#13話『涙のワケ』
ーーもうかれこれ、10年前のことである。
第七小国「白霧」では、若き父、ガルーガ王の生誕祭が行われていた。
その頃、ガルーガは銀月国王ではなく、国の宰相を務めていたという。
ゲエテの兄が治めていた『銀月』と父の治める『白霧』は非常に仲がよく、互いの王の誕生祭には、互いの国の王や重鎮が勢揃していた。もちろん、宰相ゲエテもそこに参加していた。
誕生祭には双方の王や家族へのプレゼントが恒例行事になっており、この年、贈り物を選ぶ役にゲエテが選ばれた。
ーー今思えば、それがそもそもの始まり。
ゲエテは、純金に宝石を散りばめた豪華な贈り物にある細工を仕掛けたのだ。それが渡るのがガルーガの娘、テティだと知りながら。
さらに、その贈り物は、敢えて成人用のサイズで作られていた。テティが大人になった時に付けるよう、敢えて大きく設計されていたのだ。
しかし、それは、全て綿密な策略の上で仕掛けられた陰謀。用意周到な罠であった。
10年の月日が流れ、17歳になったテティの成人の祝の日、銀月から送られたブレスレットを着けたテティは、底しれぬ違和感を感じた。
ーー外れない!! 腕に着けたブレスレットが取れないのだ!
その事態を聞きつけたガルーガは何事だと、銀月の王を問い詰めようとしたが、その数日前に親しかったゲエテの兄は、崩御していたことを知る。
ーー他ならぬゲエテの手で。
しかし、その真実は未だに明らかにされていない。なぜなら、ゲエテの隠蔽工作が完璧だったからである。
だが、ガルーガは確信を持って言える。ゲエテの兄も、テティのブレスレットも、全て仕組んだ犯人は、同一人物であると。
なぜならゲエテは、ティイの命と引き換えに、ガルーガを脅してきたのだ。従わなければ、娘を殺すと......おそらく、前王もゲエテに殺されたに違いない。
ゲエテがガルーガに要求してきたこと......
それは......
帝王争奪戦で、帝王と女王の“死”を黙認すること
他ならぬ…テティの命を引き換えに、忠誠を誓う帝王を裏切れと言うのだ......
ゲエテが宰相の時に仕掛けた罠は十年の年月を掛け、ゆっくりと悪魔の毒牙として成長したのだ。その刃は、今も尚、ガルーガの喉元に切っ先を突きつけたままだ。
そして…遂には、王家を裏切るという苦渋の選択をした父が、自室で頭を掻きむしり、くる日もくる日も、後悔の念にかられていることは知っている。
一生苛まれ続けるであろう苦悩に…王子は手を差し伸べてくれる言うのだ。
私たちを恨んでいても不思議ではない王子が、私達に助け舟を出してくれたのだ。王子はどれだけ器が大きい人なのだろうか......。
それを、平然と話す王子の心境の裏には、悶絶するような葛藤が、きっとあったことだろう…。
しかし、そんな表情は一切見せず、私達に歩み寄ってくれるというのだ。
私は、真っ直ぐな王子の言葉に涙が溢れる。これ以上、王子を待たせるのは失礼だ。
ーー決心がついた。
「分かりました。私は…王子に着いていきます。私に出来ることがあれば何なりとお申し付けください。」
ハイデとクーフェは、涙を拭き取って、顔を上げたテティの瞳に、芯のようなものを感じた。
「俺を信じて着いてきてくれてありがとう。…さっそく何だけど一つお願いがあるんだ…。」
ハイデは、ゆっくりと深呼吸をしてから、静かに言葉を紡ぐ。
「お前の父、ガルーガに会わせてくれないか。」
そう。もうひとり、説得しなきゃいけない人物がいるのだ。
テティは、そんな真っ直ぐ揺らぎのないハイデの目に、魅入っていた
・・・・・・・・・・・・・
三人はテティの部屋を出て、ある人物の元に足を運んでいた。
(こんな時間に付き合ってくれるテティには感謝だな。)
既に、時刻は亥ノ刻を過ぎている。良い子は寝る時間。
こんな深夜に一国の王に会おうというのだ。実の娘さんから紹介してもらったほうが気分を害さないだろう。
テティの部屋を出て、ロウソクの火が炊かれた薄暗い廊下を歩く。
「もう少しで着くので、もう暫くお付き合いください。」
「ああ、ありがとうな。」
道中、テティの気遣いに感謝していると、ふいに後ろから耳打ちが聞こえる。それは、俺にしか聞こえない程度の音量だった。
「次からは、念波を飛ばすわ。ハイデだけじゃ心配だもの…。もしガルーガとの会話で詰まったら…念波で相談しましょ。」
魔族の固有能力である“念波”は、誰にも悟られず、二者間の心の会話が可能である。頭の中に直接語りかける技は、交渉事において非常に協力な能力である。
《もしもし、聞こえる?…》
《ああ…。そんなに心配か?》
《いや、貴方の勘や舌戦の強さは重々承知してるわよ…。ただ、たまにポカするから…心配で…》
《ははは…いつも、ありがとうな。でも、今回ばかりは結構自信があるんだ…》
《お得意の感情検知だっけ?ホント、貴方の種族はこういう時便利よね…。》
《裏ダンジョンだと、いいヤツしかいなくて、一生使うことがないと思ってたけどな…。こんなドロドロした世界で初めて活きる悲しい能力だよ、まったく。》
《私からしてみれば、無機物のアクセサリーにまで反応するなんて、思っても見なかったわ…。どんな直感力してるのよ…。》
《あはは、それしか取り柄がないからな!綿密な計画を立てるのはお前にまかせて俺は直感に従うぜ。》
クーフェはその勘が恐ろしいほど、研ぎ澄まされていることも長年の付き合いで知っていた。ただ、同時に間違った方向に行った時のポカが多い所は、自分がカバーしないとイケないことも知っている。
そうこう念波による秘密の会議をしている内に、ガルーガの部屋の前に三人は到着する。なぜなら、テティが大きな扉の前でノックをしたからだ。
ーーコンコンコン。
「お父様…。夜分遅くに申し訳ありません。」
「ん?テティか。こんな時間に、なんだね…。」
「実は…王子殿下と直属のメイド様がお父様と話したいと…。あと、私からもお話があります。」
「な、王子殿下ですと…。分かった、すぐに支度するのでお待ちを。」
バタバタと身支度をする音が、扉のむこうから聞こえる。こんな時間に急に訪問して悪かったな......と心の中で謝る。
ーーバタンッ。
ドアの前で待っていると、ガルーガの方から扉を空けてくれた。
「王子殿下。お待たせ致しました。どうぞ、こちらへ。」
案内された部屋の奥には、高級そうな大理石のテーブルを座り心地が良さそうな椅子が用意されていた。来客用の部屋だろうか…。俺は、ガルーガの対面に着席する。クーフェはメイドを演じるべく、俺の背後に立っている。
俺の突然の訪問に、ガルーガは驚いたようで、これから何の話が始まるかの検討も着いていないようだった。
「まずは、この様な時間に、無理に押しかけてしまって、すまなかった。」
「いえいえ、問題ございません…。それで、王子殿下。この様な夜遅くにどういったご用件で…。」
夜も遅いし、俺も長々と無駄話をする気はない。
「単刀直入に言うぞ。俺の味方になれ。」
ガルーガは予想だにしない申し出に、目のさめる思いだった。
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