#19話『悪意』
――第四小国の王、ゲエテ。
非常にアタマがまわり、策略や智謀にすぐれた王だ。そして、自分の邪魔をしたモノをゆるさない残忍さと冷酷さをもっている。
王宮を出たガルーガは、違和感にかられていた。その違和感とは、言うまでもない……ダン王子のことだ。
――ガルーガは思う。
今日の王子は、先日会った王子とは違う雰囲気だった……。いや、あのナヨナヨっとしていて、物腰のよわい王子こそ、本来の姿……。
――だが、前回はどうだったか……。
王城を出ていったときの言い訳や、自分に対する態度は、もう少し強いものがあったのではないか……。いや、しかし、あの王子に限って演技をしているなど……。
(ありえない……あの平和ボケに限って。ありえん、策をつかってくるなど……)
幼少気からの王子の性格を考えると、ありえないという答えにしか辿りつかない。もし、俺を騙そうと動いている動きがあれば、それをキャッチする情報網は、今まで張り巡らせてあった。それに、引っかかっていないということは、あの王子は昔のまま。自分の障害にはなり得ない。
人をだます器量もなければ、立ち向かう勇気もない。戦おうとせず逃げるばかり……王子という椅子に座っているだけの無能。ゲエテは思う……。
(俺が一番キライなタイプの人間だ…。あの椅子から引きずり下ろしたい…)
あの椅子というのは玉座のことだ。ゲエテは、自分よりも格下の王子が、国のトップに立っていることが許せなかった。這い上がってきた自分と、ただ呑々と暮らしていた王子。どちらがこの国のトップに立つべきかは明白だろう。
一瞬、何か見過ごしたものがあるのではないかと不安になったが、ただの思い過ごしとおもって構わないだろう。
それに……もし、邪魔をしてきたとしても、それが何だというのだ。俺は長い年月をかけて準備してきた。今更、あんな王子にワタシの計画が阻止できるワケがないのだ。
帝国の頂点にあるイスに座るため、いままで色々なモノを蹴落としてきた。どれだけの犠牲がでようが、なにを失おうと、かまわない。そうやって、ここまで来たはずだ。そう……ワタシがほしいのは……
――あの平和ボケが座っていた椅子だ!
ゲエテは自らが歩んできた成功の軌跡を思い出しながら、絶対的な自信をその胸にやどし、自分の国である「銀月」へと帰る馬車に乗り込む。
「「おかえりなさいませ、国王陛下」」
馬車の中には、ゲエテの側近であるウド・グスタフ・エドウィンの三人が待っていた。騎士の三人が入っても十分大きい馬車なので、圧迫感は感じない。側近のなかでも、ゲエテが一番信頼をよせているウドが話しかけてくる。
「国王陛下、本国での生活はいかがでしたかな?」
「ふん。ヘドが出るほど居心地が悪かった。あの無能が国のトップにいるのを見ているだけで、むしゃくしゃする。」
「ははは。国王陛下ほど優秀な方でしたら、あのような平和ボケした王子が玉座にすわっているのは耐え難いかもしれませぬな。」
「まったくだ。……だが、そんな時代も、もう終わる。帝国は我が手に……」
ニヤッと笑うゲエテを見て、ウドはゾクリとしたものを感じた。もし、この恐ろしい国王を裏切ったら、どんな罰が待っているのだろうか……考えたくもない。目の前にいる王は、残忍で、冷酷だ。そのことは近くにいる自分が一番知っている。
親や兄弟、子供であろうとも容赦はしない。利用できるものは何でも利用する。自分が国の最上位になるまで歩みをやめないその姿は、まさに鬼。それ以外のなんだというのだ。この王に役立たずと思われれば……
――自分の命さえ危ない。国の三大騎士の自分でさえ、その例外ではないのだ
ウドは、世の中で一番怖い国王を怒らせないように、早々に号令をかける。ムダにお待たせするのは、あまりにもリスクが高い。
「馬車を出せ! 国王陛下がお戻りになられるぞ!お待たせするな!」
ウドは、馬車の操縦士に向かって、出発の合図を出す。それで、少しでも自分の恐ろしい考えがまぎれるように。お待たせするな……それは自分自身に向けた言葉でもあったのだ。
第四小国「銀月」の国王、ゲエテ・グリアス。自らの兄を殺し、王座についた男。しかし、証拠はカンペキなまでに隠蔽され、誰もその罪を問えなかった王。
その男が、遂に帝国をその手に収めようとしている……。誰も止められない。この男を超える智謀の持ち主でなければ……。少なくとも私は……そんな男をウドは帝国ではしらない。
「我が王を止めてくれる逸材は……現れるのだろうか」
ウドの思いは、虚空の空にきえる。聞こえるのは、馬車が走る乾いた音だけだった。
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