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竜神探闘篇:プロローグ②

 アディル達と毒竜(ラステマ)一党の戦いが終結して一週間が経過していた。


 アディル達「アマテラス」の配下にいるのは、灰色の猟犬(グレイハウンド)四人、紅風(クラヌイスベル)の四人、毒竜(ラステマ)の六人、闇咬(イビルゼルガ)三四人、黒喰(クルシズ)一六人、 竜眼(ドルグシア)一八人、死顎(アウゼンガイス)二八人である。


 ちなみに死顎(アウゼンガイス)とは、毒竜(ラステマ)と一緒にアディル達を襲い、ヴェルの魔術により一掃された連中である。


「さて、どうしようか」

「一々、チームを崩すのも面倒よ。それぞれのチームでリーダーを選出させて細かい指揮は執らせることにしましょ」

「だな。俺達の目的はあくまでアリスにイルジードとの戦いをさせることさ。あいつらの指揮なんぞ面倒な事はやってられんな」


 アディルとエスティルの会話を聞いていた。他のメンバー達も顔をしかめることなく二人の会話を聞いている。

 アマテラスのメンバー達も基本的に駒への扱いは変わらない。自分達を襲うとした者達に対して、容赦などするつもりは一切無いのである。ただ、毒竜(ラステマ)一味はアディル達から喧嘩を売った事を考えれば被害者の一面もあるのだが、そこは無辜の者達ではないということで、容赦するつもりはないのである。


「こんにちは~♪」


 そこに扉を開けてベアトリスとジルドが入ってきた。


「よぉ、今日はどうしたんだ?」


 ベアトリスがやって来た事に対してアディル達の誰も驚きを見せる事はない。この一週間毎日の様にベアトリスは姿を見せていたからである。

 また、ベアトリスの実力から考えれば、一人で出歩いても危険では無いのだ。


「うん、単純にみんなに会いに来ただけよ♪」


 ベアトリスはにこやかに笑いながらアディルの問いかけに答える。ベアトリスの返答にアンジェリナ以外の女性陣がやや困惑した表情を浮かべていた。それはベアトリスの態度に何やら気になる点があるのを察していたからだ。

 何となく女性陣はその気になる点の内容について少しばかり思い至る点があるようであるが、「まさかね……」という常識がその考えを打ち消しているのであった。


「そっか、ジルドさんもこんにちは。よろしければお掛けください」

「すまないね。それじゃあ遠慮無く」


 ジルドはにこやかに笑いながらアディルの勧めに従って椅子に腰掛けた。ベアトリスも同様である。


「ところでいつ出発なの?」


 ベアトリスは微笑を絶やすことなくアディル達に問いかけた。


「そうね。取りあえずは注文した品が揃ってからね」

「何注文したの?」

「駒達の野営用の道具ね。流石に百人単位だから時間がかかるのよ」

「なるほどね」


 ヴェルの返答にベアトリスは納得の表情で頷いた。確かに一国の軍隊でもない限り備蓄品があるわけでもないため、注文から少しばかり時間がかかるのは仕方のない事である。

 ベアトリスはチラリとジルドを見ると、ジルドはニッコリと笑って頷いた。


「それにしても、この中に軍の指揮をやった事ある人はいるの?」


 ベアトリスはアディル達を見渡して問いかけるとアディル達全員は静かに首を横に振った。


「あれ? シュレイもないの?」

「ああ、俺はヴェルお嬢様の護衛だったからな。軍を指揮する立場にはないよ」

「へぇ~そうなんだ。エスティルとアリスも?」

「うん」

「私もないわね」

「それで勝てるの?」


 ベアトリスの声には少しばかり呆れの成分が含まれている。ベアトリスは別にアディル達を嘲っているわけではない。純粋に疑問を呈しているのだ。


「ああ、竜神探闘(ザーズヴォル)は軍同士の戦いじゃない。だから勝てるのさ」

「ふ~ん」


 アディルの自信たっぷりな返答にベアトリスは顔を綻ばせた。


「何だよ?」

「べっつに~♪」


 アディルとベアトリスのやり取りを見ていた女性陣がコソコソと話し始める。


(ねぇ、どういうこと? これってベアトリスが……?)

(まさか? 王女が一介の剣士と?)

(この放たれる甘い雰囲気、そういう事なの?)

(なんでベアトリスが? 気持ちはわかるけどさ……)


 女性陣のヒソヒソ話に参加していないアンジェリナは事の成り行きに興味津々という感じであった。自分の想い人であるシュレイにベアトリスがちょっかいを出す事が無くなった事にどことなく安堵した様子であった。


「あ、そうそう。その竜神探闘(ザーズヴォル)なんだけど私も参加するわね♪」

「「「「「「「は?」」」」」」」


 ベアトリスの爆弾発言にアディル達の声が見事なまでに揃った。それだけベアトリスの発言はアディル達の想定の上をいっていたのである。


「あ、もちろん儂も参加させもらうつもりじゃよ」


 そこにジルドも言う。


「え? でもベアトリスの参加は認められるわけないですよ。だってベアトリスはこの国の王族ですよ。そんな身分なのに仇討ちに参戦なんかできるわけないですよ」


 シュレイの言葉にジルドはニヤリと笑って懐から一枚の封書を取り出した。ヴァトラス王国では紙というものが東方から入ってきてすでに数世代経っており、すっかり定着しているのである。


「読んでみなさい」


 ジルドはアディルに封書を手渡すとニッコリと笑った。


(なぜ俺?)


 アディルは少しばかり疑問に感じながらジルドから封書を受け取り、裏をめくるとシーリングスタンプで封がしてあった。


「これ、王族の……」


 ヴェルがアディルの手にある封書を見てポツリと漏らす。


「おいおい……」


 アディルはやや呆気にとられながら封書を開け、中の手紙を開いた。


(え……と、何々? ……え? ……まじかよ)


 アディルが読み進めてくうちに呆けた表情を浮かべ始めたので、仲間達も緊張の度合いを高めていく。


「ねぇ、何て書いてるの?」


 エリスの問いかけにアディルは無言でエリスに手紙を渡した。手紙を渡されたエリスは読み進めていき、アディル同様に呆気にとられたような表情を浮かべた。


「竜神帝国への特使に……ベアトリスって……しかも、その護衛に私達を指名するってあるんだけど」


 エリスの言葉に全員の視線がベアトリスに集中するとベアトリスは素知らぬような仕草を見せてニッコリと笑って言う。


「そういう事、よろしくね♪」


 ベアトリスはにこやかにそう言った。

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