番外編っぽい本編
10話 番外編っぽい本編
「なんでこうなったんだ?」
汚れてしまった家の中で、ハジメはそんな事を呟いていた。
少し遡って、2時間前。ハジメは少し前から、机の上においている自分のケータイに通知が来ていることに気づいていた。しかし、それにも関わらずハジメは見ているだけで、いつまで経っても表示されているメッセージを開こうとはしなかった。
ハジメは通知を女の子以外には反応しないようにしている。だから、通知が来るとしたらもうそれはほとんど二択で、これまでの流れから見るとほぼ一択という感じだった。
「京香しかねえよなあ。」
気づいたら声が漏れている程にも追い詰められてはいたが、どうせいつかはやらなきゃいけない事を先延ばしにする程のファイトは彼にはなかった。
ハジメは彼女からのメッセージをみようとケータイを手に取る。でも、ハジメが京香からのメッセージを見るより先に、大きな振動がケータイから響いた。突然ケータイが鳴ったことに驚きながらも、ハジメは直ぐに画面を横にスクロールして、耳にケータイを当てる。
「はい。もしもし。」
綺麗な声ではあるけれど、まだ幼い声。これはもみじの声だ。
「もしもし。お兄ちゃんですか?」
「えっと、まあかえでという妹が一人いるので、一応お兄ちゃんを16年ほどやらせてもらってます。」
普通にボケはスルーされて、もみじは話を続ける。
「お兄ちゃん。本当に私に感謝してくださいね。」
普通にボケをスルーされたことは全く無かったかのようにハジメは応答する。
「え?なんで?」
「なんでって、京香ちゃんがめっちゃ怒っているのを私が今、慰めてるんですよ」
「いや、わからないんだけど」
「何がです?」
「だから、あいつなんで怒ってんの?」
「なんでって、お兄ちゃんが京香ちゃんの告白を変に捉えたせいでって・・・・って、私が説明したらダメじゃないですか!」
もし、電話越しに話を聞いている人がいたら、それだけで相手が怒っているのがわかるほどの勢いだが、それはハジメが気づくほどのものではなかった。
「告白?なに、あいつ好きな人いるの?」
「は?」
「なんだよ。」
「かああ!!!」
電話越しの叫び声にハジメは思わず、電話口から耳を離す。
「なんだよ。怖えなあ。」
「怖いのはお兄ちゃんです。」
「俺は急に怒り出す京香とかもみじが怖い。もう、人間不信になりそう。」
「お兄ちゃん。気が合いますね。私も自分の血が兄と繋がっていることが信じられなくなりました。DNA鑑定でもしますか。」
電話からもみじの乾いた笑い声が聞こえる。
「とにかく、京香ちゃんはどうにかしますから、家を掃除しておいてください。」
「どういうことだ?」
「私は京香ちゃんを説得して、家に連れてきます。家までくればどうせ、京香ちゃんなら添い寝でもすれば機嫌は治るでしょうし。」
「ほう。」
思わず、声が漏れる。さすが、もみじさんはよくわかっていらっしゃる。
「一応、8時までには帰ります。まあ、お兄ちゃんに高度な掃除を求めても無理でしょうから、一応掃除機だけお願いします。」
「余裕だぜ。セバスチャン。」
「どっちかというと、逆ですね。」
「チャンセバ?」
「ごめんなさい。お兄ちゃんに言った私がバカでした。」
「じゃあ、掃除しとくわ。」
「お願いしますね。」
電話を切りながら、ハジメはまず雑巾を探した。掃除の基本は雑巾だろと小学校の知識のままで考えながら。そうして、とりあえず雑巾を濡らしてリビングの端から端まで雑巾を滑らせる。ただ、同じ作業の繰り返しはだんだんと気がめいってきて、次第に新しい事にチャレンジしたくなってくる。
だから、ハジメは気分を変えようと思って、もみじが掃除用具をたくさん入れている棚を物色した。
