10話.[晴れてきたわね]
「で、どうする?」
「どうするって言われても……」
というか俺が普通に話しかけてることについて怒ったりはしないのか。
石上のやつは今日考えて俺らをここに連れてきたこともあるから、変に気を遣ってこのまま帰ったりしそうだが。
「來香の言うように悪いのは私じゃない」
「いやまあそうかもしれないけど、俺にだって問題がなかったわけじゃないしな」
「否定はしないのね……」
「そりゃまあ俺は一応お前が喜ぶと思ってやったからな、気になる人間から誕生日を祝ってもらえた方が嬉しいだろって」
その証拠に、俺に言いたくなるぐらいには嬉しそうにしていたわけだし。
「來香、このまま帰ってこないと思う?」
「やりかねないな、それかもしくは本当に三、四分で仲直りできると思っているかってところか」
「私達はどうするの?」
「どうって、……雨宿りか家に帰るかの二択だろ?」
とかなんとか考えていたら都合よく雨が止んできた、段々と勢いが弱くなり晴れ間が出てくるとまでではないにしても完全に降り止む。
「ねえ、ちょっと海の方に行かない?」
「別にいいぞ」
遊泳できる場所ではないため、砂浜ではなく砂利なのが助かるところだった。
とはいえ、これはこれで危険なので小さい相方が滑らないかきちんと見ておこう。
「おわっ!?」
「あ――ぶないわよ、しっかりしなさい」
「わ、悪い……」
おいおいおい、なんで俺が小さい相方に支えられているんだ。
「大田先輩ー! 優羽先輩ー! なにをしているんですかー!?」
「石上もこっちに来いよー!」
「分かりましたー!」
流石に石上も帰るということはしなかったようだ、体勢を直した後に優羽とふたりで笑う。
「海、綺麗じゃないわね」
「かもな。ただ、単純にお前の心が晴れてないからなのかもしれないぞ?」
「じゃああんたが――」
「はい、大田先輩はこれです、優羽先輩はこっちをどうぞ」
彼女がなにかを言おうとしたところで石上が俺らに追いついた。
「ありがと」
「サンキュ」
プルタブを開けて口をつけると、すぐに強烈な刺激に喉がやられて情けなく涙目になったが……。
「一緒に行動しているということは仲直りできたってことですよね?」
「んー、そもそも私が勝手に怒っていただけだしね」
「そうなんですか? じゃあ全て優羽先輩が悪いですね」
「そうね、全部私が悪いのよ」
「ん? なんか優羽先輩楽しそうですね」
「そう? 雨が止んだからじゃない?」
「分かります、雨って私も好きじゃないので」
ロングヘアーは湿度が高いと大変だって聞いたことがあるし、なにより暑そうだ。 それでも切らないのはやはり髪は命! ってぐらい大切にしているからだろう――って、別に髪のことを口にしているわけではないわけだけども。
「お、段々と晴れてきたわね」
「それは優羽先輩の心がスッキリしてきたからじゃないですか?」
「いや、物理的に晴れてるんだからただそれを言っただけだけど……」
「さて、私はそろそろ帰ります」
「は? なんでよあんた」
「だっておふたりはこの後、予定があるんですよね?」
予定? そういえばそんなこと言ってたっけか、石上のやつは俺らが仲直りできたことで目的を達成したということか。
「分かったわ、気をつけるのよ?」
「はい、おふたりはまた喧嘩しないようにしてくださいね?」
「余計なお世話よ、でも……ありがと」
「はい」
で、できる一年生だ……。
「で? どこかに行くつもりだったのか?」
「うん、千夜と佐藤を見に行こうと思って」
「結局それかよ」
「いいの、場所は聞いておいたから行くわよ」
で、その場所とは学校に近くない駅近くのボウリング場だった、佐藤があんな躊躇したにしては想像外の場所ではある。
「あ、いたわよ」
「って、なんでこんなコソコソしてんだよ」
ボールが置いてある棚の後ろから顔だけ出して楽しむふたりを見ているという状態で、勿論当然のように見られているためいますぐ逃げたいくらいだった。
