#21話『闇舞姫 ベネロッサ』前編
「チュン、チュン……チュン」
鳥のさえずりが聞こえる。
――ふと、目が覚める。どうやら朝が来たようだ。
まぶたを開くと、まぶしい太陽の日差しが、窓からさし込んでくるのが見えた。
「おはよ。目はさめた?」
女性の柔らかい声が、俺のことを優しく起こしてくれる。俺はまだ眠い目をこすりながら、その声の先に目を向ける。
俺を起こしてくれたその女性。一瞬、レイチェルかと思ったが、その正体は幼馴染のクーフェだった。それに彼女の姿が、なにやら、いつもと様子が違う。
「おはよう、クーフェ。……あれれ、今日はメイド姿なんだ?」
いつも猫の姿をしているクーフェが、めずらしくメイド服に身を包んでいた。純白のフリルの着いた可愛らしいメイドドレスである。レースのカチューシャをつけているそのスタイルは、俗に「ホワイトブリム」と呼ばれるメイド服だ。
いつも淫魔か、猫の姿しかみていないハイデにとって、幼馴染のメイド姿は、スゴく新鮮で、ついつい魅入ってしまう。
幼馴染の知らない一面を見てしまったように、すこしドキッとしてしまう自分がいた。
「あのね、レイチェルさんにお願いして、今日からハイデの専属メイドに就任したのよ」
「あ……ああ、前にレイチェルとメイド戦争して、認めてもらったんだっけ?」
「うん。この前の試験で、王子に仕えるレベルに達しているって判断されたみたいよ」
つい先日、レイチェルとクーフェは、王城名物の「メイド戦争」でお互いの実力を確かめあった経緯がある。そこでメイド長のレイチェルと引き分けたクーフェは、王城中のメイドからその実力を認められ、満場一致で王子専属メイドになることができたようだ。
「……というわけで! 今日から、わ・た・しは! あなたの専属メイドですよ、ご主人さまぁ」
クーフェがドコかの世界の喫茶店にでもいそうなメイドさんのテンションで話しかけてくる。実際のところ、クーフェは結構のりのりだ。元々おばあさんが召使い玄人という不思議な職業だったこともあって、なにやらその血が騒いでいるらしい。
「……んな急に、ご主人様って言われてもなぁ」
「えー……ご主人さまは、ノリが悪いですねぇ」
「だって、今まで幼馴染だったのに、急に専属メイドだなんて……」
俺はクーフェの適応力の高さに驚きつつ、この異様な関係にまだ慣れずにいた。
「えー!! つまんないなぁ。せっかく、王子さまだけのメイドになったのに……なんて、言いつつ……半分はテティの専属だけどね」
テティと王子の交代制――これは、味方であるガルーガとテティのパイプラインになってもらうことが狙いで作ったルールだ。王子自ら、第七小国「白霧」の王と姫に直接会いに行くのは、怪しまれる可能性がある。だからこそ、クーフェに間に入ってもらおうと思ったわけだ。
これで、周りの目を欺きつつも、水面下で情報をやり取りすることができる。
「とりあえず、ワタシは当面の間、テティ姫とハイデの側付きを兼任するから。それで問題ない?」
クーフェは、どうやら話し方をもとに戻してくれたようだ。俺としては、今まで通りにしてくれると助かる。
「ああ、それで問題ないよ。オレが直接ガルーガ王と仲良くすることはできないから、お前だけが頼りだ」
「ええ、分かったわ。……それと、二人のときはワタシも今まで通りに話すけど、他の人の前ではカンペキなメイドを演じるつもりだから。そこんところ、よろしくね」
俺はクーフェの言葉に首をタテにふって答える。クーフェってもともとカンペキ主義っぽいし、こういうところはスゴく真面目なんだよなぁ、と感心する。
「それでなんだけど……ハイデ。私たちがこれからどう動くかってことなんだけど……。」
「そうだな。クーフェとは一度、ちゃんと話さないとなと思っていたんだ。ちょっと俺の案を聞いてくれないか?」
「ええ、分かったわ……聞かせて」
「まず、俺たちの最終的なゴールを確認するが……」
俺は耳をかたむけるクーフェに、これからの進め方について、順をおって話をしていく。まず、最終的な目標だが、これはダンが帰ってこれる状況……つまり、敵対する小王たちに完全な忠誠を誓わせること。そして、怪しい動きをしている隣国との国交を正常化すること。
あと、忘れてはいけないのが、次に裏ダンジョンを戦争に巻き込まないということ。だから、完全な魔族化などは出来ない……。おれのチカラの大半は制限されたまま、戦わなくてはいけないということだ。
そこまで聞いたクーフェが、口をひらく。
「正直、魔族化できないってのはキツイわよねぇ。ハイデの、ベヒモスの圧倒的なパワーとスピードが使えないってことだもんねぇ」
「まぁ一応、悪意探知とか、服で隠れて見えない部分の魔族化はできるけど……」
クーフェの言うように、完全魔族化ができない、もどかしさが無いと言ったら嘘になる。だが、ここにいるのがダンという人間の王子である以上、完全な魔族化は不可能だ。そんなことをしたら、自分の正体をバラすようなものだ。
「おっけー、わかったわ。ワタシも出来る限りサポートするから、頑張っていきましょ」
「ああ、ありがとう。クーフェ」
俺はいつも支えてくれる幼馴染に感謝の言葉を言う。実際に、彼女には感謝してもしきれない。
「それで、今日からのスケジュールなんだけど……三日交代でお姫様たちと……デ、デートしてもらうわ。えっと、最初の相手は……ベネロッサ姫よ」
クーフェは少し眉間にシワをよせながら、おもしろくなさそうに話す。
――第六小国「闇舞」ベネロッサ・ジャスピア王女
姫さまじゃんけんの後に、怒って部屋から出ていってしまった女の子だ。そのせいで、この前は全然お話することができなかった。テティいわく、国を代表する双子の踊り子のひとりなんだとか……。たしかに、いつも着ているドレスは、踊り子が着そうな露出度の高い服だった。
「それとね、王子様あてに、彼女から招待の手紙が届いているの」
「しょ、しょうたいの手紙だって!?」
「今朝、アナタの部屋の前で、右往左往していたのを偶然見つけたのよ。私が王子専属のメイドだっていうと、渡しておいてくれって言うから……。はいこれ。読んでみて」
俺はクーフェから受け取った手紙を見ると、そこには……
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招待状。ダン王子殿下へ。
先日は、急に怒って......
部屋からでていってしまい、
大変申し訳ありませんでした。
お詫びとして、素敵なダンスパーティ
に招待させて頂ければと思います。
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と書かれていた。
「ダ、ダンスパーティー……待て待て、オレなんて一度もダンスを踊ったことないぞ!?」
「まぁ、これも良い人生経験だと思っていってきたら? 王族のダンスパーティーなんて、これを逃したら一生ないんだし」
「そ、そういう問題じゃ……」
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって! じゃあ、ワタシはテティのところにいくから!」
「お! おいっ! 付いてきてくれないのかよ!?」
「だって、小王と会うわけでもないんでしょー? ダンスパーティーならワタシいらないと思うし」
人生初のダンスパーティー、踊ったこともない王子が初挑戦。そんな状況に俺のココロは不安一色だったが、クーフェに進められ、招待状に書かれている場所へと向かうのだった。
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