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08話.[アイス食べたい]

「すみませんでした」


 現在の場所は商業施設二階のフードコート。

 成宮が謝罪をし、優羽や向坂がそれをじっと見つめている。

 ちなみに、佐藤と遊のやつは別の席でアイスクリームを食べていた。


「部活に戻りたいんです、お願いします」

「それって演技? どうせそんなこと言っても前みたいにするんでしょ?」

「一週間チャンスをください。それから判断してくれませんか? 言葉で言っても信用できないと思いますから」


 ああ、向坂のしていることは正しい。

 俺は流石にチョロすぎたんだ、これくらい慎重にならなきゃいけなかった。


「優羽さんはどう?」

「私は千夜に任せるわ」


 お互い名前呼びをして順調に仲良くなっているらしい。


「分かった、それなら一週間ね」

「ありがとうございます、大田先輩もありがとうございます」

「あ、ただ黒髪に戻してきてね」

「はい、分かっています」


 それでも怒られないこの学校ってやっぱりおかしいな。


「話は終わったかーい?」

「うん、終わったよ」

「よしっ、じゃあまだ回ろう――と言いたいところだけど、僕はそろそろ帰らないといけないんだ。だから成宮君、一緒に帰ろう」

「え? あ、はい、それじゃあ失礼します」


 どういうつもりかは分からないが遊が成宮を連れて帰っていった。


「大田はどうするんだ?」

「俺も特に予定ないし帰るかな」

「今日は悪かった、無理やり誘ったりして」


 まあ確かに小銭を失っただけでいいことなんてなにもなかった。

 イチャコラしているのを側で見ているだけ、そんなのつまらないだろう。

 成宮じゃないが俺も女友達がまるでいないからちょっと羨ましくもなる。


「って、佐藤はまだ残るのか?」

「ああ――でも、ひとりだと虚しいな、どちらか付き合ってくれないか?」


 うわぁ、こいつクソだな……。

 いやまあ、知らないんだから仕方がないけども。


「千夜、あんた佐藤に付き合ってあげなさい」


 それでこいつもなに言ってんだか、自分のことをおまけとか考えてるんじゃないだろうなこいつ……。


「私は別にいいけど」

「じゃあ向坂さんに頼もうかな。大田、新田さんのこと頼むぞ?」

「ああ、まあ……」


 ふたりが去り、テーブルを挟んで俺と優羽だけになった。

 休日ということもあって他にもお客さんは沢山いるが、俺らの周りは奥まっているということもあって比較的静かだった。


「ふぅ、休日に出かけるということも悪くはないわね。昔からずっと遊としかいなかったから、中々こういうところに遊びに来るということもなくてさ。ほら、家族なんだからいちいちお店とかに行かなくたって遊べるでしょ? だから、誘ってもらって良かったと思ってる」