「って、なんで一緒にいるのにあんな距離が遠いのよ」
「確かにな、佐藤の方が距離を作ってる」
「もしかして、今日告白するつもりなのかしら」
「あの雰囲気だと……そうかもな」
高坂はあれでいて運動好きだしこれも高坂提案なのかもしれない、前回は高坂に合わせてもらったから今度はあいつが合わせる番だって考えた感じか。
「おわっ!? さ、佐藤とめ、目が合った! しかも来るぞっ!?」
「私は隠れるからあんた対応しなさい、また後でねっ」
「あっ、この!」
やはり遊の姉って感じのやつだ、つか、結局気になるんじゃねえかよあいつ……。
「奇遇だな」
「どうしたんだよお前、今日はやけに離れているように感じるが?」
「緊張して上手くいかないんだ。とりあえずこういう形で助かったよ、なにかをしていれば会話が多少なくても問題ないからな」
「マジであの佐藤か? カップル限定グッズ欲しさに高坂を誘ったような奴がなにをやってる?」
なにもかもが届かないくらい格好良くいてほしい。
優羽にしてみれば自分以外の人間を選んだのだからそれくらいしゃきっとぱきっと真っ直ぐに向かい合ってほしいだろう。
俺を囮にして逃げたのだってそういうのが関係しているのかもしれない。
「大輝くん? あ、なんで大田くんもいるの?」
「たまたま大田と出会ったんだ、ジュースなら注いでくるぞ?」
「ううん、大輝くんがそっちに行ったから付いてきただけ」
気づけば名前呼びになっている。
てことは当然佐藤だって高坂のことを名前で呼んでいる、よな? 変なところで緊張する奴だから自信を持ってそう考えることができなかった。
「大田くん」
「なんだ?」
「私、大輝くんのことが好き」
「お、おう、なんか俺のことはそういうつもりで見られない的な言い方をするのはやめてくれないか?」
隣の奴が固まっちまってるしな、あと俺は何回間接的に振られるんだよって話で。
「うん、幼馴染だから言っておこうと思って。それと暴力は褒められたことじゃないけど、あの時動いてくれてありがとね」
「本当に今更な話だな、中学時代は結局それでほとんど会話もできなかったが」
最近になって分かった、俺は問題事しか起こしてないって。
自分だけが困る分には全然いいが、他人に迷惑をかけた時点でそれは自己満足では片付けられなくなってしまう、と。
けど、そうやって分かってるくせにやっぱり放っておけなくて、関わる奴らのために動きたいと思ってしまったんだよな。
「そうだね、私も子どもだったんだよ。なんで実際にされてる時に動いてくれなかったのって気になってて、でも、結局自分ではどうにもできなかったからさ。そうやって動けた大田くんが眩しくも思ったけど」
「よせよせ、過去話なんてどうでもいい。ほら、ぼけっとしてんじゃねえよ佐藤、女に告白させて自分はなにもしないってか?」
「あ……」
頼むぜおい、こんな調子じゃ優羽だってスッキリできない。
寧ろ堂々と付き合ってくれた方が複雑な気持ちを片付けられるというものだろう、勿論時間はかかるだろうがな。
「ボウリングはもういいよ。大田くん、外っていま雨降ってる?」
「いや、晴れてるぞ」
「良かった。それじゃあ外に行こうよ」
「わ、分かった」
「大田くんはそこにいる優羽さんとボウリングでもしていったら?」
なんでもかんでもお見通しということか。
「大田、また月曜日にな」
「おう、じゃあな」
ドライなところもあるが要所でしっかり動けるのは凄いな、高坂は。
これができれば、いや、できても優羽に可能性はなかったのかね。
「千夜は凄いわね」
「あいつはあんまり緊張するタイプじゃないからな」
「あれくらい勇気があったら、ちょっとでも可能性があったのかな」
「んー、どうだろうな」
恋愛とかに興味ないとか言ってた奴をああやって変えてしまうくらいのパワーが高坂にはあったわけだ。
「考えるだけ無駄だ、もう諦めろ」
「言ってくれるわね」
