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対毒竜戦⑧

「しかし、これじゃあ、さっさとやってしまった方が良かったな」


 アディルの呟きにロジャールが訝しげな表情を浮かべたのは仕方ないだろう。アディルの声には失望の感情がふんだんに含まれていたからだ。


「何の事だ?」


 ロジャールの険のこもった問いかけにアディルは“やべ、声に出てた”という表情が浮かんだのは、アディルの呟きが無意識だったからであろう。


「さ、再開しようじゃないか!!」


 アディルは無駄に明るい声で再会を提案したのは、もちろん誤魔化すためであったのだが、ロジャールにしてみれば虚仮にされたも同然であった。


「だから何の事だと言っている!!」


 ロジャールの声は怒りに震えていた。これまでの流れは確実にアディル達の作ったものである。その事が分かっているロジャールとしてみれば当然の事である。

 アディルは誤魔化しが上手くいかなかった事を察すると肩をすくめながらロジャールに言う。


「何って、お前達毒竜(ラステマ)がこのヴァトラス王国で最凶の闇ギルドと言うことで、色々と考えてたんだが無駄だったと言ったんだよ」

「は?」

「俺達はお前達毒竜(ラステマ)を駒としてこき使おうと思ってるんだよ」


 アディルの言葉にロジャールは呆けた表情を浮かべた。アディルの言っている言葉の内容は理解できているというのに、その意味を理解することが出来ないのだ。


「その顔は意味がわかってないと言うことだな。だから想像のお前らは俺達の中で評価が高かったから綿密な準備をしていたんだ。ところが蓋を開けてみれば、どうしようもない雑魚ばかりときたもんだ。今までの準備にかけた時間を返せと言いたくなるのも仕方ないだろう?」


 アディルの言い分にロジャールは口をパクパクとさせているが言葉を発する事は出来ない。アディルの言っている事が自分の想定の遥か上をいっており、反論することが出来なかったのである。


「まったく……竜眼(ドルグシア)闇咬(イビルゼルガ)もきちんとお前達の実力を俺達に伝えていれば大分手間が省けたのにな」

竜眼(ドルグシア)闇咬(イビルゼルガ)……だと?」


 アディルの口から出た竜眼(ドルグシア)闇咬(イビルゼルガ)という単語にロジャールはサッと顔を青くした。


「ああ、すでに竜眼(ドルグシア)闇咬(イビルゼルガ)はこちら側に付いているぞ」

「あいつら……裏切ってやがったか」

「まぁな、俺達が誠意を持って話したら涙を流しながら、ぜひ俺達のために働きたいと言ってたよ。お前らの人望の無さが分かるエピソードだな」


 アディルの言葉は事実から最も遠いところにあると言えるのだが、大事なのは竜眼(ドルグシア)闇咬(イビルゼルガ)がアディル達の側に付いているという事実を告げる事である。


灰色の猟犬(グレイハウンド)が俺達の敵に回ったというのは……お前らが流した偽情報か」


 ギリッと奥歯を噛んだロジャールの声は忌ま忌ましさの極致というべきものである。竜眼(ドルグシア)毒竜(ラステマ)の情報源だ。そこを握られた以上、今まで仕入れていた情報は自分達をおびき寄せるためのものであったことに気づいたのである。

 アディルはロジャールの様子を見て楽しそうに嗤いながら言う。思い切り意地悪が出来て嬉しくて仕方がないという感じであった。


「ああ、あいつらもお前の所の部下同様に俺達の側についていてな。お前達を潰すのに是非協力したいと申し出てくれたわけだ」

「あいつら……」

竜眼(ドルグシア)をあんまり責めんなよ。あいつらは俺達に従っただけだ。自分の間抜けさを他人のせいにするのはあんまり感心しないな」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 アディルの言葉についにロジャールは我慢の限度を超えたようで長剣を振りかぶって突進してきた。


(よっぽど悔しいんだろうな)


 アディルはロジャールが突進してくるのを見ながら思う。毒竜(ラステマ)は恐怖の対象として見られることはあっても、ここまで虚仮にされた経験はないのだろう。

 アディルがここに来てロジャールに事実を告げた(多少の脚色あり)のは、ロジャールへの挑発の意味も兼ねていたのである。


「そう、怒るなよ。間抜け……」


 アディルはそう言うと振り下ろされたロジャールの長剣を天尽(あまつき)で受ける。


「な……どうして?」


 ロジャールの口から驚きの声が上がった。アディルの剣と自分の長剣は激しくぶつかったはずなのに金属同士を打ち合わせた音が一切しなかったからだ。

 しかも、受け止められた自らの長剣は微動だにしないのだ。ロジャールにとって不可思議な力が働いたとしか思えなかったのも不思議ではない。


 これはアディルの得意とする陰剣(いんけん)という相手の力を相殺するキノエ流の技法であった。

 キノエ流では陰剣(いんけん)陽剣(ようけん)という二つの技法を巧みに使い分け戦うのである。


「ま、小さいこと気にすんな」


 アディルはそう言うと天尽をロジャールの長剣の上を滑らせ鍔元にまで動かした。その間、ロジャールは微動だにしない。アディルの剣が自分の鍔元に移動しているのを見ているというのに体が反応しないのだ。

 これはアディルがまったく衝撃を発しないためにロジャールの意識が反応しなかったのである。


「あ……」


 ロジャールの口から発した言葉は自分が敗れた事を察した故のものであったかもしれない。


 ボト……ガシャン!!


「はがぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そして、ロジャールの口から絶叫が発せられた。ロジャールの足元には親指と長剣が転がっていたのだ。


「まったく……痛がってる暇があったら反撃の一つでもしたらどうなんだ」


 アディルは天尽の峰を左肩に容赦なく振り下ろした。


 ギョギィィィ!!


 アディルの手にロジャールの肩の骨が砕ける感触が伝わる。ロジャールはそのまま倒れ込み意識を手放した。あまりの苦痛に脳が活動を停止したのであろう。


「さ、おしまい……っと、みんなはどうかな?」


 アディルは周囲に視線を向けると仲間達がそれぞれ毒竜(ラステマ)を蹴散らしている姿が目に入る。


 アマテラス、ヴァトラス王族連合軍と毒竜(ラステマ)との戦いはアディル達の完全勝利で終わったのである。

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