#25話『処刑姫』前編
――事件から三日後の朝……
重いまぶたを開ける。部屋の窓から外を見下ろすと、国民が城に詰めかけているのが見える。その顔ひとつヒトツに怒りの感情が見てとれる。
「多分……王子を殺したワタシのことを恨んでるんだろうな……ワタシなんていても……」
妹であるロズに向かって、そんな弱音を吐いてしまう。
「姉さま……。絶対に犯人は捕まります……そんな弱気にならないで」
「もう無理よ……。お父様だって、ワタシを見放したし……いいえ、当たり前よね。そうしなければ、ジャスピア王家は滅んでしまう……」
処刑は明日に迫っている。ワタシが死ねば、闇舞は救われる。王家も国も、王子殺しの罪をかぶる必要なんてないのだ。
「ロズ……貴方には最後まで迷惑かけちゃったわね……。これからは、アナタがダン様を……」
双子の妹であるロズベッタであれば、自分の代わりはつとまるはずだ。自分は政治のコマとして、切り捨てられるだけ……。
「ロズ。アナタが巻き込まれる必要はないわ。ワタシのために、メイドのフリなんてしてくれてありがとう……これからは、アナタがこの国の王女よ」
最愛の妹はワタシよりも立派な王女になるだろうと思う。ワタシと違って、ワガママじゃないし、人に尽くすこともできる。ダン王子とだってきっと……ワタシよりお似合い。
「ロズ、アナタは幸せになってね……」
そういって妹を抱きしめる。こうやって、双子をハグする温もりを感じることができるのも、今日が最後……明日には、きっと……。
――ナミダが溢れる。まだまだやり残したことがいっぱいあるのに。
全部、明日でおしまい。ワタシの人生も、明日で……。なんだったんだろう、ワタシって。
「姉さま……必ず助け出しますから……」
ロズはそう言って、
「また……着ますね……」
「うん、わかったわ……いつもありがとう……」
そう言って妹を部屋の外に送り出す。これ以上、一緒にいたら死ぬ覚悟ができないから。
部屋の周りには、たくさんの騎士が立っていた。ワタシを逃さないために。
「逃げないわよ……ワタシに出来ることは、みんなのために死ぬことだけなんだから……」
ベネロッサはヒトリつぶやく。
「でも、最後に楽しく踊れて……よかった……かな……」
ベネロッサは、現実から目をそむけるように、少しだけ眠るのだった。
***************
その頃、王宮では、ハイデがやっと起きられるまでに回復していた。
「兄様! 意識が戻ったんですね……良かった! 本当に……」
目覚めたオレを抱きしめる妹。それを見守るクーフェとレイチェル。そして、なぜかココにいるオレの親友たちは文句タラタラの顔をしている。
「あれが、王子の妹……ダンの妹がこんな美少女なんて……」
「オイラも美少女に抱きしめられたいでゴザる」
「本当だよね! ハ……ダン王子は羨ましいなぁ!」
ゴクー、ダッパ、ブッタの三人が地上に来ているということは、ダンの正体を見破ったということを意味している。その上で、この一大事に駆けつけてくれたということだ。やはり、持つべきは友である。
(ありがとう……あと……黙ってたことも謝らなきゃな……)
そして、ハイデは自分をギュッと抱きしめている妹に目を向ける。
「モニカ、ずっと看病してくれてたんだってな!……ありがとうな!」
「良いんです! むしろ、ご褒美……それに、兄様にこんなお友達がいらっしゃるなんて、知りませんでした……。ワタシとあろうものが……」
(いや、兄の交友関係まで知ってたら逆にこえーよ……)
……と思いつつも、妹だったらあり得そうでコワイ。
そして、クーフェとレイチェルの方に顔を向ける。二人にはめちゃくちゃ迷惑をかけたに違いない。
「レイチェル……それに、クーフェ。オレを助けてくれてありがとうな……」
クーフェは少し涙ぐみながらも、笑顔で答えてくれる。
「あ……当たり前じゃない……何年の付き合いだと思ってるのよ……」
いつもどおりの呆れたような笑顔……でも、今回は心配かけすぎたと心の中で反省する。
「今の状況は……どうなっているんだ?」
「……かなりマズい状況です……ワタシからご説明いたしますね」
レイチェルが口を開く。その内容はオレの予想を遥かに超えるものだった。
まず、巷では王子死亡説が飛びかっているらしい。あの晩餐会で倒れたオレが飲み込んだ毒は、人間ではまず間違いなく死ぬ猛毒。そして、それを見ていたのはウワサ好きの貴族どもと来たもんだ。
(そりゃ、一気に帝国中にウワサが飛び火するものうなずける)
そして、一番の問題は……ベネロッサの処刑が明日に迫っているということ。
「なんで、ベネロッサが犯人に仕立てられているんだ!?」
「ダンスパーティーで、三人将と騎士団長のニエが騒ぎ立てたのよ。ロゼが反論してくれていたのだけど、あの状況じゃどうにも……」
「すべて仕組まれていたってことか……」
「ええ、……バルバロッサ王もハメられていたみたいで……」
クーフェもオレを助けるのに必死で、ベネロッサまでは救い出せなかったというハナシだ。
「多分だけど……銀月と、騎士団長ニエは繋がってると思うわ……」
ゲエテの手が、他国の重要人物まで広がっているとは……どれだけの罠の網が張り巡らされているのだろうか……。ハイデは、警戒してなお、甘かったことを反省する。
でも、ひとつ引っかかることがある。ハイデはそれをクチにする。
「なぁ、クーフェ。お前……あの時、騎士団長と三人将に「悪意」を感じたか……?」
「いいえ……全然感じなかったわ……」
「そこが謎なんだよな……オレを殺す気でいたのに「悪意」をまったく感じなかった……」
そう、まるで……魔族が「悪意」を感じ取れることを知っていたかのように……故意的に「悪意」を封じていた……?
「ハイデでも、感じ取れないなんて、一体……何者なのかしら……」
考えても答えはでない。……でも、只者ではないと思って間違いないだろう。
「随分、苦労しているようだな……」
ゴクーが口を開く。
「ああ……思ったより厄介な奴がおおくてな……」
「そんなコトだろうと思って……」
ゴクーは手に持った袋をガザゴソと漁る。
「色々と秘密兵器をもってきたぜ!」
「感謝するのでござる」
「そうダヨ! わざわざ持ってきてあげたんだから!」
「おい! 作ったのはオレだぞ! お前らが偉そうにすんな!」
「ハハハ……三人は相変わらずだな」
もう見れないかと思っていた懐かしい光景がそこにはあった。
「その秘密兵器とやら……ありがたく頂戴するぜ」
「ああ、後で使い方も教えるさ……それよりも今は……」
そう、ゴクーが言う通り、向かわなければならない場所がある。ハイデはベネロッサがとらわれる闇舞がある方角を見つめるのだった。




