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03話.[簡単なことだな]

 期限最終日の放課後、俺は向坂に土下座をして謝った。


「いいよもう、あれでいて成宮くんも真面目にやってくれてるし紘人くんはいらないから」


 が、結果はこんなもの、ごねることもなく職員室に直行する。


「――というわけなんで、俺だけの俺だけによる帰宅部を作らせてください」

「却下する」

「そうですか、それなら学校やめます」


 頑固な相手にはこれしかない、いや、あまり来ている理由が感じられないのだ。

 だって卒業したら普通に社会に出て働くわけで、こうして学ぶ必要がどこにあるのかという話である。

 義務教育は中学までなのだからそこまできちんとやってきた身としてはあまり不都合がないだろう。


「はぁ、……なんでお前はそんなに面倒くさいんだ?」

「わざと面倒くさくしているのは三宅先生ですが?」

「もういい、お前は図書室で本を戻す作業でもしていろ」

「ひとりですか? ひとりの方がいいんですが」

「いや、双子がいる、詳しくは今から行って双子に聞け」


 某アニメの教師みたいに連れてってくれすらしないのかよ。

 他は強制するくせにそういうところだけは適当というなんともモヤる結果となったが、行かなければ面倒くさいことになるので図書室に向かった。


「ちょっと、どこ触ってるのよ」

「どこって肩だろう? 揉んであげてるんだよ」


 そうしたらいきなり目の前で繰り広げられる不純異性交遊。


「きゃっ、あんた誰よ!」

「あれ、君って確か……そうっ、大田――あ、やっぱり分からないや」


 よく見たらどちらも女子のようだと気づく、あと普通に肩を揉んであげているだけのようだった。


「三宅先生に本を戻すの手伝ってこいって言われたんだけど」

「ふんっ、あんたなんて必要ないわ」

「こらこら。ごめんね大田君、今は特に仕事がないんだ」

「そうか、それなら帰るわ」


 にしてもどうして俺の名前ってこんなに知られてるんだ? 実は佐藤みたいに人気者だとか? ……人気者が名前を覚えられていないなんてことはおかしいし有りえないな。


「ちょっと待ちなさい、三宅に言われて来たと言ったわね?」

「ああ」

「またなの……、私たちが散々追い出しているというのに……」


 邪魔されたくないとかそういうことだろうか、それとも単純に俺みたいなのが寄越されるから回避したいということだろうか。


「ここに来ることになったということは部活動の件だよね?」

「最近まで入っていた部から追い出されてな」


 正しくは後輩に追い出されてダラダラしていた結果、致命傷をくらったという状態だが、細かいことはどうでもいいだろう。


「なら所属だけしたらいいよ。僕らは基本的にここで暇つぶしをしているだけだからさ、それで全部解決さ」

「いいのか? なら頼む。大丈夫だ、心配しなくたってふたりの邪魔はしねえよ」

「僕の名前は新田(ゆう)、この子の名前は――」

「言わなくていいわよ、どうせ仲良くなんてしないし」

「ま、僕らは新田姉妹というわけだから、よろしくね」


 差し出された手を握って「大田紘人だ、よろしくな」と挨拶をしておく。

 放課後になにもしなくていいということならこれほどありがたいことはないし清々したくらいだ。

 大体、俺と向坂は仲良くなかった、どれくらい仲良くないかと言うと俺が名字で呼んでしまうくらいには仲良くない。

 基本的に認めた人間は名前で呼ぶタイプのため、そのことはすぐに分かってもらえると思う。


「追い出されたって言ったけど、あんたなにかしたの?」

「したと言えばしたし、してないとも言えるな」


 向坂から直接退部してと言われたわけではないから中途半端な状態となる、けれど俺が彼女を不機嫌にさせたせいで石上が怒り今に繋がっているわけだから結果的に言えばしたと答えるのが妥当だったのかもしれない。


「ちなみにここではなにをすればいいんだ?」

「戻ってきた本をきっちりと戻したり、仲間と会話したり、外でお茶したりって感じかな」

「それでよく許可されたな」

「そんなこと言ったら大田君が所属していた掃除部も一緒だろう?」

「いや、あれでも一応真面目に活動しているからな、それに掃除をしておけば他の人間も気持ち良く使えるだろ?」


 時々なにをやっているんだろうかと我に返る時もあったが、今にして思えば中々悪くないことをしていたなと初めて感じた。

 人は失ってからしか気づけないのが愚かなことだろう。


「つか、どこまで知ってるんだよ?」

「大田紘人君、向坂千夜さんの幼馴染。彼女のために彼女の好きな人と友達になろうするも失敗、おまけにそれを律儀に説明して雰囲気を悪くしたことが原因で後輩である石上來香さんに部活をやめてほしいと言われ了承。けど学校は必ずなんらかの部活に所属しなければ――」

