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出会い⑦

「あんたら兄妹だったのか!?」


 アディルの言葉に全員が“何言ってんだ?”という表情が浮かんでいた。さすがに死の騎士(デスナイト)という強大なアンデッドが現れたこの状況で言うには場違いすぎたのだ。


 死の騎士(デスナイト)とは、アンデッドの中でも上位に位置付けされる強大なアンデッドである。発生が確認されただけで軍が動き出すレベルのアンデッドであり、しかもそれが二体ともなれば死を受け入れざるを得ないというものである。


 ヴェル達三人は死を受け入れるという心境ではないのだが、それでも決死の覚悟で挑む相手であるという感じであったのだ。それなのにアディルの間の抜けた問いかけに呆れるというのも仕方のない事なのだ。


「今はそれどころじゃないでしょ!!」


 ヴェルがアディルに緊張を孕んだ声で言うがアディルは涼しい顔をしていた。


「何言ってんだ? たかだか死の騎士(デスナイト)じゃないか。この程度の奴が相手なんだからシュレイとアンジェリナが兄妹である事を確かめるのが先決だ」

「え~と、それこそ後回しで良くない?」


 ヴェルの反応は至極真っ当なものであったのだが、アディルは舌打ちを堪えるような声色で言う。


「いやな、この大魔導師様があそこまで自信たっぷりな反応をしているのだから俺はてっきり黒魔の騎士(メギスヴォルド)くらい生み出すと思ってたんだよ」

「「「「え?」」」」


 アディルの言葉にヴェル達だけでなくハビスも声を揃えて言う。アディルのいう黒魔の騎士(メギスヴォルド)は最高レベルのアンデッドであり、その強さは明らかに他のアンデッドとは一線を画すのだ。

 七十年前ほどに一体の黒魔の騎士(メギスヴォルド)がヴァトラス王国も隣国のエグルス公国の『ワーゼンバイト』という都市に現れた。当然公国は軍を派遣したが討ち取るどころか全滅しないようにするのが精一杯であったという話だ。

 黒魔の騎士(メギスヴォルド)の暴威は凄まじく近隣諸国も協力に乗り出した程であるが連合軍であっても討ち取る事は出来なかったのである。

 最終的に一人の青年に黒魔の騎士(メギスヴォルド)は討ち取られることになるのだが、その名は伝わっていない。見た事もない剣術を使ったという話が残っているぐらいである。


「ところが死の騎士(デスナイト)ときたもんだ。呆れを通り越して可哀想になってくるぜ。しかもこの大魔導師様はあそこまでドヤ顔をしてくるんだからピエロとしか思えん」

「ふ、巫山戯るな!! 死の騎士(デスナイト)は上位アンデッドだ。貴様のようなガキに勝てるわけないだろう!!」


 ハビスは激高し叫ぶがその声にはどことなく不安の感情が含まれているのをヴェル達は察していた。アディルの死の騎士(デスナイト)ごとき(・・・)という心の声が動揺を誘っているのだろう。


「わかった……わかった……。さっさとやるか。みんな俺が死の騎士(デスナイト)を始末するから見ていてくれ」

「え、ええ」


 アディルの提案にヴェルはようやく言葉を絞り出した。“いくらなんでも”という思いと先程のハビスの魔術を相殺したアディルの不可思議な術から“ひょっとしたら”という思いが三人の心の中には混在していたのである。


「よし、雇い主の許しも出たという事でやろうか」


 アディルは言い終わると同時に死の騎士(デスナイト)へと襲いかかった。アディルの斬撃が一体の死の騎士(デスナイト)の首を刎ね飛ばした。宙に舞った死の騎士(デスナイト)が地面に落ちる前に塵となって消えてしまう。


(親父殿の言った通りだな)


 アディルは心の中で父から聞いた死の騎士(デスナイト)の首が塵となって消えた理由を確認していた。

 死の騎士(デスナイト)に関わらずアンデッドは瘴気の核を破壊する事で消滅させることが出来る。アンデッドにとって核から放たれる瘴気によってアンデッドとして活動できるのだ。

