対毒竜戦②
「来たみたいだぞ」
「そっか、今夜決着か」
シュレイの言葉にアディルが伸びをしながら答える。灰色の猟犬達から情報がもたらされてからアディル達は襲撃に備えて仮眠を取っていたのだ。
「出来る奴等は六人ね……あとは雑魚ばかりか」
「毒竜って六人のチームなんだろ? 数があってて良かったな」
「そうともいうわね」
エリスとアディルの会話にはまったく恐怖というものが含まれていない。ここを襲撃するという事がアディル達の待っていた最期のピースなのだ。そして、毒竜がここを襲撃したと言う事は“詰み”の状況であると言えるのだ。
コンコン……
そこにドアをノックする音が響くとアディルが扉に向かって歩き出した。
アディルは迷わず扉を開けた瞬間に一人の男がナイフをアディルの腹部に突き出してきた。
男の表情はニヤニヤとしておりアディルの腹部を刺し貫くことに躊躇いがないどころか楽しみにしているようであった。
アディルは突き出された男の手首を掴むと同時にもう片方の人差し指、中指を男の右目に突き込んだ。
「が……」
男は右目を抉られた事に対して小さく苦痛の声を上げた。絶叫を放たなかったのは自分が何をされたか理解できてなかったからであろう。
アディルは右目を貫いた指を眼窩に引っかけるとそのまま引っ張り扉の縁に顔面を叩きつけた。
バァァァァァン!!
男は凄まじい音を発したままズルズルと血の跡をドアの縁に残しながら地面に崩れ落ちた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
アディルが外にいる者達を見渡しながら余裕の声で言い放った。ぐるりと家を取り囲んでいる者達は約三十人ほど、その後ろに強者の佇まいを見せる六つの人影があった。
ガシャァァァァァァン!!
アディルが後ろの六人に声をかけようとしたときに家の中から破壊音が発生した。
* * *
ガシャァァァァァァン!!
アディルが声をかけた次の瞬間に窓から四人の男達が侵入してきた。扉から侵入した者達へ意識を集中させ、窓から侵入し相手の混乱を誘うという作戦だったのだ。
闇咬のアジトを襲ったときにアディル達も行った作戦であった。同じ戦法であったのだが、結果は全く異なっていた。
窓から跳び込んできた侵入者の顔面にエリスが鉄鎖を放つと侵入者の一人の顔面を容赦なく打ち砕いた。
「よっ……と」
エリスはそのまま鉄鎖を横に薙ぐと別の窓から侵入した者の顔面に直撃すると侵入者は顔面から血と歯を撒き散らしながら壁に激突するとそのまま気絶し床に転がった。
「このクソアマァァァァ!!」
仲間二人が瞬く間にやられた事に激高した男が腰のダガーを抜くとエリスに襲いかかった。
シュン……ゴトッ……
風を切る音がして、次いで何かが落ちる音が響く。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!!」
侵入者の男が蹲り絶叫を放った。男が蹲ったところには男の親指が転がっており、ダガーがその横に転がっている。
「近所迷惑だろうが騒ぐなよ」
ドゴォ!!
シュレイが冷たく言い放つと蹲る男の顔面を容赦なく蹴りつけた。シュレイがエリスに襲いかかった男の親指を切り落としたのだ。
「流石です!! 兄さん♪」
アンジェリナが目をキラキラさせてシュレイを褒め称える。もう一人の侵入者の男はもはや相手にされていない状況であり、男としては立つ瀬がないというものである。
バギィ!!
そこにエリスが間合いに跳び込むと正拳突きを男の顔面に放ち、男が数メートルの距離を飛んで壁に激突する。
「アリス、反撃お願いね」
「任せて♪」
「ほら、アンジェリナ行くわよ」
「うう、お嬢様~そんなご無体な~」
「良いから行くわよ」
ヴェルがアンジェリナを引き摺ってアリスの元に行くとアリスの足元に魔法陣が発生し、三人の姿がかき消えた。
アリス、ヴェル、アンジェリナの三人は家の敷地ギリギリの所に現れている。三人の視界には、家をぐるりと取り囲む毒竜達の後ろ姿があった。
この家の敷地の至る所にアディル達は、転移魔術の拠点を設定していたのである。転移魔術は、転移先を設定しておけば、一瞬で転移先に移動することが出来る魔術だ。
アマテラスの中で習得しているのはアリスである。術者が転移を行う際に術者の魔力で覆えば他者も同時に転移させることが出来るのである。
「さ、やっちゃいましょう」
アリスの言葉にヴェルはニッコリと笑って頷くと両手の指先に魔力を溜めると一斉に放った。
ドドドドドドドドドドッッ!!
ヴェルの十本の指から高速で放たれた魔力の鏃は容赦なく毒竜一味に降り注いだ。
「ぶっ!!」
「が!!」
「な、なんだぁぁぁ!?」
背後からの攻撃に毒竜一味は大混乱になったのだが、これで毒竜一味を無様と罵るのは酷というものだろう。突然背後から魔力の鏃を浴びせられれば誰でも混乱するというものである。
ちなみにヴェルは十分に手加減しているのだが、直撃を受ければ間違いなく昏倒するレベルの威力のため、混乱がなくなるものではない。
「私の出番ありませんね……」
「まぁ、これは仕方ないわよね」
ヴェルの無双劇を見せつけられてアンジェリナとアリスがため息交じりに言った。




