竜神探闘:準備期間③ー前編
今日は長くなりすぎましたので、二つに分けました。前回の続きはここらです。
アディルはアリスに連れられて面会の場まで連れ立って歩いて行く。
(あのジジイの用件は不愉快だけどアディルと一緒にいるきっかけを作ってくれた事には感謝しないとね)
アリスは心の中でセルゲオムに対してやや皮肉めいた感謝の念を送った。
「ここね?」
アリスが扉の横に控えている騎士に尋ねると騎士は黙って一礼する。騎士は頭を上げると扉を開けるともう一度一礼した。
アディルとアリスは騎士に軽く頭を下げるとそのまま部屋に入った。
部屋に入ったアディルとアリスの視界には一人の男が座っているのが目に入る。
セルゲオムは銀色の髪を短く刈り込んだ偉丈夫で年齢は40代前半と言った容姿の男性であり、頭部には竜族の証である角があった。容姿も整っておりアリスの一族は容姿が整うという遺伝子が先天的に組み込まれているのだろう。
「座れ!!」
セルゲオムが開口一番アリスに命令する。その傲岸不遜な言い様にアディルは不快感を持つが、アリスがにこやかな嗤顔を向けたことでそれを思って煮出すようなことはしなかった。
「これはこれは、大叔父様ご機嫌麗しゅうございます」
アリスはの挨拶はどこまでも優雅であるが、そこには一切の敬意が含まれていない事はアディルには十分に理解できる。そしてそれはセルゲオムも同様であったようで不快気に表情を歪ませた。
「ご機嫌が麗しゅうはず無かろう。レグノール一族の恥さらしが!!」
セルゲオムが苛つきを辛うじて抑えて言う。アリスへ敵意のこもりすぎた視線を向けるがアリスはまったく気にした様子は無い。
「随分な言いようですね」
アリスはため息をつきつつセルゲオムの前に腰掛けると、アディルを見て自分の横をポンポンと叩いた。どうやらここに座ってという意思表示のようである。
アディルはその仕草を見てから遠慮無く座ろうとしたところ、セルゲオムが一喝する。
「誰に断って座るつもりだ下郎!!」
セルゲオムの恫喝は凄まじい威圧感が込められていたがアディルは構わずにアリスの隣に座ると不敵な視線をセルゲオムに向けた。
「さっさと用件を言ったらどうだ?」
アディルとすればセルゲオムの態度から友好的な関係は望めないと判断したからであろう、まったく不躾にセルゲオムへと言い放った。喧嘩を売ってきた相手に礼儀を守ってやるほど人間が出来てはいないのだ。
そのアディルの態度にセルゲオムは激高しつつ腰を浮かせた。胸ぐらを掴もうと手を伸ばし駆けた所でアディルの声が発せられた。
「やめとけ。ここで俺に手を出す事の意味がお前にはわからんのか?」
アディルの声は決して鋭いものではなかったが、セルゲオムには十分にそのいとが通じたようであった。
「俺はアリスとともに竜神探闘に出る。俺に手を出すと言う事はお前はイルジードの手先としてアリスの竜神探闘を邪魔するつもりで来たという事か?」
アディルは目を細めるとセルゲオムは唇を噛んで再び座った。アディルの言わんとした事を察したのだ。竜神探闘に参加する者に危害を加える事は当然認めれていない。
もし、危害を加えた場合はその実行者は重罰に処せられるし、指示をした者も同罪として重罰に処せられることになっているのだ。
「アディル、その辺にしてあげて。大叔父様は考えが足りないからそれ以上煽ると本当に手を出してくるわ。まぁアディルなら簡単にいなせるでしょうけどね」
そこにアリスがセルゲオムに言い放った。アリスの言葉はもはや無礼の域を超えて宣戦布告に等しいものであると言えるだろう。
事実、アリスとすればセルゲオム達に宣戦布告をしているという思いであった。
「ア、アリスティア!! 貴様誰に向かって口をきいている!!」
「もちろん、イルジードの手先に成り下がった長老面したそこの無能によ」
「な……」
「前選帝公であった私の父がイルジードに殺されたのは明らかなのに何ら弾劾しなかったのはどういう理由からかしら? それとも無能すぎてイルジードが父上と母上を殺したことすら掴んでなかったの?」
アリスの舌禍は容赦なくセルゲオムへと放たれる。アリスはもはや容赦するつもりはないようで、呆然とするセルゲオムへと追撃を行う。
「セルゲオム、あなたは私に幼い頃、“正義を忘れるな”とか“一族のため”というのを随分と偉そうに語ってくれたわね。それが何? 私の父と母を殺したイルジードの選帝公就任に対して何も物申すことなく傘下に下るなんて情けないわね」
アリスの言葉にセルゲオムは返答できない。アリスの弾劾はセルゲオムにとって急所である事は間違いない。
「いくらもらったの? まぁ金で動くことは悪くないわ。であんたの正義感とやら金貨一枚もあれば十分だと思うけどどう? こちらに寝返らない?」




