竜神探闘前哨戦③
「来たな」
アディル達が茂みに隠れて三分ほどで馬蹄が聞こえてくる。いや、馬蹄と云うには少しばかり重厚な感じがする。
「アリス、どうだ?」
アディルの問いかけにアリスはニヤリと好戦的な嗤いを浮かべた。
「どうやら当たりね。イルジードの私兵集団の闇の竜騎兵ね。しかも鉄竜ね」
「鉄竜?」
「うん。追尾専門の部隊よ。騎乗している竜の鼻は十㎞先の血の臭いも嗅ぎ分ける程よ」
「こりゃ騙せないな」
「そうね。鉄竜でなければ良かったけど仕方ないわね」
匂いを嗅ぎ分ける竜に騎乗している以上、隠れても意味が無い事を察したアディル達は茂みに隠れて襲いかかるという手段をあっさりと放棄する。気配を消しても匂いで何処にいるか分かる以上、不意を突くことは出来ないのだ。
「となるとせっかくの偽装も意味なかったわね」
「まぁ、何もマイナス面になった訳じゃないから気にしなくて良いさ」
「とりあえず、俺とアリスで話してみるからみんなはここで隠れててくれ」
アディルの提案を受けて仲間達は全員が頷いた。
「それじゃあ、行くか」
アディルはそう言って立ち上がるとアリスも同様に立ち上がった。茂みを出たアディルとアリスはそのまま街道のど真ん中に立つと敵が到着するのを待つ。
「ちなみにアディル作戦は?」
「出たとこ勝負だな」
「それ作戦って云うの?」
「不意を突いて有利に戦いを進めるという作戦が実行前に失敗したからな。今更作戦を立てても実行する時間がないさ」
「まぁ、それはそうだけどね」
アディルが指差した先に二足歩行の竜に跨がった完全武装の兵士達が凄まじい速度でやって来るのが見えた。
「あらら、嫌な嗤いを浮かべてるな」
「あいつは鉄竜の隊長“エイクリッド=サイセリス”よ」
「明らかにアリスを見て嫌らしい嗤いを浮かべてるのは、やはりアリスが女と言う事で舐めてるのか?」
「かもね」
アリスのため息交じりの返答にアディルもまた苦笑が漏れる。捉えようによっては余裕を通り越して鉄竜を舐めているという感じなのだが、決してそんなことはない。一見舐めているような態度も敵に対する挑発であり、真剣勝負の中の一幕に過ぎないのだ。
先頭を走る完全武装の兵士が嫌らしい嗤いを浮かべつつ、左手を挙げると後ろに付き従う兵士達も速度を落とすとアディルとアリスの前で止まった。
「これはこれはアリスティア様、このような所で会うとは意外でございますな」
エイクリッドはニヤニヤとした嗤みを浮かべながら云う。その声も嗤みもアリスを侮ってるのが丸わかりであり、二人は不快感に襲われるが口に出さない。
「そう? 意外かしら私が竜神帝国に戻ってきたら闇の竜騎兵が襲撃に来るなんて想定してるわよ」
アリスは挑発的な口調でそう返答した。アリスの挑発は一定の効果があったらしくエイクリッドの表情から嫌らしい嗤みが消えた。
「大体、意味の無い挑発に乗るわけ無いでしょうよ。私はあんたと違って冷静で視野が広いから無意味な挑発は時間の無駄と思って欲しいわ。あんまり自分を基準に物事考えるとケガじゃすまないわよ」
アリスの挑発は止まることなくその美しい口から次々と紡ぎ出されていった。
「品性と発想が貧困なあんたが次にどんな反論しようとするか当ててあげましょうか? あんた達は次に私のお父様、お母様を侮辱するわよね。油断があったとか愚かだったとかね」
アリスは心の底から軽蔑したようにエイクリッド達に向けて言い放った。エイクリッドはいきなりアリスから口撃を受けた事に対して呆気にとられているのは間違いない。
