#24話『王子の死』前編
「兄様……いつになったら帰ってくるかなぁ♪」
愛しの兄を待つ妹は、窓の外を見つめつつ、恋する少女のようにルンルンと鼻歌を歌っていた。
「レイチェルも、兄様についていっちゃったし……退屈ねぇ」
いつもだったら、専属メイドのレイチェルと町中でショッピングをして、暇をつぶしていた。だが、今は王城にひとり。レイチェルはというと、新しく兄の専属メイドになったメイドの監視にいったらしい……。
名前は……たしか、クーフェ。白い長い髪が似合っている美人だったと記憶している。
「はぁ、今頃、兄様が他国の姫さまとイチャイチャしているのかと思うと、ヤキモキするなぁ」
愛しの兄様は、今宵は闇舞でベネロッサ姫とダンスをするらしい。好きな男性が、ほかの女性と触れ合うというのは、モニカとしては嬉しくないことだった。
「兄様をイチバン好きなのはワタシなんだもん……」
モヤモヤしながら、窓の外を眺めていると、一台の馬車が王宮の門をくぐるのが見えた……あれは、間違いなくお兄様が乗っていた馬車。
「でも、なんで……帰ってくるには早すぎる……それにこんな深夜に……」
モニカは、不思議に思いつつ、何かあったのかと王城の外まで駆け下りる……。今は、深夜。王城の中には、見張りの騎士ぐらいしかいない。
(何かあったんだわ……こんなに早く帰ってくるなんて……!!)
外に出ると、数人の見張りの騎士と、レイチェル、そして、クーフェがいた。しかし、その顔は、明らかに普通じゃなかった。なぜなら、汗でベトベトだったから……。
「ど、どうしたのふたりとも!?」
モニカは、焦っている表情の二人に問いかける。
「モニカ様! 事情は後でお話します! 今は、ダン王子をッ!?」
そう言って、二人が運び出した兄様の顔色が真っ青なことに気付く。
「きゃあ! 兄様!? 一体なにが……!?」
「モニカ様……今は、ダン王子をかくまうのが最優先です……手伝っていただけますか!?」
新しく専属になったメイドが、お願いをしてくる。確か......名前はクーフェ。その表情は、必死そのものだった。
「もちろんよ。 大好きな兄様を守るためなら、なんだって!!」
三人は王城を駆け上がる。見張りの騎士たちも、そんな様子を見て慌てふためく。王子が倒れたというウワサが、深夜の王城に波及していった。
「レイチェルさん……ダン王子をどこか見つかり難い場所に……」
「そうですね……王子の自室じゃ、犯人に見つかる可能性があるし……」
二人が難しい表情で、眉間にシワを寄せている中、クーフェが口をはさむ。
「事情は良くわからないけど……かくまうならワタシの部屋の隠し部屋に……」
レイチェルは、驚きながら王女の顔を見る。
「そ、そんな部屋、王女様の部屋にありましたっけ……」
「レイチェルにも……秘密だったけど……ワタシの……隠し部屋に……」
そんなクーフェの提案にしたがい、二人は秘密の部屋とやらに、ハイデを運びこむのだった。その部屋とは……
「モニカ様……ワタシが知らない間に、よくこんな……」
「スゴイわね……ブラコン愛にあふれてる……す、すごくステキな部屋……」
誰にも見つかることのなかった部屋を見た二人の感想は、絶句だった。
「あのね、えっとね……兄様のことを思ってたら……ついつい……」
壁中に飾られたダン王子の絵や写真。「I love 兄様」と書かれた日記や、本の数々。モニカの過剰なまでのブラコンが、イヤというほど伝わってくる。
「で、でも、べットもあるし……ちょっとシミがついてるけど……へへへ」
メイドの二人は、なんのシミだと思いつつも、今はそんな事は言っていられない。
「感謝します、モニカ様……これでやっと……」
言葉が途切れたと同時に、クーフェの体が傾く。急に、意識が途切れたようだ。
「おっ、っとっと!」
