妹をヒロインとしてカウントしていなかったことに筆者は焦った。
第3話 妹をヒロインとしてカウントしていなかったことに筆者は焦った。
「お兄ちゃん、お帰りなさい。・・・ってどうしたんですか?」
俺はショックを受けていた。教室で見てしまった幼馴染の姿に。あれはいつもの優しい幼馴染じゃなくて、昔の幼馴染だった。別に昔の幼馴染が良いとか悪いとかそう言う話じゃない。ただ、幼馴染の俺にまで本性を隠されているのがショックだったのだ。
「お兄ちゃん、聞こえてますか。あの、大丈夫ですか。」
「あー。かえでか。おかえり。」
「はい。お兄ちゃんのかえでです。って、かえでって誰ですか?紅葉です。お兄ちゃんの妹のもみじです。それに帰ってきたのはお兄ちゃんです!」
「もみじは元気だな。」
「いや、誰のせいだと思ってるんですか?」
騒がしい妹の髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でる。でも、もみじは少し嬉しそうな顔をした後に正気に返るみたいに表情を変えた。
「もう!せっかくセットしてたのに。そういうのはお風呂入る前にやってくださいっていつも言ってるじゃないですか!」
家に親は居ない。もみじが中学二年生になった時に母親が父親の転勤についていった。もみじと京香さえいれば母親はいらないし、俺は死なないと言う理由で。まあ、実際そうだから否定はしないけれど。
「お兄ちゃん。今日は京香ちゃん家に来ますか?」
もみじはウサギみたいにぴょこっと頭を俺の部屋のドアから出す。
「あー。なんか、よくわかんないや。」
「と言うか、お兄ちゃん今日京香ちゃんと一緒に帰ってきてないんですか?」
「帰ってきてない。」
「部活も行ってないですよね。家に帰ってきた時から変ですし。何かあったんですか?」
いつもだったら何故か、帰り道で絶対に会う京香が今日は居なかった。俺が部活に行かなかったから時間が被んなかったからなんだろうけど。でも、そう考えたら不思議だ。京香と帰り道が一緒にならなかったのなんて何年振りだ?
「いや、なんかまあ。大人の話だよ。」
だけど、もみじは俺の返答が気に入らなかったのか、俺のベットに座ってお兄ちゃんが話すまでは動きませんと言う。こうなったらもみじは動かない。京香ともみじは結構似ている。二人とも一回決めた事は絶対にやめない。
「じゃあ、聞いてくれるか?」
「はい。」
「俺、多分かっこいいと思うんだ。」
「はい?」
「今日、鏡を見て、教室を見回して思った。俺よりかっこいいやつがいないってことを。」
「一体、何の話ですか?」
「俺、アイドルになるわ。」
「本当になんの話ですか??」
他愛もない話にもみじと興じる。いつもは京香がいるから、特にこういうくだらない話はもみじにあんまりしたことなかったけれど、意外と盛り上がる。だけど、血の繋がった妹というのは俺の想像以上に手強かった。
「じゃあ、話してください。」
「やっぱ、これじゃ無理?」
「無理です。」
「納得してくれない。」
「できません。京香ちゃんはお兄ちゃんの幼馴染でもありますけど、裏を返せば私にとっても幼馴染です。だから、放っておくことはできません。」
凛とした口調で話すもみじは絶対に自分の意思を貫き通す。だから、結局俺が折れるしかないのだ。
「じゃあ、話すけど。」
「はい。」
「多分、俺、京香が浮気した彼氏を土下座させてるのを見ちゃったんだよな。」
「へ?」
「見間違えじゃないと思う。京香が自分の昔の姿で接するのってそれこそ彼氏ぐらいしかいないだろうし。」
「へ?」
「だから、ショックなんだよなあ。」
「え〜〜?!!」