「図星でしょ? 発想が貧困だから読まれるのよ。あ、怒らないでね。あんたが無能なのはあんたが責任を負うのよ。私に責任を取らせようというのが気に入らないわね」
アリスの形の良い口から無形の毒矢が次々と放たれているのだが、ここでエイクリッド達はようやく我に返ったようで、反論のために口を開く。
「黙って聞いていれば好き放題言ってくれるな」
「別に黙って聞いてろなんて言った覚えないわよ。 反論しなかったじゃなくて出来なかったくせに何を言ってるのよ。それとも部下の前だから少しでも良いところを見せておかないといけないと考えてるわけ? それなら安心しなさい。あんたの部下達も間抜けしかいないから、誰一人反論出来てないわよ。だから、あんたの部下からの評価は何も変わってないわよ」
アリスの口撃は少しも止むことなく言葉の毒矢を放ち続ける。
「ふん、貴様の狙いは分かっているぞ」
「ん?」
エイクリッドの言葉にアディルとアリスは不安気な表情を浮かべた。実の所、ここで二人が出てきたのは何の狙いもない。あるとすればこの場に現れた兵士達が自分達を襲撃に来たのかを確認するためである。アリスの情報から襲撃の可能性が高いと思っていたのだが、確定させるために出てきたのだ。
「貴様らはここで我らを迎え撃つ算段だ。伏兵を偲ばせて我々を油断させようと思っているのだろうが、我ら鉄竜に伏兵は通用せんぞ」
二人が反論しないためにエイクリッドは調子を取り戻していく。
「一体何の事?」
アリスの声にやや呆れたものが含まれているのは、既に伏兵はバレている事を知っているのに、今更見抜いていると得意気に話すエイクリッドのピエロっぷりに呆れているのである。
「そこかしこに貴様らの伏兵がいるだろう。我らの騎乗する竜の鼻が伏兵の存在を見抜いているのだ」
「えっと……伏兵を偲ばせてるなんてそんなつもりはないわよ。鉄竜が来た事から匂いで伏兵がバレてるんだから、伏兵の策は早々に放棄したわよ。私達があなた達の前に姿を見せたのは単にあんた達が敵かどうかを確定させるためよ。あまりにも簡単すぎる問題を解いて得意気になるのは止めてくれないかしら。何というか可哀想になるのよ」
再びアリスの口撃が始まり、エイクリッドは再び流れをアリスに奪われてしまった。
(頃合いだな。アリスが一方的に殴るのを見てるのが楽しかったけど、これ以上は時間の無駄だな)
アディルはそう心の中で呟くと駒達に命令を下した。
「よし、戦闘開始だ。お前ら襲いかかれ!!」
アディルの号令によって駒達が一斉に立ち上がった。駒達の顔は一様に緊張に満ちている。なにしろ竜騎兵と戦う事など闇ギルドに所属している者達からすれば、敷居がたかすぎるというものだろう。
「ふん。開き直ったか」
エイクリッドが嘲るようにアディルとアリスに言い放った。
「え?」
エイクリッドの口から呆けた声が発せられた。エイクリッドがそんな間抜けな声を発したのはアディルが既に目の前にいたからである。アディルはエイクリッドが駒に意識を向けた瞬間に一足飛びに間合いを詰めていたのだ。
キィィィィン!!
アディルの斬撃をエイクリッドはかろうじて手にしていた斧槍の柄で受け止めた。すんだ金属音が周囲に響き渡りそれが消えるよりも早くアディルは次の一手を打った。
エイクリッドに向けた掌から魔力を一気に放出したのだ。
ドゴォォォ!!
エイクリッドは躱す事も出来ず、アディルの一撃をまともに受けると竜から転げ落ちた。
「じゃあな間抜け!!」
アディルは落ちたエイクリッドに向けそのまま刃を振り下ろした。




