に夕食時は混むようだ。

 食事だけとって席を見つけられない私たちは、困り顔で辺りを見渡す。知った顔もないため、純粋に食事を終えて席を立つ人を探すしかないだろう。


「樹!」


 桜が声をあげた。 桜の視線の先を見ると、赤い髪のイケメンを発見した。見たことがあるような気がして、首をかしげる。桜はパアッと顔を輝かせて彼に向かっていく。私も慌てて付いていく。


「樹も晩ご飯?」


 話しかけられたイケメンも、優しそうな顔を綻ばせて席を立つ。親しげな雰囲気だ。


「おう。桜は席が空いてなかった感じ?」

「そうなの。そこらへんの席空いてる?」


 そんな話をしていると、イケメンくんのそばの席の男の子達が、食べ終わったのか席を譲ってくれた。


「紅葉、この人はわたしの幼馴染みの羽山はやま いつき。おんなじクラスだから仲良くしてあげてね。樹、同室の神薙紅葉ちゃん。今日総代読んでたんだよ!」


 席に着くと、桜が彼を紹介してくれた。

 高校生らしい溌剌な感じのするイケメンだ。優しそうな顔つきで、歯を見せて笑うのがよく似合う。

 幼馴染みといえば、キャラクターにいたな。確か……入学式の時に遅刻しかけて幼馴染みと再会するってやつだった筈だ。そこはシナリオ通りなのか。


「あらためまして、神薙紅葉。よろしく、羽山君」 「ああ、俺は羽山樹。呼び捨てでよろしく」

「そう。じゃあ私も呼び捨てで頼むね」

「おお、神薙。桜をよろしく。こいつ昔めっちゃ朝弱かったんだ。きっと大変だぞ」


 食事をとりつつそんな会話をする。へえ、桜は朝が駄目なんだ。明日からこの子大丈夫なんだろうか。起こしてくれる親御さんはいないし、私より早く起きて朝練行く日もあるって聞いたけど。


「い、樹!黙って!それに、もう朝起きられるようになったんだよ!小さい時の話持ち出さないでっ」


 顔を赤くして桜が言うが、羽山は余裕のしたり顔でからかう。


「なら今日はどうして遅刻しかけたんだよ?起きれてねえじゃねえか」

「うっ…。そ、それは……。で、でも、樹だって遅刻しかけてたじゃん!」

「俺は寝坊じゃないから。落とし物拾って交番で時間食ったんだよ」


 久しぶりの再会だとは思えないほど親しげな二人の会話は、止まらない。

 確かゲームだと、羽山は最初から好感度が高かったらしい。何でも幼馴染みで、初恋の相手なんだとか。鉄板設定。だがよい。実際の羽山はどうなんだろうか。初対面では伺い知れない。

 すごく楽に墜とせるけど、可愛い高校生の恋愛が楽しめる、と親友が言っていた。


「わたし、絶対寝坊しない!樹が知ってるわたしより、成長したんだからね!私だって、変わったんだから!私が起きれたら、樹、謝ってよね!」


 桜よ……それ絶対フラグだと思うんだ。





 案の定、翌朝彼女は寝坊した。









***




 翌日はクラスのレクリエーション。全員が高校からの入学なので、学校の行事や規則、校舎内の説明に興味津々だった。


 私自身、大きなカフェテリアと、図書館が特に気に入った。

 カフェテリアの料理はどれも美味しそうだし、図書館は大きくて、娯楽本から専門書まで豊富に揃っている。どちらの建物も芸術的で、この学校がここ10年の間にできた、新設校だと言うのが意外なぐらい、時代がかった美しいデザインだ。


 また、中等部と初等部の説明もうけた。

 基本的に同じ敷地内に存在してはいるが、かなり離れているので基本的に接触はないこと。禁止されているわけではないが、他の校舎に行くのは推奨されていないらしい。

 確かに、卒業生が後輩を構いすぎては後輩が自由にやれないものね、と納得する。


 ちなみに、初等部、中等部には寮は無く、高等部だけの話なのだそうだ。


 この学園にはさまざまな行事がある。運動会や文化祭のようなありふれたものから、パーティー、という謎の行事があるらしい。


 ちなみにクリスマスパーティーがメインで、それまでにマナーを覚えることが学習課題にもなっているそうだ。なにそれすごい。さすがお金持ち学校。


 直近のイベントとしては、新入生の歓迎パーティー。


 アニメでは、生徒会長と桜のファーストコンタクトイベントだった。


 ただでは終わらない気がしてならない。


 ああ、これもフラグかもしれない。





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