意趣返し③
短いですが御了承ください。
「お疲れ様」
統監府が完全にみえなくなった所でアリスが振り返るとアディル達に言った。
「ああ、これで竜神探闘が申請され受理されれば一気に広がることだろうさ」
「はい。出所不明の噂だから尾ひれが付きやすいと思います」
「中々、上手いやり方だよな。統監にあって直接動いてもらうよりも、効果がありそうだ」
シュレイとアンジェリナの言葉に全員が同意とばかりに頷いた。
アリスはイルジードの評判を落とすために、意趣返しとして噂を流す事を考えたのだ。アリスはその旨をアディル達に告げると全員で案を出し合い、どのように噂を広めるかの計画を立てたのである。
噂というのは真偽不明の方が時として尾ひれが付きやすいのだ。どこの世界にも話を大きく盛りたがる者達はいる。
今日会った衛兵達は周囲の者達に話すがこの段階ではそれほど広まらない。広まるとすれば竜神探闘でイルジードが訴えられた時だ。
この竜神帝国では竜神探闘は重大な出来事である以上、行われたと言うだけで大きな噂になるであろう。その時に今日の衛兵とのやり取りが活きてくるのである。
しかも、竜神探闘の話がレズ―ルに届くのにそれなりの日数がかかるだろう。その時に統監に会いに来た少女達一行の話と結びつき一気に広がる。足りない場所はおもしろおかしく伝えるために想像で埋めてくれることだろう。
当然、イルジードは噂を否定して消そうとやっきになるだろうが、逆効果になる可能性が強いのだ。
「さ、面子を重んじる叔父様……私からのちょっとした意趣返しよ。どう返すか楽しみね」
アリスの言葉に全員がニヤリと嗤った。アディル達の労力を考えると効果が高い事この上ないと言えるだろう。しかも上手くいかなくても何の問題もないのだ。
「なぁ竜眼をここに残しておくのはどうだろう?」
アディルの提案に全員が思案顔を浮かべた。アディルの提案の意図は全員察している。すなわち諜報専門の竜眼はおあつらえ向きであった。
「うん……ありだな」
「だろ? あいつら何と言っても戦闘じゃまったく役に立たないからな」
アディルの容赦のない評価に全員が同意とばかりに頷いた。
「そうね。正直な話、斥候は私とアディルの式神があれば用足りるし、この竜神帝国では情報屋の伝手がないから諜報活動でも役に立たないわよね」
エリスの言葉にこれまた全員が納得の表情で頷いた。エリスの言葉通り竜眼は王都では張り巡らせていた情報網のために諜報活動で役に立っていたと言えるのだが、この竜神帝国では情報網を構築していないので、役に立っているとは言えなかったのだ。
「それじゃあ。竜眼はここで噂を流させると言うことで良いか?」
「そうしましょ。むしろ邪魔ね」
エリスはそう言うとウンウンと頷く。エリスが呪血命をかけたためにエリスの意思が優先されるのだ。
「とりあえず、飯食ってから出発と言う事にするか」
「「「「「「賛成~♪」」」」」」
アディルの提案に女性陣は声を揃えて賛同する。ここまで来る間にいくつかの気になる店があったのだろう。
「さ、行きましょう♪」
アリスがそう言って歩き出すと全員がそれに続いた。
その後、アディル達は毒竜、竜眼と合流すると、竜眼にレジ―ルで噂を広めて置くようにという命令を下すとその日のうちに帝都へ向けて出発した。
アディル達と別行動をとることになった竜眼達は明らかに喜んでおり、他の駒達の羨望の眼差しを受けていた。
しかし、竜眼達はこの後に自分達に訪れる不幸に気づいていなかった。




