エピソード2 ソレはカカシ
これはごく最近の話
私が20を過ぎた頃。盆の親戚の宴会で聞いた話から始まります。
私の住んでいる所はそれなりの田舎でして、盆と正月は親戚一同が集まり、宴会をするのが習慣となっています。そんな宴会には当然のように誰それがなになにをしたという噂話がつきもの。大抵しょうもない笑い話が多いものです。そこにお酒が入ればしょうもなくても大ウケ。私も最初はそんなしょうもない笑い話だと聞いた時は思っていました。そう、最初は。
宴会は大抵夕方6時には始まり7時もすぎれば、みんなほろ酔い。10時前には解散という流れでした。参加人数はたしか、20人程。大人数だったのは覚えています。さて、あれは夜の8時くらい、そうそう、ちょうどテレビの番組が変わる時でした。叔父の1人がそこそこ酔いながら話し始めました。
「やい、山の上のヒロシのところの2人目の娘がカカシに驚いた話は知っとるか?」
「いやぁ、そんな話はしらんぞ。山の上の方はカラスが多いで、カカシが沢山あるのは知っとるぞ」
「そうかぁ、実はなワシ、その辺に転がっとったマネキンの首でカカシ作って畑に立てといただ」
「そりゃまたカラスが逃げそうなカカシ作ったな」
「そうじゃろ?ワシもこりゃぁ名案じゃ!って作っただ。だけどなぁ、生首そっくりになってしもうただ。そんでな?ある晩、ヒロシが家に駆け込んできて言っただよ、娘がおめぇのところの畑に生首転がってる!って言ってるって」
「ぶっふ…もう分かったぞ、ふはは」
「そうさ、ヒロシのところの娘、カカシを生首と見間違えただ!満月の夜で月の青白い光がマネキンを更に恐ろしくしたんじゃろなぁ。んでな、ワシ、一緒に行ってやってマネキンって教えてやっただよ」
「ふははははは!そりゃぁ、傑作じゃ!」
私はあまりにもその話が面白くて一緒になって笑いました。カカシを生首と間違え、親にわざわざ報告し、その上畑の持ち主にまで確認するなんて!よっぽど怖かったんでしょうね。でも傍から聞いてる私にとってはもう、面白くて面白くて。このマネキンカカシを生首と間違えた話はその日の宴会で1番ウケた話になりました。
さて、日は変わり盆の終わり頃のころ。私は1人で山の上の友達の所から家に帰ろうとしていました。久しぶりに友達と会えたこともあり、長居をしてしまいました。日は暮れて、月がのぼり外は青白く照らされていました。私は1人、歩きつつ先日の話を思い出していました。そう言えば親戚の畑は山の上にあるし、ここから近い。ちょうど月明かりもあるし、見間違える程のものか気になりました。そこで少し遠回りになりますが、興味本意でマネキンカカシを見に行く事にしました。
1人とぼとぼ歩き、畑に近づいて行くと、遠目ですがカカシが見えて来ました。なるほど、本当に遠目だと生首に見えます。髪は黒く長く、しっとりと夜露に濡れ、目は落ちくぼみ虚空を見つめています。肌はところどころハゲ白く見えるところもあり、月明かりが影を作って恐ろしげな雰囲気を醸し出していました。親戚の叔父はズボラだったのでしょう。マネキンの首は鉄筋に直に刺さっていました。カカシにするなら人型にすればいいのに。と私は呑気にそんな事を考えていました。
ところが。段々と近づくにつれカカシの様子が異様な事に気が付きました。風が吹いていないのに何故か首が回っているように見えるのです。しかもどこからか鉄臭いような何ともいえない生臭さが漂ってきます。私はここでひとつ、気が付きました。そう言えはこの間の話だと生首は鉄筋に刺さってたんじゃなくて、転がっていたっていう話だったような?
その時、風もないのに回っていたカカシの頭がぴたっと止まりました。そして、落ちくぼみくすんだ瞳が私と目が会いました。
直感的に感じました。これはやばい、早く逃げなくちゃと。私は脇目も振らず走り出しました。後ろでは
ぼとり
ごろん、べしゃっ、ごろん、べしゃっ
という音が聞こえました。振り返らなくてもわかります。追いかけて来ている!
私はさらに走りました。走って走って走り続け家に辿り着きました。急いで家の中に入り、しばらく耳を澄ましていましたが、あのカカシが追いかけて来ている音は聞こえませんでした。親に報告しようかと思いましたが、親戚の笑い話にされそうでやめました。
以来、私は親戚の畑に近づくことをやめました。
おしまい。
怪談シリーズ第2弾です。
真夏の夜にいかがです?
(誤字脱字にご容赦ください)