出会い⑧
「まぁいずれにしても片付いたな」
アディルが言うとヴェル達三人は頷いた。
「それからな。ヴェル、お前の覚悟は見せてもらったよ」
「「え?」」
アディルの言葉にシュレイとアンジェリナは驚きの声を上げる。ヴェルは二人が驚きの声を上げるのを窘めるような事はしない。
「何の事かしら?」
ヴェルは努めて冷静に返答する。巧妙に隠そうとしているが一瞬の動揺がアディルの問いかけを肯定していた。
「とぼけんなよ。あの間抜けな魔導師に手を下したのはお前の覚悟を俺に示す為だ」
「……」
「お前は人の命を奪うという行為について俺よりも割り切っているわけじゃない。俺に任せる事で自分は手を汚さずに済ませることだって可能だったはずだ。だがお前はそれをしなかった」
アディルの言葉にヴェルは沈黙と無表情を貫いている。アディルはヴェルの沈黙と無表情を肯定と受け取った。
ヴェルの浮かべている表情は無表情ではなく、無表情を装うものである事をアディルは感じ取っていたのだ。
「お前は侯爵家を守るためならば自分が手を汚す事も厭わないという覚悟を示した。俺とすれば嫌なことを他人に任せて美味いところだけ持っていこうとする奴よりもよほど信頼できる」
アディルの言葉を受けてヴェルはしっかりとアディルの目を見る。その目にはアディルの言葉を裏付ける強い決意が窺えた。
「ええ、あなたの言う通りよ。私はレムリス家を守るためなら、どんな悪行であっても躊躇うつもりはないわ。お祖父様、お母様が大切に守ってきたモノを奪われるわけにはいかないのよ!!」
ヴェルの言葉はアディルにとって満足のいくものであった。どのような実力を有していたとしても結局のところ人間の覚悟に左右されるというのがアディルの考えなのだ。
「ああ、そうこなくちゃな。それぐらいの覚悟があるやつじゃないと俺も組む気がしない」
アディルの言葉にシュレイが首を傾げながら言う。先程のアディルの“味方につく”という発言に矛盾しているように思われたのだ。
「なぁアディル、お前さっき俺達の“味方につく”って言ったじゃないか。あれは本気でなかったのか?」
「いや、本気だったさ」
「どういうことだ?」
シュレイは首を傾げながらアディルに尋ねる。ヴェルもアンジェリナも同様の表情をしている事からアディルの意図するところをきちんと把握していないのだ。
「さっきまでの“味方につく”は助太刀の立場さ。“組む”はヴェル達の戦いは“俺の戦”になったということさ」
アディルはニヤリと笑って言う。アディルの言葉は些細な事かも知れないが、それでも自分の戦いとして宣言すると言う事は当事者意識の面で明らかに天と地ほどの違いがある。アディルは“俺の戦”と宣言することでヴェル達に自分の意識を告げたのだ。
「それは頼もしいわね。私達はあなたが組むに相応しいという結論に至ったと言うことで良いわね?」
「ああ、そしてそれはそっちもだろ? 俺もヴェル達と組む相手として相応しいという判断が下ったというわけでいいな?」
アディルがそう言うとヴェルはすっと右手を差し出してきた。アディルはヴェルが差し出した手を握る。
「さて、これで本当の仲間になったと言う事で聞きたい事がある」
「ええ、こっちもあるわ」
アディルの言葉にヴェルも頷いた。ヴェルがアディルに先に言うように手で合図を送ったのを見てアディルは先に質問をする事にした。
「俺が聞きたいのは二つだ。まずは三人の実力は相当なものだにもかかわらずどうしてあの連中から逃げたんだ? 三人ならあの程度の連中余裕で蹴散らせたろう?」
アディルの質問に応えたのはヴェルである。
「ええ、それは確かよ。私達はこの機会を使ってレムリス侯爵家から離れる事にしたのよ」
「どういうことだ?」
「一応、療養の名目で領地から遠くに送られるのだから、護衛の騎士達がかなりいたわ」
「だろうな」
「そこに盗賊が襲撃にきたのよ。普通に考えて完全武装した騎士に護衛された馬車を盗賊が襲うわけないわよね。そこでピンときたわ。私は暗殺されようとしているってね。ここで盗賊達を蹴散らした所で暗殺の危険が減るわけじゃないわ。むしろ大人しく療養地にいけば命を狙われ続ける事になるでしょ?」
「あ、そういう事か。つまり三人とも守りじゃなく攻めに転じようとしたわけだな」
アディルは笑みを浮かべながら言う。アディルの言葉にヴェル達は頷いた。
「ええ、このまま療養地に行けばそのうち暗殺されたでしょうし、領地に残っていてもいずれ暗殺されてたでしょうね。それならレムリス家を出て反撃する道を選んだのよ」
(虎を野に放ったな……やはりヴェルの父親は間抜けだ)
ヴェルの返答を聞いてアディルは納得した。確かにこのまま父親の勢力範囲内にいれば襲われる危険性が増すばかりである。それなら一旦勢力範囲外に逃れた方がヴェルとしては反撃の体勢を整えやすかったのである。
「わかった。納得したよ。同じ立場なら俺もヴェルと同じ決断をするだろうな」
「理解を示してくれて助かったわ。でも私達は幸運よね。そのおかげでアディルと出会えたんだからね。それでもう一つは何?」
ヴェルがニンマリと笑ってアディルに尋ねる。
「ああ、もう一つはさっきの質問の答えだ。シュレイとアンジェリナは兄妹なのか?」
「へ?まだ気になってたの?」
「当然だろ。シュレイとアンジェリナは兄妹というには髪の色などの身体的特徴がかけ離れているからさ」
アディルの言葉に返答したのはアンジェリナである。
「鋭いわね。私と兄さんは確かに兄妹だけど血のつながりはないのよ」
「あ、そうなの?」
「ええ、兄さんは私の父さんの親友の息子なの。兄さんのお父さんが亡くなった時に私の家に引き取られたのよ」
「なるほどな」
アディルはアンジェリナの返答にうんうんと頷く。アディルは別段気まずいことを聞いたという様子は一切見せない。アンジェリナの言った事情は特段珍しいものではないありふれた話なのである。
「だが俺はアンジェリナを本当の妹と思っている」
シュレイの言葉にアンジェリナが舌打ちを堪えるような表情を浮かべた。その微妙な表情は角度的にシュレイからは見えなかったがアディルにははっきりと見えたのである。アディルはチラリとヴェルに視線を向けるとヴェルは苦笑を浮かべつつ小さく頷いた。
(まじかよ……シュレイ……鈍すぎるだろ)
アディルは心の中で小さくため息をついた。アンジェリナは間違いなくシュレイに兄以上の感情を持っているのは間違いなかった。だからこそシュレイの“妹と思っている”発言に対し不満の表情を浮かべたのである。
アディルでさえ気づいたのに当の本人が気づいていないのだからアディルは呆れるしかなかった。
「あ~そっか~、まぁ……その辺の事はおいおい考えていこうな」
アディルは若干引き気味に言う。引き気味に言ったのはアンジェリナが“邪魔すんじゃねえぞ”と言わんばかりの視線をアディルに向けたからである。
「俺が聞きたいのは以上だ。それでヴェルが聞きたいのは何だ?」
アディルの言葉にヴェルは静かに言う。
「アディル……あなたって何者?」
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