「わ、分かった、もういい、……俺のことを知りすぎてて怖いわ」

「いや、この本に書いてあるだけだから」


 どんな本だよそれ、……表紙は普通に科学読本って書いてあるんだけどな。


「あんたはもう帰っていいわよ」

「おう、これからよろしくな」

「は?」

「まあまあ、それじゃあね大田君」

「おう」


 緩そうな部活を見つけられて良かった。

 今から運動部なんて面倒くさいし有りえないので助かった――と俺は思っていたのだが、


「大田、新田妹の方が文句を言ってたぞ」

「へ?」

「『なにもしないで帰りました! 有りえないですよね!?』ってな」


 自分もしてなかったのに偉そうに言われて複雑な気持ちになったのだった。




「大田君はいるかい?」


 入り口の方から聞いたことのある声が聞こえてきてそちらに視線をやると「やあ」と気さくに笑って新田姉の方が近づいて来た。


「今日も集まるからね、きちんと来てくれよ?」

「え、活動とかあるのか?」

「うん、まあ話すくらいしかないんだけどね」


 なんだそれとは感じたがまた妹に文句を言われても嫌なので了承。


「じゃあ行くか」

「そうだね、行こう――の前に、向坂さん」

「なに?」


 基本的にこの教室で集まってから掃除という流れになっていて、そのために残っていた幼馴染に新田が話しかける。


「大田君は僕達の部に所属することになったからよろしくね。まあでも君はやる気のない人間には厳しいようだし、もう興味もないかもしれないけど」

「ふぅん、そっちに入ったんだ」

「ま、新田の言うようにもう関係ないことだからな。そんなことで時間を使わせたら悪いだろう、早く行こうぜ新田」


 当たり前のように一緒にいたこれまでがおかしかった。

 何故仲良くもない彼女のために動こうとしたのだろうか。

 おまけに後輩には嫌われるわ追い出されるわで馬鹿丸出しである。


「大田先輩まだ諦めてないんですか?」

「ちげえよ、じゃあな」


 優しいだけじゃ駄目なんだ。

 いくら優しくしたって、相手を調子に乗らせるだけ。

 一年生に舐められて素直に認めるなんてアホのすることだった。


「あははっ、嫌われてるね君は」

「余計なお世話だ」


 図書室に移動すると妹の方がこくりこくりと眠そうにしていた。


「ん……はれ……、あんたまた来たの?」

「新田姉に呼ばれたんだ」


 いつの間にか妹の横に座っている彼女を指差して言う。


「はぁ!? 私が姉なんですけど!?」

「え、じゃあお前か三宅先生に文句を言ったのは!」

「てへ」

「褒めてねえよ馬鹿!」


 優羽という名前だと分かった。

 この小さいのが姉で、あっちのふざけてそうな大きいのが妹と。

 ……かなりちぐはぐな姉妹だなと内で呟き対面に座る。


「そういえばあんた、向坂千夜に嫌われているらしいわね」

「いや、元々仲が悪いんだ俺らは」

「ふぅん、ま、あんた誰でも怒らせてそうだもんね」


 余計なお世話だ、この姉妹はなんでもかんでも思っていることを口に出してしまうタイプらしい。

 簡単に言えば一緒にいると疲れる相手ということになるが、どうせ妹の方が逃げようとしても捕まえてくることだろう。


「私はね、佐藤みたいな男がいいわけ、あんたみたいなのと同じ部活とか有りえないから」

「まあそう言ってくれるなよ」

「所属するからにはルールを守ってよ、一つ目は私が呼んだらすぐに来ること」

「仲良くしないんじゃなかったのか?」


 もしこれが冗談ではなく本気なら矛盾がすぎる、おまけにどこの下僕だよって突っ込んだら俺の負けなのだろうか。


「それとこれとは話が別よ。二つ目は私と佐藤の間に接点を作ること、三つ目はあまり遊に馴れ馴れしくしないこと」

「お前にはいいのか?」

「だから仲良くするつもりはないって言ってるでしょうが、あんたの耳と頭はイカれてるの?」


 なるほど、二つ目と三つ目に関しては実に簡単なことだな。


「分かった、それならサッカー部活動終了時間まで待って佐藤に会おう」

「えっ、いきなりっ!?」

「俺はお前の命令に従いたい、ならすぐの方がいいだろう?」


 そして見事に振られて泣きわめけ、へへへへへ。

