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閑話:男達の暇つぶしの会話

 アディル達一行は、レジオム森林地帯をそのまま進む。レジオム森林地帯は相当な深い森であり、周囲の木々に日光が遮られ一気に暗くなる。


 まだ正午を過ぎて二時間も経っていないのにすでに夕暮れを思わせる暗さであった。


「これは早めに野営の準備をしないといけないな」

「うん。あと一時間もすれば真っ暗よね」

「ああ、どこか野営に適した場所はないかな」

「確かあと二時間ほど進めばちょっとしたスペースがあるからそこで野営しましょ」

「わかった」


 それから二時間後にアリスの言うとおりに街道沿いに野営地に相応しい場所があり、そこで一行は野営することになった。


「なるほど整備されてるな。旅人への配慮という訳か」

「そういう事、レジオム森林地帯は一日で抜ける事はほぼ不可能よ。そのため、こういう野営地に相応しい場所が街道沿いの至る所に設けられているのよ」

「納得したよ」


 アディルはそう言うと野営地の真ん中に馬車を停めると中のメンバーに声をかける。


「みんな今夜はここで野営する。とりあえず夕食の準備をしよう」

「「「了解~♪」」」


 アディルの問いかけに何人かの返答があった。馬車を出てそれぞれの神の小部屋(グルメル)から道具を取り出して夕食の準備を始めた。


「お前達も野営の準備に入れ、この馬車の周囲を守るように野営しろ」

「「「はっ!!」」」


 アディルは次いで駒に対して命令を下した。自分達の就寝場所である馬車の周囲を守るように野営させるのは駒達の実力を高く評しての事ではない。単に駒が襲われている間に自分達は戦いの準備を整えるためである。


「う~ん、何もしてないけど疲れたわ」


 エリスが大きく伸びをしながら言うと、後から出てくるメンバー達も大きく伸びをしながら頷いた。


「とりあえずは食事にしましょ」

「賛成~♪」


 女性陣達が和気藹々と神の小部屋(グルメル)から食事と調理道具を取り出すとテキパキと用意を始める。


「アディル達はあっちでゆっくりしておいて」


 ヴェルの言葉にアディル達男性陣は「手伝おうか」という言葉を呑み込んだ。女性陣達が食事を作る様子はとても楽しそうで手伝いを申し出る事が逆に邪魔になるような感じがしたのだ。


「わかった。何か手伝いが必要な時は言ってくれ」

「うん♪」


 アディルの返答にヴェルは顔を綻ばせて返答するとアディル、シュレイ、ジルドの三人は女性陣から少し離れた場所で腰掛けることになった。


「しかし、ベアトリスまで食事作りに参加するなんてな」

「うちの王家の方針で技術は身を助けるというものがあってのぉ。王女もありとあらゆる技術を叩き込まれておるんじゃよ」

「あんまりハイスッペックになりすぎても大変なんだろうけどな」

「使わないと使えないは、まったく異なる事じゃよ」

「それはわかりますけどね」

「そうそう、アディル君は王女なんか結婚相手にどうじゃな」

「は?」


 ジルドの問いかけにアディルは呆けた言葉で返答する。それだけジルドの問いかけの意図するところがわからなかったのだ。


「ベアトリスとは身分が違いますから、結婚相手に何か考えた事もありませんよ」

「ほうほう、身分とな。なら身分という事抜きにしてベアトリスという少女を嫁にするという選択肢はないかな?」

「う~む、難しいですね。ベアトリスはたしかに美人だし性格も良いけど、王女という身分を抜きに考えると言うのは不可能でしょ」

「そうかの?」

「ええ、王女である事を考えないというのはベアトリスがいままで生きてきた事を否定するという事に他なりませんよ。それこそベアトリス個人を見ていないという事になりませんか?」

「なるほどの」


 アディルの返答にジルドは納得の表情を浮かべた。


(俺には聞かないがアディルには聞く……そういう事だよな)


 一方でシュレイはジルドがアディルに尋ねた事の意味について結論づけていた。それは何者かがアディルとベアトリスの婚姻を望んでいるという事である。

 ジルドほどの立場の者がベアトリスを結婚相手と尋ねると言う事は、単に世間話であるとはシュレイには考えづらかったのである。


(王族を平民の少年に嫁がせる……常識で考えれば絶対にあり得ない……。あり得ない事がアディルにはあるということか)


 シュレイは気にしないよう装っているが、アディルの一族について興味が尽きないのは事実であった。


「アディル君はすでに恋仲になっておるのかな?」


 ジルドの問いかけにアディルは明らかに狼狽えた表情を浮かべた。ジルドから振られる話題とすればあまり想定してなかったからである。


「恋仲の子はいないですね」


 アディルは苦笑を浮かべつつジルドに返答する。


「おやおや、もったいないのう。アマテラスの女性陣はみな美人揃いじゃないか」

「それは否定しませんよ。ですけど、みんなは恋人と言うよりもなんか運命共同体と言った感じですね」

「運命共同体か。なるほどの」


 ジルドはアディルの返答の“運命共同体”という言葉が妙に気に言ったようであった。


(ある意味、恋人よりも余程、つながりは深いの)


 ジルドは次にシュレイに視線を移すと口元を緩ませながら声をかける。


「シュレイ君はアンジェリナちゃんとどうなっておるのかの?」

「へ?」

「あ、それ俺も気になってる」

「二人とも何言ってるんだよ。アンジェリナは俺の大事な妹ですよ」

「ほっほぉ~」

「なるほどの~」

「なんですか。二人とも?」

「いや~別にね」

「まぁアンジェリナちゃんの努力不足と言う事で今は良いかの」


 アディルとジルドは含みを持たせた返答に怪訝な表情がシュレイに浮かんだが、それに関しては反論を避けたのは二人にからかわれるだけである事を察したからであろう。


「そういえば、ジルドさんのご家族は?」


 アディルがジルドに尋ねる。シュレイが戦略的撤退を行ったためにこれ以上の追撃は無意味とアディルも察したのである。


「ああ、妻と娘、孫が二人おるよ」

「へぇ~そうなんですか」

「やっぱり嫁入りの時は寂しかったりしましたか?」

「もちろんじゃよ。儂の宝を泣かせるような事をすれば首をねじ切ってやるつもりじゃったよ。幸いそのような事をせずにすんだがの」


 シュレイの問いかけにジルドは目を細めて返答する。


(おっかね~)


 アディルはジルドの返答を受けて娘を想う父親の愛情の深さというよりも恐ろしさに身を震わせると、結婚したら相手を大切にしようと心に決めるのであった。



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