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06話.[付き合いなさい]

「大田先輩、この後って予定とかありますか?」

「いや、特にないな」

「それなら空き教室の掃除でもしませんか? 向こうの校舎もやりたいなってずっと思っていまして」


 いま正に掃除をしていてもう少しで帰るというところなのに真面目な一年生だ。

 本当にこんな活動内容ははっきりしているものの、なんとも微妙な部活に入るのは勿体ないと感じるくらいにはそう思う。

 予定はないため「いいぞ」と答えた俺の背中が何者かによってバチンと叩かれた。


「大田、スーパーに寄るからあんた付き合いなさい」

「いちいち叩くなよ、……石上の後でもいいか?」


 約束なのでどちらにも付き合う、しかし今の優先はあくまで石上の方だ。


「何時までやるつもりなの?」

「現在は十六時三十分なので十七時くらいまででしょうか」

「んー、それなら私も付き合うわ、三人でやれば早いでしょ?」

「そう、ですね、よろしくお願いします」


 向坂や遊とは別れて空き教室の掃除を開始する。

 席を運んだり、掃いたり、拭いたり、特に急かされているわけでもないためゆっくり丁寧にやった。

 そういう活動をする部なのだから当たり前だが、なんとなく偉いなとすら思った。


「さて、行くわよ大田」

「分かった。石上おつかれさん」

「あ、私も一緒に行っていいですか?」

「別にいいわよ? それなら早く行こ」

「はい」


 どうやら石上は積極的に全員と仲良くしていきたいようだ。


「で、スーパーに来たがなにを買うんだ?」


 そして俺を呼んだ理由はなんだ? 単なる荷物持ちとかだとしても別に怒ったりはしないが。


「ケーキね」

「ん? 誰か誕生日なのか?」

「私よ」

「まじかよ、だったらもっと早く言えよな。しかも本人が買うって微妙だろ、……分かった、俺はお前の奴隷みたいなものだし俺が奢ってやるよ」

「そ、ならありがたく受け取っておくわ」


 千円とか二千円のやつを買わされると思ったものの、彼女が選んだのは三百円のショートケーキだった。

 このままだとなんか凄くモヤモヤするため、彼女には内緒でシュークリームとエクレアも付けておく。


「ほい、誕生日おめでとさん」

「ありがと」

「石上はこれな、ミルクレープ」

「え、申し訳ないですよ」

「気にするな、迷惑をかけた詫びだ詫び」

「……ありがとうございます」


 そのまま別れて帰ろうとしたら優羽が止めてくる。


「家まで持って」

「了解。石上はどうする?」

「付いていきます、新田先輩の家を知っておきたいので」

「面白みもないわよ? ま、それでもいいならいいけどさ」


 とはいえ、ここから彼女達の家はすぐの場所だ、彼女の家に着いたら袋を渡して学校の方へと引き返す。


「あの、なんでそっちに行くんですか?」

「ちょっと佐藤に用があるんだ」

「佐藤先輩ですか? まだ部活をやっていると思いますが……」


 それなら終わるまで待てばいい、今日だからこそあいつの存在が必要なのだ。


「あれ、今日も部活見学か?」

「なあ、なにも言わずに来てくれないか?」


 こいつも俺のことが好きすぎるな。

 俺がいるとすぐに発見して勝手にやって来てくれる、そして、今日という日に限って言えばその反応は大いに助かるわけで。


「どこにだ?」

「新田の家」

「え、俺汗かいてるんだけど……」

「大丈夫だ、男なのにいい匂いしてるぞ馬鹿野郎が」


 たまにいる謎の生物達だ。

 何故同じ男なのにここまで根本的に匂いが違うのか分からない、俺が汗をかいたりなんかしたらそれこそ目も当てられないくらいだというのに。

「なんで俺は馬鹿って言われてるんだ……」と微妙そうな感じだがそんなことどうでもいい。


「佐藤先輩」

「どうしたんだ?」

「今日は新田優羽先輩のお誕生日なんです」


 ありゃ、石上がネタバラシをしてしまった。


「あ、そういうことか……全く、大田はいつも言葉が足りないよな。よし、一旦俺は家に帰るよ、それでシャワーを浴びた後に新田さんの家に行こう。あまり遅くなると危ないし、石上さんはもう帰った方がいいぞ」