 こちらに言っているはずなのにまるで独り言のように吐露する彼女。


「なんだけどさ、なんかモヤモヤする結果に終わったなって。なんだろうね、そもそも私が遊以外に興味を抱くなんてことも考えつかなかったし、明らかにおかしいの」


 モヤモヤしているのを自覚しているのに譲ってしまったのは彼女だ、結局のところ自業自得としか言いようがない。


「はぁ、おまけ同士こうして残って独り言を言ってなにやってんでしょうね」

「なにやってんだって思うなら、行ってくればいいだろ? 社交辞令でもなんでも佐藤はどっちかって言ったんだから」

「行けるわけないでしょ、……だってあのふたりもあれをしたってことなのよ? 結局これだって持っておけって言われちゃったし……」


 ぬいぐるみを突いて苦い笑みを浮かべる。

 なるほど、彼女からすれば拒絶されたように感じたのか。


「あれってあれか」

「そうよ、あれよ」


 恐らく今の彼女はやらなければよかったって後悔しているだろう。

 後悔先に立たずって言うし、やる前に気づけないのがもどかしいところだな。


「……巻き込んで悪かったわね」

「おいおい、なんでもう敗北した後みたいになってんだ?」

「別に好きってわけじゃないし、それに佐藤は千夜のことを気にしてるし」


 よくある言い訳だよな、まだ好きじゃないって。

 よくある言い訳だよな、○○は○○を気にしてるって。

 けどあれだな、遊に言われてるしこれ以上なにかを言うのは不可能だ。

 それに「大丈夫、任せておけ」なんて言ったところで、それこそ佐藤の意思を変えられるわけではないのだから意味がない。

 遊の言っていたことは酷く正しい、だからこそ残酷で。


「どうする? もう帰るか?」

「アイス食べたい」

「分かった、バニラ?」

「チョコ」

「あいよ」


 もう二度と商業施設には行かない、こんなところに行っても小銭が失せていくだけだからな。


「ほら」

「ありがと」


 スプーンもあるのに舐め始めた彼女をなんとなく見づらくて視線を逸らす。


「美味しいわねー」

「お前が食べたら帰るぞ、送っていってやるから」

「別にひとりで帰れるけど」

「任されたからな」


 急かすつもりもないので適当に周りを見ているとふたつの瞳と目が合った。

 それは見たことがあるような色で、なんかこちらを睨んでいるような感じで。

 その人物は席から立ち上がり、後ろでまとめた髪の房を揺らしながらこちらへとやって来た。

 彼女はバンと机に両手を突いて今度こそ本格的にこちらを睨んできた。


「奇遇ですね、こんなところで」

「だな、ひとりか?」

「そうですね、誘っていただけなかったものですから」

「俺だって無理やり連れて来られたんだけどな」


 次があれば命令でも俺は聞かない。


「來香は髪を結ぶのね」

「はい、これの方が涼しいので」


 だからって怒り散らすというわけではないのか。

 こういうところは優羽によく似ている気がする、というか、優羽も気づけば俺に怒ることはなくなったな。


「大田先輩、実は私見てました」

「なら別に睨まなくてもいいだろ……」

「佐藤先輩は千夜先輩と仲良くしたいようですね」

「それについては分かんねえな」


 できればいまは出してほしくない話題なんだが、これもまた石上は知らないのだから責めるわけにもいかないことで。


「美味しかった」

「帰るか」

「そうね、これ以上残っても意味ないし。來香、あんたも帰るわよ」

「はい、分かりました」


 これだとプンプン状態の彼女まで送らなければならなくなったわけだが。


「來香、成宮が戻りたいって言ってたわよ? あんたはいいの?」

「私は千夜先輩や優羽先輩の決定に従うだけです」

「千夜がとりあえず一週間チャンスをあげたから、まあ戻ってくる可能性が高くなるわよ」

「私は大丈夫ですよ、大田先輩も戻ってきましたし」


 相変わらずこのふたりは普通そうで、そう重く捉える必要もないなとも思った。


「あんたって意外と大田のこと好きよね、告白したら?」

「これはそういう感情ではないですから。追い出してしまったのは私なのでお返しできるチャンスがほしかっただけです」


 そういうのは俺のいないところで話してほしい、そんなことがないって分かりきっているのに聞くこいつもあれだが。


「優羽先輩こそ大田先輩とよくいるじゃないですか、告白したらどうです?」

「告白、ねえ」

「あ、察しました私、『大田のことなんて好きなわけないじゃない』って言うんですよね?」

「当たり前でしょ、つか私は佐藤の――まあいいわ、早く帰るわよ」


 他人の悪意のない問いによって本日二回振られることになりました、恋だのなんだの好きにすればいいが巻き込むのはやめてほしい。


「着いたわね」

「ここに来たのは二度目です」

「は? 一回だけでしょ?」

「優羽先輩がお誕生日の日に佐藤先輩を呼んだ後戻ってきましたから」

「待て、石上は先に帰しただろ?」


 それはおかしい、俺はあの日確かに石上を家に送った。

 この目できちんと家の中に入っていく彼女を見たんだ、有りえないぞ。


「こっそり付いていきました」

「って、俺は佐藤を外で待ってたんだぞ? それにあの時はもう暗かっただろ? だから先に帰したんだろうが」

