#4話『王城』(前編)
――王城。
それは、帝王のすむ城。オレの目の前にたつデカイ城は、ダンの親父さんが住んでいる城だ……。本当はそうなるはずだった。
「近くで見ると……デケェな……」
遠くからでも、王城の大きさは十分に分かったが、目の前まで来てみると、その大きさに、圧倒される。なんて、堂々たる佇まいだ。
その大きさは大陸中でも一位、二位を争うのではないだろうか。ただ、そんな巨大な城も、主をなくした空き家と考えると……少しさみしい気もする。
そんな王城の前に立って、俺は何をしていのかって? そんなの決まってるさ。この空き家にどうやって潜り込もうかと、考えているんだ。
――いつまでも、ご主人さまが不在じゃ、この城だって可哀想だろ?
「……とは、言ったものの……どうやって王宮に入ろうか。正面突破……いやいや、流石にそれはまずいか?」
王家の人間がどこから王城に入るのが正しいかなんて、魔族のハイデは知る由もなかった。
「まあ、分からない事をあれこれ考えても無駄か……。一応、俺は、王子ってことになっている。自信を持って、正面玄関から入ろう……」
俺は、ダンから譲り受けた王家の証とかやらを首からかけて、歩きを進める。お城の正面玄関だと思われる大きな扉のまえには、立派な甲冑に身を包んだ騎士が数人たっていた。
(随分と立派なフルプレートだなぁ……この国の戦士は一人一人にこんな高そうな防具を与えているのだろうか……。随分と裕福な……)
ハイデは、ダンジョンの中で見た事のない豪華な装備に目をとられていた。故郷ではこんな立派な騎士の防具は見た事がない。
――ただ、それには理由がある。
魔族という種族は、頑丈な防具を必要としないのだ。魔族はたたかいの時、魔力で皮膚を硬化させ、その身を守る。その硬さは、鋼鉄の甲冑さえも凌ぐ。極論、裸だって戦える。
恥ずかしいから、そんなことはしないけど……。
もし、 魔族が、甲冑のような装備を身につけたら、逆に、体の自由が制限され、すばやさが下がってしまう。だから、魔族は身軽な服装に身を包む。
(だけど……甲冑って騎士! とか冒険者! って感じがしてカッコいいよなぁ。……憧れる)
かつて冒険者だったお爺さんも、この様な甲冑を身につけて、数多のダンジョンを駆け抜けていたのかと思うと、胸があつくなる。そんなドキドキ・ワクワクの冒険を俺もいつかしてみたい。
必要・不必要ってギロンの前に、甲冑は男の子の憧れなんだよなぁ。一度でいいから着てみたい。
そんな事を思いながら、騎士たちを熱い視線で見ていると、なにやら近づいてくる……。じっと見続けていたのがまずかっただろうか。
「やばい……どんどん近づいてくる!!」
帝国のフルプレートの騎士が二人、緊張感を漂わせながら目の前まで、近づいてきた。
「さっきからジロジロ見ていただろう、怪しい奴め! 貴様、何者だ! 王の謁見は、今はおこなっておらぬ故、早々に立ち去れ!」
「おいおい、ちょっと待った! タンマ!!」
「タンマもクソもないっ! 怪しい奴め……。ここをドコと心得る!? 帝国王城であるぞ!!」
――ビンゴッ! やっぱりここが王城か!!
俺は指パッチンをしながら、喜んでいると、騎士は物騒なものを突きつけてくる。
「……って! おいおい、槍を向けるなって、俺だよ、俺! ダンだよ! この城の王子!!」
「怪しい奴め! そんなワケないだろう!王子がそんなボロい服をきているわけが……」
騎士の罵倒を聞きつつも、俺は顔を隠していたフードを脱ぎ捨てる。顔が同じなら、流石に納得してもらえるだろう。
「そんな顔を……見せた……ところで……」
10秒ほど経ったであろうか。騎士と俺の間に、静寂の時間が流れる。
「似ている……まさか……今、王子は城にいないし……」
騎士はブツブツとひとり言をいいながらも、なかなか王子とは認めてくれない。
(やべぇ……なんか、マズッたか?! もっと……王族っぽい話し方しないといけないとか!? まさか……「であーる」が王族の共通語尾とか言わないよな!? さすがに話したくないぞ!! 他に、ほかになにか王子って証明できるものは!!)
俺は体をポンポンと叩きながら、何かないかと探す。そして、胸のネックレスに手が触れた時……
――そうだよ! これがあったじゃねえか!!