「おい待て、そこまで付き合わせる気か? 知らねえぞ、家の場所を教えるから行ってやってくれ。くれぐれも俺に頼まれたとか余計なことを言うなよ」

「まあまあ、付き合ってくれよ」


 しょうがないので移動開始。

 石上は遅くに出歩かせるのは危ないため送っておいた。

 去り際こちらを睨むようにして見ていたがどういうことなんだろうか。

 そして今は佐藤が出てくるのを待っている時間となっている。


「悪い、待たせたな」

「遅えよ」

「そう言うなよ、流石に女子の家に汗臭いまま行けないだろ?」


 こちらも学校や彼女の家から離れているわけではないのもあって新田家にはすぐに着いた。


「それじゃあな」

「言わない方がいいんだろ? それなら石上さんから聞いたことにするか」

「ああ、それでいい。つか、なんかやる物を持ってきたのか?」

「大丈夫、ここにある。気をつけて帰れよ」

「言われなくてもそうするよ」


 同級生の女にプレゼントなんてらしくないことをしてしまった。

 向坂にだって小学生以降プレゼントなんてしていないというのに。


「ま、スイーツだからプレゼントには該当されねえか」




「ねえ聞いて大田っ、昨日家に佐藤が来て誕生日を祝ってくれたのよ!?」

「ふっ、良かったな。ちなみになにを貰ったんだ?」

「これ! ヘアピンっ」


 実にハイテンションな彼女だが、ま、気になっている異性からそんなの貰ったら嬉しいに決まってる。

 思わず俺のところに来て言いたくなるくらいには彼女らしくないテンションだったがな。


「遊にも沢山自慢しちゃった」

「それだけ喜んでいるなら佐藤も嬉しいだろ」

「お返しした方がいいかしら!?」

「誕生日プレゼントなんだろ? そんなのいいだろ。ありがたく貰っているだけでいいんだ」


 問題があるとすれば横に向坂がいるということなんだよな。

 彼女も気になっていると言っていたし、優羽の方を優先させると向坂が微妙な思いをし、彼女を優先させると優羽が微妙な思いをするという、なんとも板挟みな感じなのが現状だった。