「本当のことだろ? 目の前で好きだって言ったんだぞ? どう考えても佐藤だってそういうことをするつもりだったから緊張してたんだろ」
こちらも無駄なことは言わない。ただただ現実を直視させるだけだ。
「分かっているわよ。終わったのよ、私の初恋はね」
「初恋は実らねえから大丈夫だ」
「あんたはないの?」
「残念ながら」
「そうよね、全然モテなさそうだしね」
余計なお世話だ。
中学の時の俺は部活に専念して過ごしたからひとりでも気にならなかった、いや、普通に話せたし嫌われているというわけでもなかったら厳密に言えばひとりでもとは言えないかと終わらせる。
「そう分かってるのに、モヤモヤするのよ」
「ボウリング、やるか?」
「奢ってくれたらやる」
「了解だ」
受付を済まし、シューズも借りて、ボールを持っていけば準備完了。
「ほら、好きにやれ」
「うん……って、あんたは?」
「俺は観客、常に動けた方が楽になるだろ?」
カラオケとかも待ち時間が退屈だったりするし――というのは言い訳で流石にふたり分は払うことができないのだ。
「別にいいのに。ま、いいか、うりゃああ!」
「いやいやっ、おかしいだろテンションが、床破壊するつもりかよ!」
「そんな雑なやり方はしていないわよ!」
さて、こうしている間にも佐藤は決めているのだろうか。
ヤケボウリングに付き合ってやるだけで彼女のモヤモヤ複雑心がなんとなってくれればいいのだが。
「大田」
だからって俺がそういう意味ではないが愚痴とかなら聞いてやるとか、いつでも付き合ってやるよなんて言ったところで高坂と仲良くする佐藤が気になって満足できないだろう。
「大田」
「おう、満足したか?」
「投げ放題ってわけじゃないしもう終わっちゃったわよ、三ゲームってすぐね」
隣に座ってシューズの靴紐を緩めていた。
それは別になんてことはない光景だが、繋がっていた唯一の紐が解けたような感じだった。
「悪いな、金がなくてなー」
「帰ろ、これ以上座ってたら迷惑かけるし」
金は先払いだし後は帰るだけでいい。
そして残念ながら再び雨が降ってしまっていて、傘をさしての帰路となった。
「雨だるいわね~、千夜達がいい感じなんだから空気読みなさいよ、ったく」
「無茶言うなよ」
佐藤が仮に格好良く決めたところでこれは変わらないはずだ。
おまけに既に高坂の方が宣言してしまっているので、どうしたって格好良くならないかもしれない。
「……あんたさ」
「はーい、なんすかー?」
「真面目な話」
「なんだよ?」
彼女が足を止め、その少し先で俺も足を止める、振り返ろうとしたら「振り返らないで」と言われたため動きを止めた。
周りに人がいないということもあって俺らの周りだけやけに静かな感じがする、用も済んだのに一体俺らはなにをやっているんだろうか。
「私が複雑な気持ちを片付けられるまで付き合ってよ」
「どうせ同じ部活だろ?」
「またこういう感じで」
「金がかかることは勘弁してくれ、思えばお前に奢ってばっかりだ」
「分かっているわよ、だから私も返していくつもりよ」
「返していくって?」
おかしな話だ、何故一緒にいて会話もしているのに向かいあっていないんだろうかね俺達は。
彼女がどこを見ているのかも分からない、分かっているのは後ろにはいるということだけだ。
「あんたで満足するから、あんたも私で満足しなさい」
「いやいや、片付けるための手段で利用されてもなー。ほら、初めては大切にしたいだろ?」
「なに乙女みたいなこと言ってんのよ。大体、初恋は実らないものなのよ」
こいつが言うと説得力がある。
実際に体験したことだからな、しかも今日だという新鮮さも溢れてやがるし。
「じゃあこれは?」
「だからもう初めてという考えは捨てなさい」
「おいおい、遊じゃ駄目なのかよ?」
「駄目」
やれやれ、遊さえいればいいんじゃなかったのかよこいつ。
皆最初と言っていることとやっていることが真逆で付いていけない。