「怖かったです、けれど興味が勝ったので」

「ま、待ちなさいよ、どういうこと?」


 流れが分からない優羽が聞いてくる、だが、どう言ったらいいのか分からない俺が迷っていると、


「佐藤先輩を呼んだのは大田先輩――」

「馬鹿! そ、それじゃあな新田! ほら行くぞ石上!」


 彼女が言いそうになってしまい、慌ててその場を後にすることにした。


「い、痛いですっ」

「あ、悪い……ああいうのやめてやってくれ。そうでなくてもいまはあいつ、微妙な気分なんだからさ」


 佐藤が来てくれた、物をくれたってあれだけ喜んでたんだ、それが誰かの手によってということを知ったら悲しなる。

 そりゃ彼女だって誕生日を教えていたわけではないのだからおかしいとは思っただろう。

 けれどあくまで佐藤が自発的に来てくれたと思いたいはずだから。


「大田先輩は優羽先輩を喜ばせたかったってことですよね? それと傷つけたくないとも思っていると」

「そりゃ、佐藤からのプレゼントの方が喜ぶと思ったからな」

「千夜先輩には協力してあげないのに……」

「それをして喧嘩の理由になっただろ? おまけに石上が追い出してくれたじゃないか。求められない限りはもうしねえよ」


 で、求められる日は二度とこないだろう。

 けどそれでいい、元々頼られたってなにもしてやれないのだから。


「送る、帰ろうぜ」

「はい、よろしくお願いします」


 


「ちょっと遊!」

「ん~? あ、おかえりー」

「そんなこといいのよっ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」


 ベッドでゴロゴロと転んでいた妹を無理やり起こす、呑気にされているとムカつくのでその対策でもあった。


「落ち着いて落ち着いて、どうしたの?」

「あんた大田と仲いいわよね? で、あんた誕生日の日のこと覚えてる?」

「覚えてるよー」

「で、佐藤が来たのってなんで? あんたが誕生日を教えたとか?」


 それにしたって来るとは思えないけど、……今日のだって本当は千夜にしか用がなかったんだから。


「それはナ・イ・ショ!」

「あんたぶっ飛ばすわよ!?」

「……でもなあ、紘人君に言うなって言われてるからな~」

「いいなさい、命令よ」


 遊は「ま、今度怒られるけどいいかー」なんて言ってこちらを見つめる。


「うん、そうだよ、優羽の想像通り」

「じゃあ佐藤は言われなきゃ来なかったってことね。……馬鹿みたい、それであんなに喜んで」


 IDを簡単に交換してくれたのもそういうつもりで見ていないからだ。

 そもそも小さいから彼女にもなれない、おまけみたいな存在なのだ私は。


「大田があんなことしなければ……」

「いやいや、紘人君はあくまで優羽が喜んでくれるだろうと思って佐藤君を連れてきたんでしょ? それで恩着せがましく家に来なかったじゃん、優しいし格好いいと思うけど」

「それが余計なのよ、結局こうして後に本人が知っていたら意味がないじゃない」


 知らなければプレゼントはくれたのだからって幸せに浸っていられたのに。

 あくまで友達の延長線だったとしても自分のことを考えて物をくれた、誕生日を祝ってくれたって嬉しかったのに。


「待ってってば、紘人君が言ったの?」

「……來香が」

「なら違うでしょ? どうしてそこで紘人君を責めようとするのさ」

「うるさいっ! あいつのせいでこんな惨めな思いをすることになったんだから責めるのは当たり前でしょ!?」


 お気に入りのスカートがしわくちゃになるのも気にせず握りしめ、冷たい顔の遊を真っ直ぐに睨みつけた。


「ろくに努力もしてないくせに選ばれなかったのを他人のせいにするんだ」

「はぁ!?」

「少なくとも紘人君は優羽のために動いてた、成宮君とのこともそう、なのに優羽は文句を言うだけ?」

「お礼くらい言えるわよっ」


 してくれたことに対するお礼は全て言ってきたはずだ、他を優先してあまり見られていないくせに勝手言わないでほしい。


「はぁ……ま、そう思うのは勝手だけど、僕の目の前でそんなことしたら優羽でも許さないからね?」

「はっ、なにあんた、もしかして大田のことが好きなの?」

「好きだよ? あくまで友達としてだけどね。でもだからこそ友達として守ってあげたいでしょ? 自分勝手でお馬鹿な子から」

「あんたねえ!」

「はいはーい、話は終わりー、だって優羽はどうしたって紘人君を悪者にするつもりでしょ? なのに続けたって時間の無駄だしねー」

「ぐっ……ふんっ、勝手に味方してれば!?」

「だから勝手にしまーす」

「むかつく!!」

 

 妹の部屋の扉を思い切り閉めて自分の部屋に戻る。


「あーもうどいつもこいつもむかつく!」


 関わった全員から嘲笑われているような気すらした。

 千夜には余裕をかまされ招かれ、佐藤には当日にあんな宣告をされる。

 極めつけは先程のそれだ。


「……消えればいいのに」


 でも一番の悪は大田に決まってる。

 ヘアピンを貰った自慢をしていた私を笑っていたに違いないから。

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