竜神探闘前哨戦①
朝のトラブルを乗り越えたアディルは用意された朝食を摂ることになった。
今回はアリスとエリスがアディルの両隣に座り、ベアトリスがアディルの真っ正面、ヴェルとエスティルがその両隣、シュレイとアンジェリナが対面に座っている。
(おい……なんだこの図式?)
アディルはこれまでとは違う関係性に突入した事を、嫌が応にも察せざるを得ない。
別に仲間達の溝が深まったという印象はない。むしろ、ある面では絆が深まっているように感じられるのだ。
「さて、今日の日程だけど、とりあえず進めるだけ進むつもりよ」
アリスの言葉に全員が頷いた。もちろん、進むしか方法がない以上、アリスの意見を否定する必要はないのだ。
「敵はそろそろ動き出しているかな?」
「そうね。昨日の入国の際に私は名乗ったからね。今頃イルジードは追っ手を編成してるでしょうね」
「そして人間ばかりだから舐めてくれるっと」
アディルの返答にアリスはニンマリと笑った。
「そういう事、イルジードは中々優秀なのよ。それゆえに他者を侮る傾向があるの。特に他種族に対して侮る傾向が強いわ」
「そうか。なら追っ手は二戦級が送られてくるというわけだな」
「うん、そういう事♪」
アリスはそういうとニヤリと笑う。その嗤いには妙に凄味があったのは気のせいではないだろう。
「イルジードの戦力を削げるし、相手の実力を測ることが出来るというわけだ。後はそいつらが俺達を見つける事が出来ない程の無能者でないことを祈るとしよう」
「そうね。まぁ、そこまでは私も責任はとれないわね」
「とりあえず、飯食ったら移動するとしよう」
「うん♪」
アディルの言葉に全員が頷くと残りの食事を和気藹々とした雰囲気の中で終えた。
「五分後に出発する。準備を済ませろ」
アディルの命令を受けた駒達が慌ただしく動き出した。五分後に出発するとアディル達が言ったのなら本当にその通りに出発するという確信が駒達にはあった。こんな敵地のど真ん中で置いていかれれば、終わりである事を察しているのである。
「それじゃあ、俺達も準備をしようか。エスティル頼む」
「うん、任せて♪」
エスティルは嬉しそうに返答すると手早く魔力で馬車を作り出した。馬車が出来上がるとアディルが符を地面に放り式神を形成するとシュレイとアディルは手早く馬車と式神を繋げる。
ここまでかかった時間は三分ほどであった。最近はエスティルの精度も上がってきており、一分ほどで馬車を形成できるようになっているのだ。
「さ、出来たわ。みんな乗ってね」
エスティルの言葉を受けて仲間達が馬車の乗り込んだ。御者台には昨日同様にアディルとアリスが乗り込んだ。
「あのさ、昨日とは違った感じになってるのはどうしてだ?」
アディルは御者台に座ってから、エスティルに尋ねた。
御者台の後ろに開閉式の窓がついており、しかも窓は開け放たれている。
「アディル達とも話したいと思っての事よ。いや?」
「いや、そんなことはない。ただ疑問に思っただけだ」
エスティルは上目遣いでアディルにそう返答する。エスティルの仕草にカワイイという感想しかアディルは持つ事は出来ずにすぐに正面を見て背中越しに返答した。単純に照れてしまったのだ。
(む~やるわねエスティル)
(ふふふ、健気な乙女心を武器にするのは当然よ)
(負けてられないわね)
(ええ、エスティルも油断できない相手ね。清楚な見かけにだまされちゃダメね)
ヒソヒソと背後で女性陣が何やら囁いているが、アディルはその内容まで聞き取ることは出来なかった。本気を出して集中すれば聞き取れるかも知れないのだが、何となく触れない方が得策のような気がしたのである。
「ジルドさんも乗ってください」
アディルがジルドに声をかけるとジルドは苦笑しつつ首を横に振っていう。
「いや、儂はこのまま徒歩で行かせてもらおうと思っとる」
「なぜです?」
「敵が不意を突いてきたときにすぐに対応するには外に一人くらいいるのが良いじゃろ」
「対応には駒達を当てるつもりなのですが」
「それはそれで良いのじゃが、こいつら程度の実力では草を薙ぐようにやられるような気がしてな。大した時間稼ぎにならんような気がするんじゃ」
「確かにそうですが」
「ま、年寄りの遊びと思うてくれれば良いよ」
「はぁ、わかりました」
ジルドはこうして馬車には乗らずに徒歩でいくことになった。実の所、ジルドの上げた理由は半分は事実だがもう半分は違う。馬車の中は女性陣の競争が激しくなるのを感じたからである。別にギスギスとした感じは無いのだが、所々に甘い雰囲気が発せられることになるので、ジルドとしては胸焼けしそうになるのだ。
「そ、それじゃあ出発しよう」
アディルはそう言うと手綱を動かし、式神の馬により馬車が動き出すと、ジルドは馬車の後ろを歩き出し、駒達がそれに続いた。
竜神帝国での二日目が始まったのだ。