「なあ、見てくれよ! ……この国の王族の証だろう、コレ!」
俺は、ダンからさずかった王族の証らしいペンダントを考えこんでいる兵士に見せる。騎士が兜のすき間から、一生懸命見ているのが分かる。
「まさか……でも……って、えええ゛!?」
王族の証。その効果はテキメンだった。すぐさま、俺の事を王子だと認識したのか、騎士の驚きとともに、緊張した雰囲気は一気に霧散する。
「こ、これは、王子殿下!? 失礼しました!! 見すぼらしいの衣装だったため、まさかダン様だとは、思いもしませんでした……」
(そ、そう言う事か。衣装の問題ね、良かった! でも、これ俺の私服なんだけど……見すぼらしいって、普通に傷つくんですけど……)
俺は、騎士に悟られない様に、心の中で胸をなで下ろす。最初から他人だと言う事がバレて、ジ・エンドだなんて……、笑えないからな……。
そうこう考えを巡らせている間に、騎士から、追加の質問が飛び交う。
「あの……今までどちらに……」
「あー、えっと……」
(な……なんて言い訳しよう。遊びに行ってた……? いやいや、国の一大事に遊びにいく王子がどこにいる……)
ハイデは頭を巡らせる。王宮の暮らしなんて知らないから……当たり障りの無い言い訳を可能な限り考える。
「あ、あれだ……そ、その……帝王と女王が病気で伏せているから……庶民たちは、さぞや落ち込んでいるだろうと思ってな。庶民は大丈夫かと……心配になって、城下町を散策してたんだ」
騎士達に不穏な空気が流れたのが分かった。沈黙が何時も以上に長く感じられる。
(言い訳としては……苦しいか?やべぇ、何か言わないと……)
俺はアタマをフル回転させながら、次の言葉をかんがえる。
「それで、だな……お、王族たるもの……庶民の気持ちを知るのも上のモノのツトメ。……されど、王族の服装では、みな恐縮してしまうからな。それ故、庶民の格好で、正体がバレないようにしていたのだ」
騎士の肩が大きく上下に動く。騎士は甲冑を着ているため、兜でその顔は分からないが、驚いたのだと容易に想像できた。
(やばい、やばい……この言い訳はまずかったか!?)
「「王子殿下!!」」
「おっ、おう!!」
騎士達の予想以上に大きい声に、失敗したのかと、思わず顔が引きつる……。
「そ……そんな、そんな危険な行為は金輪際おやめください! 帝王様と王女様が病気に伏せている今、アナタ様の身にまで、何かあったら……帝国は傾きますぞ」
騎士の表情は見えないが、その声色からは焦りと、心配の感情がよみ取れた。
(この王宮にも、まだまだ王子の身を案じてくれる忠実な家臣がいるんだな……。友よ、お前が探しきれて無いだけで、お前の味方はいるようだぞ……?)
ハイデは、この部下たちの思いを、今は遠くにいる友に、伝えたいと思った。そして、王子が一人で出歩くことは、表立ってしてはいけないのだと、心のノートにメモをする。
「悪い悪い。心配を掛けた。以後、気をつける。この通りだ……」
俺は、申しワケない事をしたと、誠心誠意、騎士に深くあたまを下げる。
「おっ!!お、おやめ下さい。そんな我々の様な……下々(じも)の兵士に向かって……!!」
「私たちは、国政が不安定な今、王子様にはその身を大切にして欲しいのです。」
「そうだな……。貴公らの言う通りだ。以後、気を付ける」
「そうして頂けると幸いです。我々とて…御身ひとつで城下町に行かれては、お守りできるものも……できませんから」
忠誠をしめす騎士たちに、オレはココロの中で『本物の王子じゃなくて、ごめんね』と詫びを言いつつ、俺は騎士たちに護衛されながら、城の中を進む。
「これから、王子殿下には……謁見の間に行っていただきたく思います。」
「謁見の間……? なにか……あるのか?」
「はい。王子殿下が戻ってきたら、まず初めに……謁見の間に来て頂くようにと。全ての騎士に、小王様方より伝令がありまして」
(小王……。ダンが言っていた、この帝国本国を守る七つの盾の王族たちか……)
現状、この帝国を運営しているトップの七人か…。そして、ダンの両親を殺したやつもその中に……。
「分かった。案内してくれ」
「はい。承知致しました。廊下を進んだ先が、謁見の間になります」
騎士につれられ、無駄にながい廊下を歩く。廊下には高級そうな赤い絨毯がしかれていた。
「ここから先は、気合をいれていかなくちゃな」
俺はこれから待ち構えているだろう、七人の王との対面にココロの準備をするのであった。
――ここから先は、戦場だ。
次へ >> をクリック!!