竜神探闘前哨戦⑥
「すごいわね」
「強いですな。うちの連中じゃ束になっても敵いませんな」
「ヴァトラス王国が誇る“ルーヌス”であっても勝てないの?」
「無理ですな。相性が悪いというのもありますがの。純粋に強い」
「頼もしいわね。アマテラスを手放したくないわね」
「そうですな。おっとやるとしましょうかの」
ジルドはそう言うと襲いかかってくる鉄竜に対峙した。
振り下ろした斧槍の一撃をジルドは前に出て柄の部分を受け止めると同時に膝の内側を蹴りつけた。
ガギン!!
金属を蹴りつけたような音が響く。ジルドは涼しい顔をしているが、蹴られた鉄竜の表情は苦痛に顔をしかめた。
(ふむ、金属のような感触じゃったが効果はあったようじゃの)
ジルドは効果があったことを察し心の中で頷く。
(それじゃあこれはどうかの)
ジルドは顔をしかめた鉄竜に向け目打ちを放つ。ジルドの目打ちは指先を広げており躱しづらい一撃だ。
エリスが鉄竜を目を抉った事を見ていたので効果があると言う事は実証済みである。
鉄竜は咄嗟にジルドの目打ちを避ける。ジルドの目打ちは誘いであり、本命ではない。
ジルドは目打ちを避けた鉄竜の右手首を掴むと目打ちに放った腕で肘を当て極めるとそのままへし折った。
「が……!!」
肘を折られた鉄竜の口から苦痛を知らせる声が発せられた。そして、ジルドの攻撃はこれで終わりではない。ジルドは鉄竜の意識が苦痛に向かうと背後に回り込んで首を容赦なく捻る。
ギョギィィィ!!
首が異様な音を発すると鉄竜はそのまま崩れ落ちる。
「ふむ、とりあえず首を捻れば死ぬ事がわかっただけでも良かったとするかの」
ジルドはそう言うと残りの鉄竜達に向け笑みを向ける。その笑顔を見た鉄竜の面々はさっと後ろに跳び間合いをとった。ジルドが尋常ならざる使い手である事を察したのだろう。
「そんなに脅すとこちらから出向くことになるのだけどね」
ベアトリスが小さく呟くと黒の貴婦人の手首から一発の球体が放たれた。放たれた球体は鉄竜の手前で破裂すると紫色の煙が周囲を覆った。
「う……ぐ」
「これは……毒?」
「がはっ」
煙に巻き込まれた鉄竜は、それが毒である事に気づくと咳き込み始めた。
「さて……」
ベアトリスは黒の貴婦人の手首から二十㎝程の刃が飛び出させると煙の中に跳び込んでいく。
煙の中に入った黒の貴婦人は毒に咳き込む鉄竜の間合いに踏み込むと刃を一閃する。
首を斬り裂かれた三人の鉄竜は鮮血を撒き散らしながら崩れ落ちた。煙は僅かの時間で散っていき、斃れている三人の鉄竜の姿を見せた。
既に絶命しているのだろう。鉄竜はまったく動いていない。
「やっぱり身体強化は意識が逸れると使えなくなると言うわけね」
「竜族であっても基本的な戦闘スタイルは崩さなくて良さそうですな」
「結局は変わんないというわけね」
「ですな」
ベアトリスとジルドは互いに頷きながら竜族との戦いの方法を確認している。
「それとベアトリス様は毒の扱いが上手くなりましたな」
「まぁ解毒剤の調合をしてたら毒の扱いもいつの間にか上手くなったわ」
「ケガの功名というやつですな」
ジルドの言葉にベアトリスは小さく笑う。王族であるベアトリスは常に毒殺の危険にさらされており、毒の知識は必要不可欠なのだ。毒殺を防ぐための毒の研究をしなくてはいけない環境というのは、ある意味王族というものの闇の部分と言えるかも知れない。ジルドのケガの功名という言葉は実の所、的を射ているのである。
「さ、それじゃあ。あの駒達を助けるとしましょうかね」
「本心を言えばここでもう少し消えてくれて欲しいものですじゃ」
「竜神探闘のための戦力だから仕方ないわよ。みんなもそれを割り切って助けるつもりよ」
ベアトリスの言葉通り、アマテラスのメンバー達は駒を蹂躙する鉄竜を倒しに向かっていた。
「私達も乗り遅れるわけにはいかないわね」
「ほいほい」
ベアトリスの言葉にジルドは飄々と答えるが、ニヤリとした表情に獰猛さが見え隠れしていた。




