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前哨戦後始末

 鉄竜(アスダイム)の面々は不安そうな表情を浮かべながらアディル達の前に跪いている。

 アディル達には降参した者を虐待するような趣味など一切無いので、反抗しない限りは危害を加えるつもりはない。


「イルジードに伝えなさい。竜神探闘(ザーズヴォル)で決着をつけましょうってね」


 アリスは傲然と鉄竜(アスダイム)へと言い放った。鉄竜(アスダイム)の面々はゴクリと喉をならした。

 アリスの傲然とした物言いは勝利への絶対の自信を感じさせたのだ。それはイルジード、闇の竜騎兵(イベルドラグール)敗北と同義である。鉄竜(アスダイム)の面々はそれを否定する根拠を持たないのだ。


「あんた達は仲間の死体を持って帰りなさい」

「は、はい」


 鉄竜(アスダイム)の一人がアリスの言葉に素直に返答する。


「いくぞ」


 返答した鉄竜(アスダイム)が生き残りに指示を出すと、鉄竜(アスダイム)達は素直に立ち上がると仲間達の死体を集め、それぞれの竜に乗せると足早にアディル達の前から去って行った。


「お疲れ様」


 ヴェルがアリスに声をかけるとアリスは顔を綻ばせた。


「うん、しかし、完全勝利だったわね。こちらの被害はゼロだものね」

「駒がそれなりにやられたけどね」

「あいつら仲間じゃないわよ」

「それもそうね」


 アリスとヴェルの会話には駒への配慮は一切無い。この会話だけでも駒の扱いがどのようなものかわかるというものだ。

 アディル達にしてみれば闇ギルドに所属し、不幸を量産する事を選択した代償である以上、容赦をするつもりは一切無いのだ。


「おい、何人やられたか報告しろ」


 アディルの言葉に駒達は自分達のチームの点呼を始めた。アディルが点呼を終えるのを見ているとアリスが声をかけてきた。


「ねぇ、アディル」

「ん?」

「エイクリッドを斬る前に目を潰したじゃない」

「ああ、陰霞(かげかすみ)の事か?」

「そう、それなんだけど。アディルはいつあの鉄球を口に含んだの?」

「あれか。俺が天尽を肩に担いだろ」

「うん」

「あの時に右手に持っていた鉄球を含んだんだよ」


 アディルの返答にアリスは納得の表情を浮かべた。


「それでアディルがあんなあからさまな構えをとったという訳ね」

「そういう事だ。あの時の本命は初手の上段斬りじゃない。次の陰霞(かげかすみ)が本命だったわけだ」

「なるほどね。初手の上段斬りは囮か」


 アリスはうんうんと頷きながら言う。アディルは陰霞(かげかすみ)をエイクリッドの目に直撃させる確率を上げるためにあからさまな上段斬りを放ったのだ。


(アディルの戦いのスタイルは相手の意識をずらす。そして時には誘導するというわけね)


 アリスはアディルの戦いを見てそう考えていた。単純なパワーとスピードでの攻防ではなく虚実、意識も考慮に入れた戦い。それがアディルの戦闘方法であることは明らかである。


「おいおい、俺があんまり格好良いからと言って惚れるなよ」

「ふぇ、え、えっと」


 アディルのおどけた調子の言葉にアリスは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


(ってあれ? てっきり、“そんなわけ無いじゃない”って返すと思ったのに……なんだこの反応?)


 アディルはアリスの反応に動揺した。いつものように軽口の応酬が行われると思っていたのにそのような雰囲気とはまったく異なっているのだ。


(う~どうしよう素直に言っちゃおうかしら。そうすれば一歩リードできるかしら……よし言っちゃおう!! 女は度胸よ!!)


 アリスは心の中でそう算段をつけると決心して口を開こうとした。


「二人とも点呼は終わったみたいよ!!」

「そうそう。次の指示が欲しいわね!!」

「私もそう思うわ」

「うん。ここはのんびり話してる時間じゃないと思うからここをすぐに立つ事にしましょう!!」


 アリスが口を開こうとしたところで、アンジェリナ以外の女性陣が口々に二人に声をかける。


「あ、ああ、わかった」


 アディルは女性陣の勢いにやや引きつつ戸惑いがちは声で返答すると駒達に指示を出し始めた。


「く~良いところだったのに!!」


 アリスが非難がましい視線を女性陣に向けた。


「ふ、そう簡単に事が進むと思わないで欲しいわね」

「その通り!! アリス、そうそう絶好の機会を活かせると思わないで欲しいわね」

「アリス、甘いわね。戦いは非情なのよ」


 ヴェル、ベアトリス、エリスの返答にアリスは悔しそうな表情を浮かべた。この強力な恋敵(ライバル)達は一筋縄ではいかない事を今更ながら思い知らされたのだ。


「アディル、手伝うわ♪」


 エスティルが恋敵(ライバル)達のやりとりに構うことなく、本丸(アディル)を攻略すべく、にこやかな声で話しかけていくのを見て四人が悪手を打った事を察した。


「おう、すぐに出発するから馬車の王位を頼む」

「任せて♪」


 エスティルはそういって顔を綻ばせるとヴェル達に視線を移すとウインクをした。


((((してやられた~!!))))


 四人の悔しそうな表情を見て、シュレイ、アンジェリナ、ジルドは苦笑を浮かべるのであった。

 


 エスティルは決して腹黒ではございません(^∇^)

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