「新田さん昨日が誕生日だったんだ、おめでとう」

「わっ!? あんたがいるの全然気づいてなかったわ」

「ふぅん、その割には大田くんのところに真っ直ぐ来たようだけど?」

「こいつはなんとなく分かりやすいじゃない、ちょっとやる気なさそうなところとかがね」

「へえ」


 そりゃ恋敵なんだから敵対したくなる気持ちも分かるがあまりに露骨すぎる。


「ところで大田くんもなにかあげたの?」

「ケーキだな、スーパーに寄った際に知ったからさ」

「そっか、私には買ってくれないのに新田さんには買うんだ」

「だって中学の時の俺らはさ……」


 小学生の時のあれが原因で全く口も聞いてなかった、それなのにどうしていまこうなっているのかは俺もよく分かっていない。

 分かっているのは再び壊れかけた、ということだろうか。


「うん、そうだよね、仲が悪かったんだもんね」

「仲が悪かったっていまもでしょ? あんたなにしたのよ?」

「小学生の頃に向坂を苛めたやつらをぶっ飛ばした」

「ぷふっ、なにそれっ、なんでそれで向坂があんたを嫌うのよ!」


 向坂的には動くならもっと早く動いてくれと思ったんだろう。

 卒業式になってから動いたのと、我慢し続けたのに俺が自分勝手な正義感で暴力を振るったことで彼女の頑張りを無駄にしたのと同等だからだ。

 けどガキの俺は全然そんなことを考えてなかった。

 いまにして思えば勇気がなくて動けなかった鬱憤をあいつらで発散させたようなものだ、今回のと同じで怒って当然だ。


「素直にならないと勿体ないわよ?」

「お前が言うなお前が。あ、佐藤だ」

「えっ!? あ、き、昨日はありが――ってぇ! いないじゃないの!」

「ふはははっ、ざまあみろばーか!」


 こうしておけば本人も話しかけてきやすいだろう。

 いやー、まさか優羽も全部聞かれていたとは思わないだろうな。


「むきー! このおたんこなすー!」

「今日も楽しそうだな新田さんは」

「ぎゃ」


 変な声を漏らして後ろに倒れそうになったところをイケメン野郎が支えた。


「大丈夫か?」

「だ、だだ、大丈夫です……」

「敬語はやめてくれよ、同級生だろ?」

「ふぅ……ふぅ……ふぅ、そ、そうよね、支えてくれてありがと」

「おう、これくらい全然負担でもなんでもないから気にするなよ」


 おぉ、気になる存在が言うことで無理やりそうすることができたか。

 しかしこれを毎回続けられなければ意味がない、彼女には頑張ってほしい。


「そうだ向坂さん」

「なに?」

「今度の土曜、一緒に出かけないか?」

「ぎゃ」


 あー残念、でもまあこういう時だってあるだろ別に。

 俺としてはどちらの応援もしたいが、これを言うと恐らく駄目になるので口は出さない。


「いいよ、佐藤くんがいいのならだけど」

「俺が誘ってるんだからいいに決まってるだろ?」

「そうだ、それって新田さんもいいかな?」

「別にいいぞ? 商業施設に行くだけだからな。となると、大田も連れてく――」

「俺は用を思い出したから散歩でもしてくるわ!」


 そんなの俺だけ金魚のフンになるのは明白じゃないか、土曜日に出かけてまでそんな惨めな気持ちは味わいたくない。


「つか意外だな、向坂が新田を誘うなんて」

「確かにね、明らかにライバルなのにねえ」

「だな……って、お前は相変わらずだな」

「やだなあ、遊って呼んでよ、あの時みたいに」


 にしてもあれだな、放課後以外あまりいられないというのは本当のようだ。


「散歩なら付き合うよー」

「別にいいけどさ」


 あーあ、いつもなら机に突っ伏して時間をつぶしているところなのに、優羽と佐藤というイレギュラーのせいで教室を出ることになってしまった。


「あのさ、関わっているやつが恋してると面倒くさいよな、気を遣ってやらないといけないし」

「あ、分かる! 昨日の優羽なんて佐藤君の話しかしなかったからね」

「それはお前が別行動しているのもあるだろ?」

「いやいや、そこまで勝手に行動してないよ。寧ろ僕の方が妹なんだから優羽を必要としているというのに」


 双子だから忘れそうになるがそうなんだよな。

 そして妹の方がしっかり者というわけではなく、姉の方が常識人になっている。

 

「あーやだなー、優羽が他の人とばっかりいてさー。それもこれも全部大田君のせいっていうんだから微妙だよね、佐藤君となんて接点作るからさー」

「あいつが望んでいたんだから仕方がないだろ? 遊でも頼まれたら同じことをしたと思うけどな」

「ま、優羽には幸せになってほしいからねー、大田君がしていなくても確かにしたかもねー」


 ここで問題なのはやはり恋敵がいるということだろう。

 あいつはイケメンだし優しいしでいるだろうが、好意を抱いた他の人間を俺は知っているわけではない。

 んで、向坂のそれは知っている形となるのだが、知っているからこそやりにくいこともあるというわけで。


「お前ならどっちを応援する? やはり優羽か?」

「ま、そりゃその方がいいけど、そこは佐藤君次第だからね」

「ほー、姉が絶対ってわけじゃないんだな」


 これについては意外だった。

 先程までは他の人と関わってほしくない的なことを言っていたのに、大切なのは当人達の気持ちだって尊重することができるのか。


「うん、僕は無責任なことを言わないよ、優羽なら大丈夫なんてことは絶対にね。だから紘人君もやめてね、優羽に変なこと言うの」

「ケーキを買ったのも不味かったか?」

「ううん、普通に関わる分にはいいんだよ。ただ、恋愛関連のことについては気をつけてってこと」

「てことはバレてたのか、俺があいつのところに佐藤をやったの」

「あ、やっぱりそうだったんだ、佐藤君は家を知らないはずなのにおかしいと思ってたんだよね僕は」


 ちっ、面倒くさいことを彼女に教えてしまった。


「うーん、だけど優羽が喜ぶと思ってやったんでしょ? 別にそれで責めたりしないよ、優羽はすっごく喜んでいたし」

「言わないでくれよ? 俺が変なことをしてるって分かったらあいつは俺をボコボコにしてくるからな」

「そうかなあ? 優羽はそんなことしないと思うけどな」

「私もそう思います、優羽先輩はあれでいて優しい人ですよ」

「「おわっ!?」」


 やはりこういう急襲系が皆好きなようだ。


「それと大田先輩、どうして優羽先輩にだけ優しくするんですか?」

「あーなるほど、なんで向坂には優しくしないのかってことか?」

「違います、大田先輩は明らかに優羽先輩を贔屓しています、これっておかしくないですか?」

「おいおい、俺があいつのことを好いてるとか勘違いしないでくれよ?」


 そんなことは一切ない。

 明らかに佐藤へ好意を抱いている人間をどう好きになればいいと言うんだ。

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