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出会い⑥

 アディルの冷たい言葉に三人は沈黙する。その沈黙は恐怖によって沈黙しているのではない。アディルの言葉に尊厳(プライド)を傷付けられたためであるのは三人の表情が物語っていたのである。

 三人は自分の実力に絶対の自信を持っていた。“力こそが全て”、“惰弱は罪”これがこの三人の基本原理である。三人は基本原理に忠実に従い、弱者を踏みにじってきたのである。

 アディルの奇妙な術に対する不気味さは当然あるのだが、アディルのような年端もいかない少年に屈することは自分達の今までの人生を否定する事であり、それだけは認める事は出来ないというものである。


「舐めるな!! クソガキが!! てめえを殺してそっちのガキ共も斬り刻んでやる!!」

「ただでは殺さんぞ!! 俺達を虚仮にした報いをたっぷりとくれてやる」


 傭兵がいきり立つがアディルは涼しい顔だ。


「おいおい……俺が怖いからって声を荒げて誤魔化すなよ……惨めすぎるぞ」


 アディルはそう言うと一瞬で傭兵の間合いに飛び込んだ。それはまるで瞬間移動したかのような速度であった。


「え?……がっ」


 優男の傭兵の口から呆けた声が発せられるのとアディルの天尽が喉を刺し貫くのはほぼ同時であった。

 アディルは刺し貫いた天尽を引き抜くとジクルスに上段斬りを放った。


 キィィィィン!!


 アディルの上段斬りをジクルスは斧槍(ハルバート)の柄で受け止める事に成功する。アディルの上段斬りが受け止められたと同時に優男が崩れ落ちる。その様子を見たジクルスは怒りのこもった目でアディルを睨みつける。


「てめぇぇぇぇぇ!!」


 ジクルスは咆哮し全力を込めてアディルの剣を弾き飛ばそうとした。


 だがすぐにジクルスの表情に驚愕の表情が浮かんだ。ジクルスがいくら力を込めてもアディルの剣は微動だにしない。いやそれどころかむしろジクルスの方に刃が少しずつ迫っていく。


「そ、そんな……なぜ」


 ジクルスは納得いかないという表情と疑問を呈したがそれで現状は何も改善される事はなかった。


 ……キ。


 アディルの刃先が少しずつジクルスの斧槍(ハルバート)の柄に食い込んでいく。ジクルスの斧槍(ハルバート)の柄の中心はくり抜かれ中に鉄芯が通っておりそれをジクルスは魔力を通して強化しているのだ。だがアディルの刀はそんな事お構いなしに少しずつ柄を斬り裂きつつ進んでくる。

 ジクルスとすれば自分の目に映るものが信じられない思いである。だが頭のどこかでこれは現実であり、死の恐怖が一瞬ごとに大きくなっていった。


「ま、待て!!」

 キィィィィン!!


 ジクルスが命乞いを始めるのとアディルの剣が斧槍(ハルバート)を両断したのはほぼ同時であった。斧槍(ハルバート)を両断したアディルの剣はそのままジクルスを肩口から斬り裂いた。


「が……」


 鮮血を撒き散らしながらジクルスは倒れ込んだ。


「あとはお前だな」


 アディルは鋒をハビスに向けて言い放った。


「なるほどな……それだけの腕を持っているのならお前の余裕もわかる」


 ハビスはアディルへの称賛を行うがその称賛にはアディルを格下に見ているのが感じられた。


「謎の上から目線だな。現状が理解できないのかな? お前の術は俺に通じない。そしてお前を守る前衛は既にこの有様だ。この状況を覆すのは不可能だろ」

「ふ、そこで転がっているクズ共が前衛……か」


 ハビスは薄く嗤う。その嗤いはアディルの無知を嘲笑う感情に満ちておりアディルとすれば不愉快極まりない。


「どっちもまだ生きているようだな。困るのだよな。死んでくれないと」


 ハビスは魔力の塊を倒れ込んでいる二人に向け放った。放たれた魔力の塊を二人は当然防ぐことは出来ずにまともに受ける。


 魔力の塊は二人の頭部を粉々にした。見ようによってはハビスは二人を苦痛から救って上げた事になるのだろうが二人にして見れば別の意見があるだろう。


「……助けるよりも殺害する方を選択するか」

「役立たず共に生きる意味など無い」

「随分と過激な思想をお持ちのようだな」


 アディルは吐き捨てるようにハビスに言い放った。アディルの反応にハビスはニヤリと嗤う。


「ふ、甘いな。私にとってそいつらは仲間でも何でもない。ただの駒だ。駒をどのように扱おうと私の勝手というものだ」

(……こいつ何言ってるんだ? バカの論法はわからんな)


 アディルはハビスの言葉に内心首を傾げる。アディルにしてみればハビスの行動はアディル達に何ら不利益を与えるものではない。殺された二人がアディル達の仲間であればアディルも激高したかもしれないが敵がやられたからといってそんなことはしない。


「お前、ひょっとして俺が『仲間を殺すなんて何を考えてるんだ』とか言うとでも思ったのか?」

「何?」


 アディルの言葉にハビスは訝しんだ。その表情を見てアディルは舌打ちをこらえるかのように言葉を続ける。


「おいおい、その顔は当たりか? お前って『私は頭が良いです』と自分では思っているようだが全然そんなことないな」

「どういうことだ?」

「なんで俺が敵の命を心配する? むしろ手間を減らしてくれてありがとうと思っている所だよ。俺は聖人君子でも万能でもないから、敵のために命を張るような事はしない。お前達の中でのことだ勝手にやってくれというところだよ」


 アディルの軽蔑が過分に込められている視線と声にハビスは沈黙する。


「ついでにいえばお前が二人を殺した理由もわかってる。こいつらをアンデッドにしてこの窮地を脱しようというのだろう?」


 アディルはここで言葉を切り、ハビスへ冷たい視線を向ける。アディルの視線に射すくめられ、ハビスは表情を強張らせるが、すぐに歪んだ笑顔を浮かべた。


「いい気になっていられるのも今のうちだ!!」


 ハビスが叫んだ瞬間に倒れていた傭兵二人が立ち上がり様にアディルへ斬撃を放った。アディルはその斬撃をバックステップで躱した。


 起き上がった傭兵二人の死体を瘴気が覆っていく。瘴気は死体を覆い身長は二メートルを超え、体の厚みも倍になった。瘴気はなおも増え続け、大剣に盾へと変貌していく。


「これは……死の騎士(デスナイト)


 アンジェリナが恐怖と嫌悪の感情が込められた声を発した。


「お嬢様、危険です私の後ろに!! 兄さん!!」

「ああ!!」


 ヴェルを庇うようにアンジェリナとシュレイが前に立った。


(この二人って兄妹だったのか)


 アディルは死の騎士(デスナイト)よりもアンジェリナとシュレイが兄妹である事に驚いていた。



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