竜神探闘前哨戦④
キィィィィィン!!
アディルの振り下ろした斬撃をエイクリッドは両腕を交叉して受け止めていた。
(この感触は生身のものじゃない。袖口に金属を仕込んでいるわけでもない。こいつの生身の部分が金属のように堅い)
アディルが異様な感触に意識を向けた瞬間にエイクリッドは交叉していた両腕をふりほどくとアディルの体を弾き飛ばした。
(とんでもない馬鹿力だな。寝転んだ状況で俺を弾き飛ばすなんてな)
アディルは着地してニヤリとした笑いをエイクリッドに向けた。純粋な腕力でアディルを弾き飛ばしたのはやはり尋常な膂力ではない。
「やってくれたな」
エイクリッドは怒り半分、余裕半分で立ち上がり落ちていた斧槍を拾い上げた。
怒り半分は人間如きに落竜させられたことに対して、余裕はアディルの刃が自分の腕を斬り飛ばすことが出来なかった事から命を脅かされる相手でないという事からであろう。
「人間如きが竜族に勝てるなど思い上がるなよ」
ここでエイクリッドは部下達に視線を向けると獰猛な嗤いを浮かべ言い放った。
「殺せ!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
エイクリッドの号令に部下達は咆哮で答えると駒達に襲いかかった。
「いくわよみんな!!」
ヴェルが立ち上がると魔鏃破弾を放った。今まで名をつけてなかった指先から放つ魔力の塊にヴェルは魔鏃破弾と名をつけたのだ。
名を得ることで力を得るというアディルの言葉からヴェルは、名を付ける事にしたのである。実際に名をつけることでヴェルの意識はイメージしやすくなり、魔鏃破弾の威力、連射速度が少し上がったのは確かであった。
ヴェルの放った魔鏃の連弾が鉄竜へと直撃するが鉄竜の兵士達は煩わしそうにするが突進を止める事なく駒達へと襲いかかったのだ。
「ぎゃあああああああああ」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「た、助けてくれぇぇぇ!!」
竜に踏みつぶされた駒達の絶叫が響き渡った。まず、竜に踏みつぶされるという不幸を味わったのは黒喰の一団であった。実力的に最も劣る黒喰ではとても竜騎兵の突進を止める事は出来ない。
黒喰を蹂躙した一隊が方向を変えるとヴェル達に襲いかかってきた。
「行け!!」
エリスが生み出した四体の式神に命令を下すとそれぞれ武器を構えて、鉄竜を迎え撃った。
「ジルド、行くわよ」
「ほいほい」
ベアトリスの操る傀儡である黒の貴婦人を向かってくる一隊に突入させた。ジルドも黒の貴婦人と共に鉄竜へと襲いかかる。
傀儡と老人の組み合わせに鉄竜の一人がニヤリと嗤い、踏みつぶそうと竜を向け突進してきた。
黒の貴婦人が横に跳び、突進の軌道上から外れると同時に右腕を放つ、黒の貴婦人から放たれた右腕にはワイヤーで繋がっており、鉄竜の襟首をむんずと掴むと一気に巻き戻した。
「うぉぉ!!」
襟首を掴まれた竜騎士は竜から引き摺り下ろされた。引き摺り下ろされた竜騎士の顔面に黒の貴婦人の左手に握られた手斧を振り下ろした。
ガキィィィィン!!
振り下ろされた手斧が竜騎士の顔面に直撃したが鈍い金属音が響き渡る。直撃を受けた竜騎士はニヤリとした嗤いを浮かべると手にした斧槍で薙ぎ払おうとした所にジルドが顔面の手斧の上に飛び乗った。
「痛ぇだろうがクソジジイ!!」
顔を踏まれた兵士は激高し、手にした斧槍を振るとジルドはさっと後ろに跳び躱した。
(丈夫な男じゃな。これで死なんとはな)
ジルドは手斧に乗って追い打ちをかけたのだが決める事が出来なかった事に小さくため息をついた。厄介な相手という認識を強めたのである。
ドゴォォォォォォ!!
突進する他の鉄竜と四体の式神が衝突すると凄まじい音を発した。
「うぉぉぉお!!」
「く!!」
式神は竜の突進を見事に受け止めると勢いのついた鉄竜の兵士達が投げ出され地面に落ちる。」
倒れた鉄竜の兵士の延髄にエスティルが容赦なく魔剣ヴェルディスを振り下ろすと兵士の首が宙を舞った。
「なんだと!!」
エスティルが兵士の首を斬り飛ばしたことに鉄竜の兵士達から怒りと驚きの声があがった。
「舐めてんの!!」
エスティルは倒れ込むもう一人の兵士の首を容赦なく斬り飛ばした。エスティルにしてみれば鉄竜の体の強靱さは確認済みである。ならばそれに対応した斬撃を繰り出すのみなのだ。
ドドドドドドド!!
再びヴェルが魔鏃破弾を鉄竜に向け放った。
「ぐ」
「くそ」
「ええい、煩わしい!!」
立ち上がった兵士達に降り注いだ魔鏃破弾を受け、兵士達から怒りの声があがった。ヴェルの魔鏃破弾は自分達に効かない事がわかっているために煩わしいという印象しか受けない。怒りの目をヴェルに向けると鉄竜は、武器を構えて突進しようとした兵士の一人の腹部に巨大な孔が空くと兵士の一人が崩れ落ちた。
「な」
「なぜ!?」
腹に孔の空いた兵士はすでに絶命している。顔には自分の身に何が起こったか理解できていないという表情が浮かんでいた。
「迂闊よね」
ヴェルが呆れたように鉄竜の兵士に向け言い放った。そして、ヴェルは指先ではなく掌を向けていた。そこから放たれた魔力の塊が鉄竜の腹部を穿った。
ヴェルが放ったのは魔槍穿。指先から放つ魔鏃破弾とは違い、魔力をまとめて槍の形にして放つという術である。魔鏃破弾は連射に特化した術であるが、魔槍穿は威力に特化した術と言える。
いきなり放っても躱されてしまう。だが、魔鏃破弾が通じないと思った鉄竜は防御も碌に取ることもなく突っ込んできたために食らってしまったのである。
「兄さん!!」
「あいよ!!」
アンジェリナのかけ声にシュレイが返答すると同時に革袋を鉄竜に投げつけ、頭上に来たところでシュレイがナイフを投擲して革袋を裂くと液体が鉄竜に降り注いだ。
「な、これ……」
「ま、まさか」
液体を頭から浴びた鉄竜達は二人の意図を察し顔を引きつらせた。そこにアンジェリナが火球を放った。
放たれた火球が液体に触れると引火して一気に燃え広がった。
「ぎゃああああああああああ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
鉄竜が浴びた液体はもちろん油である。炎に焼かれた鉄竜は転げ周り火を消そうとするが中々消えない。
シュレイは剣を抜き転げ回る鉄竜の首を斬り裂くと二人の兵士は動かなくなった。
アマテラスの面々は互角以上の戦いを展開していたが、全体的な戦いを見ればむしろ敗勢が濃くなっている。しかし、アマテラスの面々はシュレイとアンジェリナによって鉄竜の攻略法を見つけ余裕の表情を浮かべたのであった。