レイチェルがその体を受け止める。
「だ、だいじょうぶなの? その子……」
「ずっと、必死にガンバってくれてましたから……ダン様の専属として合格ですね」
レイチェルは、クーフェを抱きかかえながら、秘密の部屋を出ようとする。
「モニカ様、お願いがあるのですが……」
「分かってるわよ! お兄様の様態を見ていればいいんでしょ?」
「さすがです……ワタシは、この子を自分の部屋に寝かせてきます」
「分かったわ! 何かあったら、すぐにレイチェルを呼びにいくから」
「よろしくお願いします。 では、失礼致します」
レイチェルは、クーフェを抱きかかえながら自分の部屋へと戻る。既に魔力は底をつき、サキュバスの体も維持できていない。
「クーフェさん……貴方はハイデさんのこと……」
レイチェルは、馬車の中で、ハイデを助けるために必死な彼女の姿を見て、同じ女性としてピンときたものがあった。多分、彼女は……
「ハイデさんは、一体何人の女性を泣かせるのやら……」
その時のレイチェルの表情は、自分も例外じゃないといった顔だった。
「ふふふ、まったく困ったものです……」
深夜の逃亡劇がやっと終わろうとしていた。ハイデの命は、なんとか繋いだが、ココから先の波乱を考えたレイチェルは少し憂うつな気持ちになるのであった。
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――その頃、闇舞のダンスホールでも一波乱起きようとしていた。
銀月《三人将》のウド・グスタフ・エドウィンが叫ぶ。
「王子殿下が倒れたぞ!! 多分、毒をもられたんだ!」
「姫殿下の料理を食べて倒れたぞ!」
「ベネロッサ姫は、人殺しだ! 国家反逆罪だ!!」
ベネロッサは声が出ないほど驚いていた。自分が、食べさせた料理でダン王子が倒れてしまったのだ。でも、どうしてこんなことになったのかが分からない。
「違います! あれは、ベネロッサ姫が作った料理ではありません!」
ロズが三人将に反論している。犯人はワタシじゃないと必死に抗議してくれている。
「さては、料理に毒を混ぜたんだろう!」
「そうに違いない! 」
三人将が大声で叫ぶ。まるで、会場にいる貴族たちに聞かせるように。ロズは思う……「このままじゃマズイ」と。
「ああ、ワタシは見たぞ。王女が料理に毒を入れるところを!」
急に《騎士団長》ニエが声を上げる。闇舞の騎士長であるニエの言葉に、貴族達が耳をかたむける。
「そんな馬鹿な!?」
バルバロッサ王が驚きの声を上げる。まさか、一番信頼していた騎士が裏切るとは思っても見なかったのだ。
「王女のポケットには……毒の小瓶があるはずだ」
ニエが声を荒げる。そして、ベネロッサのポケットに手をツッコみ……
「これが証拠だ!!」
白いキラキラした粉が入っている小瓶を取り出す。
「そ、そんなものをワタシは……」
そんな、か細いベネロッサの声は、三人将の声にかき消される。
「姫殿下! 言い逃れはできませぬぞ!」
「王子殺しは国家反逆罪! なんということを!!」
「バルバロッサ王も関係しているのでは!?」
三人将が、ここぞとばかりに声を張り上げる。
「きゃああ! 王子殺しよ!!」
「闇舞は終わりだぁ!!」
「なんてことをしてくれたんだ!」
それを見ていた貴族が、自分たちは無関係だと言わんばかりに、ダンスホールから悲鳴を上げながら出ていく。
「違うぞ! これは罠だ! 誰かが仕組んだ罠だ!!」
バルバロッサ王はハメられたと、叫びたい気持ちだったが、時すでに遅し。ジャスピア王家は「王子殺し」のウワサは、またたく間に国中に広がるのだった。
まさに急転直下。事態は誰も予想しない方向に向かっていく......。
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