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申請③

 入ってきた二人の竜族は年齢が相当高い男性二人である。


 一人は銀色の髪をオールバックにしたカミソリという異名を持ってそうな目つきの鋭い男、もう一人は、筋骨逞しい大男で威圧感は相当のものであるが、目元が優しく意外と子どもに好かれそうな感じである。


「エスマイグおじ様、 ラグードおじ様」


 アリスの困惑した言葉であったが、アリスの言葉を聞いた瞬間に二人の竜族の男は顔を綻ばせた。


「アリス、いままでどうしておったのだ?」

「そうですよ。姿を消したと思ったら、現れると同時に竜神探闘(ザーズヴォル)を訴え出るなんてどうなっているのですか?」


 二人の竜族は矢継ぎ早にアリスに質問する。声の調子からアリスを本当に心配しているのがありありとわかる。


「えっと……

「それにレジ―ルを素通りしていったのはどういうつもりですか!!」

「エスマイグ!! お前の質問は後にしろ」

「煩いですよ。ラグードこそ後にしなさい」

「なんだと!?」

「やりますか?」


 竜族の二人が睨み合う。視線が空中でぶつかり合い火花がちったようにアディル達には思われた。高まる緊張感にアディル達も密かに喉をならした。その一触即発の雰囲気の中でアリスが叫んだ。


「もうおじ様達ったら止めてください!! きちんと説明しますから!!」

「う……うむ」

「私としたことが……続けなさいアリスティア」


 アリスの叫びに二人の竜族はやや冷静さを取り戻したようでアリスの話に耳を傾けた。


「みんな、紹介するわね。こちらの方は“ラグード=ヴォル=イルメス”様、竜神帝国の四強である白竜騎士団の団長よ」

「ラグードだ」


 アリスの紹介を受けてラグードは端的に自己紹介を行う。ラグードは威圧感も害意も発していないのだが、獅子ですら逃げ出しかねない迫力があった。


「そしてもう一人の方がレジ―ルの統監である“エスマイグ=カルム=レデン”様よ」

「よろしくお願いします」


 エスマイグもアリスの紹介に簡単に挨拶を行う。エスマイグの方もラグード同様に威圧感を殊更発しているわけではないのだが、アディル達は背中にゾクリとしたものを感じてしまう。

 エスマイグは先程ラグードと喧嘩しようとしたところを見ると相当な強者であるのは明らかである。


「私が姿を消したのは竜神探闘(ザーズヴォル)のための戦力を確保するために他大陸へと行っていたからです」

竜神探闘(ザーズヴォル)の相手はイルジードという話だったが確かか?」

「はい。間違いありません。竜神探闘(ザーズヴォル)の申請が受理された事が確かな証拠になると思います」

「うむ……」

「確かに……」


 アリスが持論を展開すると、ラグードもエスマイグも声の歯切れは良くないが否定する事は出来なかった。


「兄であるエランを弟が討つか……エランとイルジードはそこまで仲が悪かったのか?」

「正直な話、お父様はイルジードを信頼していました」

「でなければエランが討たれるはずはない……な」

「はい」


 ラグードの声は苦々しさに満ちており、返答したアリスの声にも苦いものが含まれていた。


(アリスの親父殿は相当な使い手であったというわけか。……ならイルジードは劣等感から兄殺しを行ったと言う事か?)


 アディルはアリス達の会話からイルジードという男の心情を推測していく。アディルが心情を理解しようとするのは、理由次第によってはイルジードとの和解を促そうという目的ではなく、そこに付け入るべき隙があるのではないかと思ったからである。


「まぁ良いでしょう。アリス、竜神探闘(ザーズヴォル)には私も参加しましょう」

「うむ、儂も参加しよう」


 エスマイグとラグードの申し出にアリスは静かに首を横に振った。


「おじ様方の好意は嬉しいですがお断りいたします」

「なぜだ?」

「どうしてです?」

「危険性の排除のためです」


 アリスの返答にエスマイグとラグードは訝しげな表情を浮かべた。


「つまり、お二方がイルジードと通じていないという確信が持てないのです」

「アリスティア……貴女は我々が裏切ると?」

「可能性がゼロでは無い以上、当然の事かと」


 アリスの言葉にエスマイグとラグードは不快、悲しみを含んだ複雑な表情を浮かべた。二人とすればアリスに疑われているという事に忸怩たる想いがあるのは仕方のない事かも知れない。


「私が情に流されて、とるべき警戒を怠ったら仲間達が死にます。お父様もそれで命を失いました」


 続くアリスの言葉にエスマイグとラグードは不承不承に頷いた。アリスの言葉の正しさに反論することが出来なかったという事だろう。


「そうだな。情に流され本懐を遂げられなくなればそちらの方が親不孝か」

「うむ……残念ではあるが仕方あるまい」


 二人はやや沈んだ声でアリスの言葉に納得を示した。


「せめてあなたの勝利を願わせてもらいますよ」

「うむ」

「あ、ありがとうございます」


 エスマイグの言葉にアリスは嬉しそうに微笑みながら言った。アリスの笑顔は二人の言葉への感謝に満ちており、それが二人にも伝わったのだろう。二人の表情は柔らかいものになった。


「アリス、事が済んだら一度我が家に来い。うちのチビ共も喜ぶからな」

「はい」

「アリスティア、シェリーもアスネも会いたがってますからね。絶対に死んではいけませんよ」

「はい。ありがとうございます」


 アリスの返答の声はやや弾んでいる。アリスとしてみれば二人の心遣いは嬉しいものなのだ。


「それでおじ様方はそれを伝えに来ただけではないと思いますけど」

「あ、そうでした」

「そうだった」


 アリスの言葉に二人は思い出したかのような表情を浮かべた。


「そうでした。ラグードの脳筋のせいでつい忘れてしまいました」

「エスマイグの陰険野郎のせいで忘れていた」

「なんですか?」

「やるか?」


 ラグードとエスマイグが再び揉め始めた。


「もういい加減にしてください!! 話が進みません!!」


 アリスの言葉に二人はバツの悪そうな表情を浮かべるとエスマイグが続きを言う。


「アリス達を聖竜の間に連れてくるように言われてたのでした。この後すぐに聖竜の間まで来て下さい」

「聖竜の間と言うことは……」

「そういう事です」


 アリスはゴクリと喉をならした。


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