出会い⑤
「よし!! あとはあいつらだけね♪」
ヴェルは艶やかに笑い三人へと視線を移す。黒いローブの男が防御陣を形成し、ヴェルの魔力の鏃を防いだのである。
ヴェルは鏃の連射で倒せなかった事に対して少しも落胆している様子はない。
「アンジェリナやるわよ」
「はい♪」
ヴェルはそう言うとスカートをたくし上げる。男性陣の視線がヴェルの足元に注がれるのは本能的に仕方のない事かも知れない。たくし上げたヴェルのスカートには素晴らしい曲線を描く脚線があったが、アディルはむしろ太股に装着されている一本の短刀に目が注がれる。
(ヴェルの修めた武器は短刀か……?)
ヴェルは太股に装着していた短刀を抜くと逆手に持って構えた。アンジェリナも手にしていた杖を構える。
「シュレイ、ヴェル達の援護に入らないのか?」
「ああ、俺はあっちをやる」
シュレイはそう言うと優男風の傭兵へと剣の鋒を向けた。鋒を向けられた男は「はぁ?」というような表情を浮かべた。
「シュレイ、俺はあんたの腕前のことをよく知らんから一応言っておくがあいつは中々の使い手だぞ」
「わかってる。だが勝てない相手じゃないさ」
シュレイはニヤリと嗤ってアディルの問いに答える。
(ん……シュレイも勝つつもりか……これは後で聞いてみないといけないな)
アディルはヴェル達の行動を見て、どうしてそれほどの実力を持っていて逃走を選んだのかを確認する必要性にかられたのだ。
「おい陰険野郎。お前の相手は俺がやってやる。もしこちらにつくのなら手加減してやるぞ」
アディルはローブの男に嘲りを込めた口調で言う。安い挑発である事は十分に理解しているがローブの男には、これで十分であると思っていたのである。
それというのもローブの男は最初からアディル達を舐めている。それは自身の実力に自信があることを意味しているのだが、その油断する思考回路がアディルにして見れば失笑ものであるが、格下と思った相手を侮る者は多いのである。
「ガキが……この大魔導師ハビスにそのような口を……八つ裂きにしてやる!!」
ハビスの言葉にアディルは冷たく嗤う。
「おいおい、自分で大魔導師と名乗るなんて恥ずかしくないのか? 大抵そんな奴は自分の足りない実力を隠すためのハッタリだ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるから止めてくんないかな」
「な……」
「もしくは実力じゃなく、知能が足りないのか? それとも品性か?」
「き、貴様ぁぁぁぁ!!」
ハビスはアディルの挑発に耐えることが出来なかったのだろう。両掌をアディルに向け掲げると魔法陣が浮かび上がった。
「なんだかあいつ怒ってるな」
アディルは隣に立つシュレイに何食わぬ顔で尋ねる。
「怒らせたのはお前だろ」
「そうか? この程度のやり取りで激高するなんて足りないのは忍耐心だと思うぞ」
アディルはニヤリと嗤ってハビスに言い放った。
「殺す!!」
ハビスは分かり易すぎる意思表示を行うと浮かび上がった魔法陣が青く光り始めた。
「死ねぇぇぇ!! 雷竜撃!!」
魔法陣から雷撃が放たれる。放たれた雷撃はまるで竜のようにアディルへと向かって一直線に飛んだ。
「金剋木、金気をもって雷を剋す!!」
アディルは天尽の鋒を放たれた雷撃に向ける。ここで恐るべき事が起こった。放たれた雷撃が鋒に触れた瞬間に消滅したのだ。まるで最初から存在しなかったように。
「な……」
ハビスの口から呆然とした声が発せられた。防御陣で防いだのではない。自分の知る防御とは明らかに異なる方法でアディルが自分の雷撃を防いだ、いや消滅させたのだ。
「何をした?」
ハビスの言葉にアディルはニヤリと嗤う。
「お前は俺が手品の種をバラすような間抜けに見えるのか?」
アディルはそう言うと一歩踏み出した。
「く……」
ハビスは再び掌をアディルに向け魔法陣を形成する。次の魔法陣は赤く光る。
「炎の奔流!!」
ハビスの形成した魔法陣から炎が奔流となってアディルへと放たれる。
「水剋火!! 水気をもって炎を剋す!!」
アディルは天尽を静かに振るう。静かな斬撃であったがその効果は恐るべきものであった。放たれた炎の奔流が先程の雷同様に消滅したのだ。
「な、なんだ。こいつは!!」
「く……」
「近付くな!!」
アディルの不可思議な術に三人は明らかに狼狽している。戦いにおいて相手が何をやっているかが分からないことほど恐ろしい事はない。
「う~ん……アディルは何やってるのかしら? アンジェリナ分かる?」
「いえ、あんな術初めて見ます」
「確かに、防御陣で防いだわけじゃない。あれは何というか……相殺した?」
一方でヴェル達もアディルが何をやっているかが理解できないために大いに戸惑っているようであった。
「水竜閃!!」
ハビスは再び魔術を放つ。魔法陣から竜を模った水がアディルへと向かう。
「土剋水……土気を持って水を剋す」
アディルはもはや天尽を振るう事なく、左手で無造作に水竜をはじくと水竜は雷、炎同様にかき消えた。
「そろそろ、そんな児戯は通じない事を理解したか?」
アディルの冷たい言葉が響いた。
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