閑話:追う者達
「依頼に出た?」
「はい。灰色の猟犬、アマテラスと一緒に独自の依頼を受けたとのことで今朝方出発しました」
長い黒髪を後ろに束ねた長身の騎士に、ハンターギルドの受付嬢のハンナは申し訳なさそうに返答する。
「そうか……。いつ頃帰るかわかるかな?」
「いえ、独自の依頼と言う事で詳細をこちらも把握していないのです」
「いや、すまない。それで、灰色の猟犬とアマテラスというのは?」
騎士の新たな問いかけにハンナは口を開く。
「はい。灰色の猟犬というのはハンタークラス、“ミスリル”で構成されたチームです。もう一つのアマテラスというのは最近結成されたハンターチームでランクこそ“スチール”ですが、灰色の猟犬、紅風と行動を共にしていまして、将来有望なハンターチームです」
ハンナの言葉は一面的な事実としてはまったく正しいのだが、実情は大きく異なる。灰色の猟犬、紅風と行動を共にしているのだが、上下関係においてハンナの認識とは真逆なのだ。
「ふむ……それではその三つのチームが戻ってきたら、話がしたいと伝えてくれないかな?」
「はい、それは構いませんが……」
「どうした? 何か差し障りがあるのかな?」
「いえ、実は紅風のメンバーが一人、闇ギルドの襲撃にあって亡くなっているんです」
「……ほう」
「もちろん騎士様が関係しているわけないのはわかっていますが、こちらとしては慎重にならざるを得ないのです」
ハンナは騎士に向かって真っ直ぐに見つめて言う。職務に忠実な様子が見て取れる。
「そのような事情であれば慎重にならざるを得ないのは当然だな。私の名はエキュオール=レイガンドだ。エキュオールが来たと言ってくれれば良い」
「エキュオール=レイガンド様ですね。わかりました。紅風が戻ったら伝えさせていただきます」
「頼む」
エキュオールはニコリと微笑むと踵を返し歩き出し、そのままギルドを出て行った。
* * *
「手はずはどうだ?」
「取りあえずは待つしかないな」
「どういうことだ?」
「そう凄むなよ。エルゼス」
エルゼスと呼ばれた騎士の声に剣呑なものを感じたエキュオールが言う。その問いかけはどことなく子どもを窘めるような響きが含まれている。
「紅風とかいうハンターチームは現在、任務に出ていると言う事だ」
「ちっ……」
「どうやらマルトス卿を斬ったのは紅風ではないようだぞ」
「どういうことだ?」
エルゼスがエキュオールへ尋ねる。
「紅風のメンバーが最近、闇ギルドとか言う連中に殺されたようだ」
「なるほどな。犯罪者ごときに敗れる連中がマルトスをやれるはずがないと言うことか」
「ああ、紅風と一緒に行動しているハンターチームに灰色の猟犬とかいう連中がいる。そいつらは紅風よりも格上のようだ」
「となるとそちらか?」
「可能性とすればそっちが圧倒的に高い」
エキュオールの言葉にエルゼスは頷いた。この段階で大いに誤解があるのだが、ハンナからもたらされた情報から、灰色の猟犬が三チームの中で最も実力があると勘違いするのは仕方のない事である。
「そうか。そいつらが戻ってきた時にすぐに動けるのか?」
「ああ、伝言を頼む受付嬢に俺の名を教えておいた。もし、俺の名を呼べば伝わるように術をかけておいた」
「了解した。それではその灰色の猟犬が戻ってくるのを待つとしようじゃないか」
エルゼスの言葉にエキュオールは静かに頷く。
「しかし、この世界のハンターの実力も知っておきたいな」
エルゼスは獰猛な笑みを浮かべながら言う。まるでネコがネズミをいたぶるかのような口調であり、嗜虐的な本性が見える。
「俺はギルドに顔を出す立場だから今回は参加はせん。だがあまり派手にやり過ぎるなよ」
「わかってるさ」
エルゼスはニヤリと嗤ってそう返した。