「スポンジ、たわし・・・・・要らないよなあ。お?漂白剤?」
だんだんと楽しくなってきたハジメを遮るものはもう何も無かった。
一時的にではあるが、機嫌が直ったっぽい京香はもみじと共に家に帰っていた。そうして彼女達が正面に立ったのは駅から、徒歩5分ほどの場所にあるそこそこ大きな一軒家。
「お兄ちゃん、ちゃんと掃除してますかね?」
「私は、無理だと思うわ。」
もみじの隣にいる美少女はそんな感じ。だけど、もみじも似たようなことは感じている。
「お兄ちゃん、頭も顔も悪くないんですけどね」
「人間としてダメなのよね」
散々なダメ出し。でも、それも彼女らにとっては全然普通のこと。
「さすがに、私もさっき京香ちゃんに好きな人がいるのかどうかを聞かれてひきました」
「あいつ本当にバカね」
「もう、なんでこんな事になってんでしょうね。本来ならお兄ちゃんが告白を受けてそこで終わりだったのに。」
もみじは女の子っぽくない仕草で髪の毛をガシガシと掻く。
「私がミスったんだろうけど、よくよく考えるとミスと言われるほどのミスはしてないわね。」
「まあ、これ以上話してると、イライラしますし、後は本人に聞きましょう。」
「まあ、そうね」
京香が手慣れた様子で、その家のドアを開ける。すると、そこにはいたのは壊れた掃除機を持って焦った顔をしている幼馴染と明らかに汚くなっている家。だけど、なんでと理由聞く前にハジメが口を開いた。
「説明をさせてください」
わなわなと震えているもみじを横目に見ながら、ハジメは手早く状況を説明する。
「掃除をしていたんです。雑巾掛けしたり、掃除機かけたりして。でも、なんかその作業にも飽きてしまって。そうしたら、漂白剤を見つけたんですね。」
「待って。漂白剤は洗濯するものなんだけど」
「まあ、掃除というジャンルは同じだからいけると思って」
もみじが凄まじく引きつった顔をしながら、ハジメの方を見ている。
「それで、洗濯機と同じ要領で、掃除機に放り込んだらなんか掃除機が動かなくなって。」
「うん」
「今は掃除を諦めてテレビを見ていました」
すぐさま馬鹿な兄の首をしめようと兄に近づいたもみじは大きな笑い声に驚いて、止まった。
「アハハハハ」
「京香ちゃん?」
そうして、京香は姿勢を正して
「なんか、もういちいち怒るのも馬鹿らしくなっちゃったや。ハジメがバカな事なんて今さらだったし。そもそもこんなバカだから良いんだし」
どこか吹っ切れたような呆れた顔で京香は話す。
「いや、今回のは不幸な事故だから」
「どこがですか?頭、悪いだけでしょ。」
「おっと、妹君よ。柔軟な思考を持って生きている兄にそんな事を言うのは良くないと思うぞ。」
「柔軟?漂白剤を掃除機に入れる事が?」
「やめろよ。そう聞くと俺がヤベー奴みたいに聞こえるじゃねーか。」
「実際、そうなんですよ!」
もみじは壊れてしまっている掃除機を持ち上げてみて、少し離れたところで何か話している自分の兄とその幼馴染の姿を見る。多分、どのような掃除のプランを立てていたかの話だとは思うが、京香は楽しそうに話している。
「まあ、京香ちゃんのご機嫌が取れたなら、及第点としますか。」
もみじは家の掃除は後回しにして、とりあえずご飯を先に食べる事にしようと、そんな事を考えながら、まだ話している兄達を羨ましそうに見ていた。
ここで、書くことではないと思うのですが、すみません。申し訳ありませんが、これからの展開をもう少し考えようと思うので、少し時間を下さい。そのため、一旦、連載状態をやめて、完結状態にしておきます。また、展開を考え直したら連載を始めます。本当に申し訳ありません。