 それからやけに静かになった新田遊及び新田優羽と時間を過ごし、ついにサッカー部が終わる時間になった。


「佐藤ー!」


 グラウンドで仲間と談笑していた佐藤を呼び寄せる。


「まだ部活のことで困っているのか?」

「いや、ここにいる新田優羽がお前と友達になりたいって言っててな」

「あ、あんた――ごほん、佐藤さんっ、私と友達になってくれませんか?」

「友達に? 別にいいけど」

「ありがとうございます!」


 なんだこいつは……本当にあの新田優羽か?

 佐藤にだけ敬語なんて使いやがって、まあ別にいいけどよ。


「おい佐藤、なんで俺の時と対応が違うんだ」

「当たり前だろ、大田がこう言ってくるのとは純粋さが違う」

「う゛っ」

「ん? 新田さんどうしたんだ? 苦しそうな顔をしているが」

「な、なんでもありません!」


 まあ乙女っぽくていいのかもしれないな。

 なんとなく撫でたくなって頭を撫でたらすぐに手を払われた。

 でも俺はもう知っている、佐藤の前でだけは弱いことを。

 つまり佐藤と一緒にいればこいつは俺に強く出られない!


「佐藤ー、早く帰ろうぜー」

「おーう。それじゃあなふたりとも」


 サッカー部の仲間がやって来て佐藤を連れて行こうとしたのところを彼女が呼び止め「れ、連絡先、交換してくれませんか」とモジモジしながら直球ストレートでぶつかった。


「いいぞ。大田、紙とペンを持ってるか?」

「おう、ここにあるぞ」

「えと…………よし、はい」

「あ、ありがとうございます!」


 あぁ、こうやって素直に喜べるところは彼女のいいところだな。

 向坂なんて俺がなにかをしてやっても「余計なお世話だよ」とか言ってくれていたもんな、もっと早く新田姉妹と関わっておくべきだったのかもしれないと後悔した。


「ん? 大田も受け取れよ」

「待て待て、友達にすらなってないのになんで渡す?」


 別に野郎のなんて登録したくない的なことは思わないが、俺に渡してもメリットがないのだから分からない。


「前は悪かったよ」

「佐藤がいいならいいけどさ」

「佐藤ー!」

「今行くー! じゃあなっ」


 佐藤が向かう先にいる仲間を睨んで「ちっ、あいつ邪魔するんじゃないわよ」と怖く呟いていた。


「おーい、優羽ー」

「ん? どうしたのよ?」

「どうしたもこうしたもないよ、なに僕をほっぽってどこかに行ってるのさ」


 真隣でそういう会話をしていたのだから察してほしいものだが……。

 というかこれはちょっと嫉妬しているのでは? そう考えると実に妹らしい行動をしているようにも思える、実の姉を取られそうになったらそりゃ嫌だろう。


「しょうがないじゃない、佐藤に用があったんだから。大田のおかげで接点ができて嬉しい、ぐへへ……」

「ほーん、佐藤大輝君のことが好きだったんだ?」

「まだ好きという段階ではないけどね」

「僕が応援してあげるよ! 大田君と一緒にねっ、ね?」


 本当は友達になることすらできずに終わると思っていたんだ、なのに向坂の時と違ってあっさりと友達になれた上に連絡先まで交換できてしまった。

 こう考えると単純に悪いのは俺ということになるので、そうでなくても仲の悪い向坂がガチギレするのはおかしくないと思う。

 となると俺は大変な逆ギレをしていたことになるわけで……。


「俺、明日向坂に改めて謝るわ、それと石上に」

「えーっ、それで許してもらえたら戻ってしまうということ?」

「いや、戻ることはしねえよ。でも、俺はあいつらに悪いことをしてしまった、そうなれば謝るのが当然だろ?」


 一度気づいてしまったからには仕方がない、おまけにそこまで屑というわけではないため、延々と誰かのせいになんてすることもないわけだ。


「でもあんた、私との約束も守りなさいよ」

「分かってる、それならID交換するか」

「ま、気がのらないけど別にいいわよ、これをしておかないと呼びつける時に大変だしね」

「安心してね大田君、僕のは既に登録済みだからっ」


 面倒くさいので確認することはしなかった。

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