「で、お前は堂々と俺を利用するって?」
「そ、だから大田――紘人も私を利用すればいい」
「別にそこまで拗らせてないからな。同じ部活仲間、友達ってだけでいいだろ?」
「不満なわけ?」
「ちげえよ、お前が――」
「優羽、どうせ内では呼んでたりするんでしょ?」
「優羽が満足できるのか?」
大事なのは俺の気持ちなんかじゃない、それをすることで苦しくなるのはこいつだけだからだ。
「だからそう言ってるでしょ? もし壊滅的に無理なら仮に佐藤のためであったとしてもあんなこと頼まないわよ」
「ああ、あれか」
「そう、あれよ」
「ふっ、まあ優羽がいいならいいけどな」
俺ならいつでも使っていいって言ったの自分だし。
「ほんと? それならいまから遊に言いに行くわよ」
「ま、どうせお前を送るつもりだったからな、行く――ぐぇ」
頬にめり込む女子特有の長い爪、鍵で見たらまず間違いなく爪の跡が付いていることだろう。
「は? って、なんであんたいんのよ……」
「ふっふーん、ボウリング場を出てからずっと付いてきていました」
「だったら普通に出てきなさいよ」
至極最もな発言だ。
完全完璧に俺も同じことを思っている、しかし遊は他に言いたいことがりそうな顔をしていた。
「というかさぁ! さっきのなにっ? 『あんたで満足するから、あんたも私で満足しなさい』って! 紘人君は物じゃないんだよっ? ちゃんと考えたことある!?」
「どうしたお前、今日はやけにハイテンションだな」
一応俺のことを考えて言ってくれているようだからキツく言いたくはないが、優羽のためにもやめてやってほしかった――って、どうして俺はこんなに優羽優羽って本当に優先して動いてんだか。
「紘人君も問題だからっ、特に文句も言うことなくなに了承してるの!」
「別に俺は気にしないぞ、俺はこいつの下僕みたいなものだからな」
「ぶーぶー。じゃあさ、それならちゃんと好きって言いなよ優羽!」
「あのねえ、このタイミングで好きなんて言ったら軽い女みたいじゃない」
「軽い女でしょ? なんたって紘人君を頼りにしてるんだから」
なんか俺が軽い人間みたいじゃねえかよ!?
別に本当に気にしていない、自分にとって害のあることならそもそも納得したりもしない。
それをしていないということはつまり嫌じゃないというわけで。
「いいんだよ、俺らはこれで、なんなら遊も優羽を支えてやれ」
「あ、うん、それはそのつもりだけどさ」
「優羽もそれでいいだろ?」
「うん」
「だからもう言わなくていい。これからも同じ部活仲間、友達として一緒にいればいいんだよ」
同じような生活を続けられると考えれば悪いことばかりではない、なにも付き合ったりするのがいいことばかりというわけでもないのだ。
「えー、いいのかなあ、付き合いたいとか思わないの?」
「じゃあお前は俺と付き合いたいって思うか?」
「付き合いたいとは思わないけど、付き合っても別にいいよ?」
「なんだその言い方は、偉そうだぞ」
分かっているからこそ多くは求めていない。
高坂――千夜以外の少女とこうして一緒にいるようになるなんて昔の俺では考えつかなった、だから俺からしてみたら一緒にいるだけで報酬を貰っているようなものだから気にする必要はない。
「いやいや、優羽はもっと偉そうで最低なこと言ったでしょ!?」
「遊邪魔」
「うえーん、お姉ちゃんがいじめるよー」
「紘人、よろしく頼むわよ」
「おう、任せておけ」
その日の夜、佐藤と千夜のどちらからも付き合うことになったとメッセージが送られてきた。
俺はおめでとうとだけ返して、
「俺も恋してえなあ」
と、ひとり寂しく呟く。
「は? 私がいるんだから満足しなさいよ」
「うんうん、そうだよ紘人君」
「なんでいるんですかね……」
「そりゃそうでしょ、そういう契約なんだから」
「そうだそうだー」
ま、うるさいけどひとりよりは全然マシだと割り切った俺なのだった。
読んでくれてありがとう。