 瘴気の核から切り離された瘴気はアンデッドとして形を保つ事が出来ずに消滅してしまうのである。

 死の騎士(デスナイト)の頭部に核がなかったために切り離された頭部が形を保つ事が出来ずに消滅してしまったのである。

 死の騎士(デスナイト)の頭部が再生するとギロリとアディルを睨みつける様はまるで意思があるようにも思える。 


「残念だったなぁ!! 死の騎士(デスナイト)が首を斬り飛ばされたぐらいで消えるわけなかろうが!!」


 ハビスが死の騎士(デスナイト)の頭部が再生した事に勝ち誇った声をあげる。しかし、どことなく不安が払拭されているようには見えないのが哀れなほどである。


「さぁやれ!!」


 ハビスが心地良さげに死の騎士(デスナイト)に命令を下すと、死の騎士(デスナイト)二体はアディルに襲いかかる。


(……アホが)


 アディルは襲いかかる死の騎士(デスナイト)の斬撃をあっさりと紙一重で躱しつつ斬撃を放つ。


 ズ……


 アディルの斬撃は死の騎士(デスナイト)の右肩から入り、そのまま左脇に抜けていく。まるで熱したナイフでバターを斬ったかのように何の抵抗を示すことなくアディルの剣は死の騎士(デスナイト)を斬り裂いたのだ。

 アディルの斬撃は死の騎士(デスナイト)の核を斬り裂いたのだろう。死の騎士(デスナイト)は塵となって消滅し、媒体となった傭兵の死体が中から姿を見せる。


「へ?」


 傭兵の死体がそのまま地面に糸の切れた人形のように倒れ込むのを見てハビスが呆けた声を発した。自分の目が仕入れた情報が彼の常識を破壊し思考が停止してしまったのである。

 ただでさえ思考が停止したところにアディルはもう一体の死の騎士(デスナイト)を上段斬りで斬り捨てていた。アディルの上段斬りに一体目同様に何の抵抗を示すことなく斬り裂かれ核も同時に斬り裂いた。


 傭兵を覆っていた死の騎士(デスナイト)の瘴気は霧散し中から現れた傭兵の死体が地面に倒れ込んだ。

 わずか三十三秒……これが発生が確認されれば軍が出撃するレベルのアンデッド死の騎士(デスナイト)を消滅させるためにアディルが要した時間であった。

 

「お、お前は一体……」


 ハビスが恐怖に満ちた問いかけをアディルに行うのとアディルが横に跳ぶのは同時であった。アディルが横に跳んだところにヴェルが先程アンデッドを容赦なく肉片に変えた魔力の鏃がハビスに叩き込まれた。


「なぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ヴェルの放った鏃がハビスの体に次々とめり込んでいく。ハビスは自分に高速で打ち込まれていく鏃に強烈な痛みを感じる前に肉片へと姿を変えた。


「おいおい、おっかねぇな。俺にあたったらどうするつもりだったんだ?」

「アディルなら簡単に避ける事が出来るでしょ」

「買いかぶりすぎだ。お前のその魔力の連射を躱すのは、はっきり言って至難の業だぞ」

「でも躱したじゃない」


 ヴェルは涼しい顔でアディルに言う。実際にアディルは躱す事は出来たのだが、実際は紙一重であるし、アディルを狙ったのではなくハビスを狙ったものであったから躱せたのである。


「狙いが俺じゃなかったからな。だが俺を狙ったものだったら躱し続けるのは骨が折れる」

「褒め言葉と思っておくわね」

「褒めてねぇよ。嫌味を言ったんだよ。わかれよ!!」

「素直じゃないわね」

「お前本当に心を入れ替えろよ。老後寂しいぜ?」

「大きなお世話よ!!」


 アディルの軽口にヴェルは頬を膨らませる。その様子を見てシュレイとアンジェリナは苦笑を浮かべた。

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