ヒロインは幼馴染より可愛く描いてみようと
長くなりました。すみません。
第7話 ヒロインは幼馴染より可愛く描いてみようと
80点から90点。多分、私がこれまでの自分の人生を採点したらそんな感じになる。とにかく私は結構、完璧な人生を送っていたと思っていた。
「天王寺さんは凄いよね。」
正直、そんなことは言われ慣れてるしこんな事をいうのはあれだが、私は普通じゃない。生まれも育ちも良いし、顔だって可愛い。そして、努力だってしてる。髪型だって部活だって。勉強だって。要するに私は美少女だという事だ。
じゃあなんで評価が80点から90点なのかと言う理由は簡単だ。私は一番ではないのだ。
甘露寺 京香という少女は全く人気がないのにも関わらず私とおんなじくらい可愛いのだ。
まあ、そんな訳で可愛すぎる女子高生である私は少し憂鬱になっていた。また、名前も覚えていないような女の子が彼氏を誘惑するのを辞めてくれとかなんとか言ってきたのだ。正直、めんどくさいし意味がわからない。誘惑するも何も私はモブに興味なんてない。
男子なんて、ある男子を見てこいつは普通かなと思えれば良いくらい。正直、男子を好きになった事も無ければ、気になったこともない。
だけど、私はその女の子にも誠実な対応をして追い返した。でも、よくよく考えたらその男だっておかしいのだ。本当に私の顔だけで選んでるなら、甘露寺 京香でも良いはずだ。顔だけでいうなら彼女は私と変わらないレベルに可愛いのだから。だから、彼らは所詮その程度なのだ。私という学校の中で最も人気のある女の子だから良いのだ。もちろん、そんな奴は私は許さない。名前は知らないが、私は嫌いだ。
だから、部活を一生懸命やっていた。嫌なことがある時は運動をやって忘れるに限ると後輩が言っていたから。
と、そうは言っても5月の日差しは充分に強くて、私は休憩時間になるとすぐに汗でドロドロになってしまった部活のTシャツをパタパタと揺らして仰ぎながら、涼しそうな場所を探していた。
体育館の裏の階段になっている場所を見つける。ふうと息を吐いて、前髪を全部ピンで纏めて上にあげて、そこに座った。前髪は可愛いから作ってはいるが、結構うっとうしい。家に帰ったら、前髪なんて全部上に上げている。超絶美少女はしんどいし、努力の上で成りたっているのだ、だから、正直油断した。こんな体育館の裏に来る人がいるなんて思っていなかったのだ。
「お、天王寺さん。その髪型もいいね。」
ばっと振り向いて、誰なのかと声のした方を見る。そして、いつもと違う茶色の髪を完全に右に流した人を見た。
「四堂君?」
四堂 ハジメ君。まあ、私基準でどちらかといえば普通な男の子。あの甘露寺 京香の幼馴染だ。だけど、私はあんまり良く知らない。
高校一年生の時から知っているが、甘露寺 京香とその幼馴染の四堂君はよくわからない。
彼らがあんまり好かれていないのはわかる。実際に、甘露寺 京香は学校ではいないも同然に扱われているし、四堂君もあれだけかっこいいのにも関わらず、彼の友達以外に話しかけられているのを見たことがない。彼が女の子に騒がれだしたのも結構最近だし。
だから、私から見た彼はどちらかといえば、私のことを全く気にしないタイプの子という判断だ。
中学生くらいから、私を見れば話題があるとかないとか関係なく、男子達は話しかけてきた。教室でうるさい子でも静かな子でも。だから、私は驚いた。席が隣になった時に嬉しそうな顔をするでもなく、嫌そうな顔をするでもなく、ただ淡々と声をかけてきた四堂君には。
「天王川さんだよね?よろしく。」
「へ?」
まあ、あんだけ可愛い幼馴染がいれば大抵の女の子は普通に見えるだろうけど、さすがの私も名前を間違えられたのは初めてだった。
「天王寺なんだけど。」
「え?まじ?ごめん。」
明らかに素の表情で間違えていた彼のことを凄いなと思ったのを覚えている。
と、そんな回想に浸っていた私を現実に引き戻すかのように四堂君は声をかけた。
「チア?」
「そうだけど。」
「大変だね。って、はい。」
四堂君から、まだ水滴が付いているスポーツドリンクを渡される。
「え?くれるの?」
「うん。女の子には優しくしろって言うのが幼馴染の遺言だから。」
「甘露寺さん、死んでないと思うのだけど。」
「いや、冗談だって。」
「つまらないわ。」
「ええ〜。ひどい。」
四堂君は私の隣にアイスを持ったまま座る。
「私は天王寺よ。」
「いや、知ってるよ!」
だけど、私が視線を向け続けると、四堂君はしっかりと私の目を見ていたのにだんだんとうつむき始めた。
「いや、すみません。あのときは、いろいろ忙しかったんです。もちろん、天王寺さんのことは知ってました。ダントツに可愛かったので。」
「甘露寺さんの方が可愛いでしょ。」
「いや、まあ非常に難しいよね。そこは。茶髪のセミロングで初夏が似合う京香も捨てがたいし、冬にめっちゃ短いスカートにコートを着た寒そうな天王寺さんもありだし。あと、選考の基準に水着も入れたいよね。バニーガールとかも。」
「キモい。女子の冗談相手に本気で考えてるのがキモい。」
私は若干ひいて、四堂君から距離を取る。
「勿論、ジョークだよ?」
「はいはい。もうわかったから二度と私の前で、生足とか言ってさえずらないでくれる?」
「そんなことは言ってないんだけど。」
目の前に落ちていたペットボトルを大きく放り投げた。
「ところで、なんで話しかけてきたの?あなたは一回も話しかけて来なかったわよね。私と席が隣だったときは。」
結局、ずっと気になっていたことはそれだ。この人は唯一、私に全く話しかけてこなかった人だ。
「なんかさ、さっき怒ってなかった?」
「は?怒ってないのだけれども。」
もう既に若干キレている。
「いや、違う。今じゃなくて。さっきだって。それになんで怒るの。」
「あなたは私の様子に気づいてたの?」
四堂君は恐る恐る首を振る。
「いや、勘なんだけど。なんか怒ってるように見えて。間違ってたらごめん。」
なんかポーンと撃ち抜かれたような気がした。何かが少し違って見えた。だからというわけではないけれど。私は四堂君の食べていたアイスをひったくった。
「ちょっと。ええ?」
ようやくなんであんなに可愛い女の子が、この男一人に執着するかがわかった気がした。
「明日、チアの大会があるわ。詳細はあなたに送っておくから。来なさい。そしたら、これを返してあげるわ。」
ひったくった勢いでアイスを舐める。本当に勢いだからこの後をどうすればいいかがわからなくて、前髪をとめていたピンを外して、前髪をバサバサと下ろす。
顔は多分、赤いと思う。きっと、男の子が気になった瞬間があるとしたらこの時だ。私はひたすらそう思って、Tシャツが乾いた事にやっと気づいた。
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よろしくお願いします。