毒竜抗争篇:エピローグ②
不思議な空間であった。空に一切の光はない。太陽も月、星の明かりも何もない空間に直径約二十メートルほどの大きさの地面が浮かんでいる。
地面の中心には大理石の円卓があり、十二の席が等間隔に設置してあった。各席の後ろにはそれぞれ扉がある。不思議な事にその扉はそのまま空間に立っており扉の用を為していないように見える。
円卓の周囲には燈火が掲げられ十分な光量を放つ事で視界が確保されていた。
その円卓に備えられている席にはすでに十人が座っている。全員が空席の方に視線を向けていると席の後ろの扉が開いた。扉から一人の全身鎧を身につけた騎士が現れる。
「遅かったなジーツィル」
既に着席している騎士が現れた騎士に対して言う。ジーツィルと呼ばれた騎士は心の中で首を傾げた。
何やら空気が重いようにジーツィルには感じられたのだ。
「申し訳ございません」
ジーツィルは不思議に思いつつも素直に謝罪の言葉を告げるとそのまま席に着く。
「それでは全員揃ったと言う事で始めようかの」
「え?」
ジーツィルが席に着くと、老騎士がおもむろに声を発した。
老騎士は白いクセのある髪を後ろに流し、左目から頬にかけてザックリと入った刀痕は老騎士の戦歴の凄まじさを印象づけるものであった。
眼光には肉食獣のような獰猛さを宿してる。
「まだ、マルトス卿がおりませぬが?」
ジーツィルの疑問の声に老騎士は片眉を上げてジーツィルを見る。
「あやつは何者かに斬られた。ここにおらぬのはそれが理由よ」
「な!?」
老騎士の言葉には怒りの感情が含まれており、ジーツィルは小さく喉をならした。その怒りがどこに向かってのものなのかは、現時点ではわからない。
「事実だ。我らが急遽集められたのはそのためだ」
他の騎士がジーツィルに言う。その騎士の声にも忌ま忌ましさが含まれているのをジーツィルは察した。
(なるほど、空気が重かったのはそのためか)
ジーツィルは心の中で呟いた。自分達十二魔将の一角が斬られたというのは確かに急遽呼び出される理由としては当然であった。
「マルトスが敗れたのは些細な事だ。だが……」
老騎士が一旦言葉を切ると周囲の騎士達の緊張感が増した。
「イグリアス様の顔に泥を塗ったお詫びをせねばならぬ。マルトスを斬った者を殺し、イグリアス様へ捧げよ」
老騎士の言葉に十人の騎士達は目に炎が宿ったように思われる。イグリアスの名を聞いた瞬間に戦闘モードに入ったかのようであった。
「それで、ジルベイル老、マルトスを斬った奴の手がかりはあるのか?」
筋骨逞しい騎士が不躾な言葉で老騎士に尋ねた。
「うむ。マルトスが斬られた所にヴァトラス王国のハンターの死体があった」
「ハンター?」
「我らの世界では、冒険者と呼ばれている者の事だ」
「ほう」
ジルベイルの返答に騎士は少しばかり興味を得たようであった。
「この世界にも冒険者共がいるとはな」
「斬ったのは死んだ冒険者の仲間という訳か」
他の騎士達も同様に周囲の者達と会話を始めた。ジルベイルは片手を上げて騎士達の話を制すると口を開く。
「その死んだハンターを身元を掴めば、マルトスを斬った相手に辿り着くであろう」
「なるほど、そしてその冒険者を全員で叩くと言うことか?」
「そうなるのう」
ジルベイルの返答に騎士達はニヤリと嗤った。
「心せよ……我ら十二魔将の目的はイグリアス様の復活。そのためにはどんな小さな障害も取り除かねばならぬ」
「「「「「はっ!!」」」」」
ジルベイルの言葉に騎士達は一斉に立ち上がり右手を心臓の位置に当てて一礼する。
騎士達は頭を上げるとそれぞれ背後の扉から出て行く。
一人残ったジルベイルは円卓の上に両肘を立てて不敵な嗤みを浮かべていた。




