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邂逅②

 アディルとぬいぐるみを手に入れた四人はホクホク顔で王都の通りを歩いている。


「……」


 アディルが少しだけ難しい表情を浮かべた事に四人は即座に気づくと、もらったばかりのぬいぐるみをそれぞれの神の小部屋(グルメル)へと収納する。使えなかったヴェルも全員の指導の賜で使えるようになっていたのだ。

 ただし、まだ収納出来る量は他の者達よりも少ないのだが、ぬいぐるみを入れるぐらいは余裕なのだ。


「敵?」


 エスティルが簡潔にアディルに尋ねるとアディルは少しばかり首を傾げる。


「それがよく分からん。敵意、殺意というものは感じないんだが、俺達を誰かが見てる」

「え? ……本当だ」

「う……浮かれすぎてて気づかなかった」

「これは相当な手練れね」

「みんなが気づくのが遅れたって事はそういう事よね」


 五人は何でもないように装いながら歩く。所々、女性陣に反省の色が見えるのはアディルからの贈り物に浮かれていた事に対する反省であった。いかに毒竜(ラステマ)が動く気配がないとはいえ気を抜いて良い状況では無かったのである。


「二人……三人か?」


 アディルの言葉にいつものキレがない。アディルが自分達を見ている相手の気配を把握しきれないのは珍しい。

 アディルの気配察知能力は凄まじく高い。そのアディルが把握しきれないと言う事は、逆に言えばアディル達をつけている者達の実力が凄まじく高いと言う事の証拠である。


「二手に分かれる?」


 ヴェルの提案にアディルは少し考えると首を横に振る。


「いや、これだけの手練れだと各個撃破の可能性が高くなる」


 アディルの返納にヴェルの顔が曇る。


「シュレイとアンジェリナは大丈夫かしら……」


 ヴェルは別行動を取っている二人を気にかけていたのだ。アディルがこれほど警戒する相手ならば心配するのは当然である。


「今の所、遠巻きにみてるだけ……目的は襲撃じゃなく監視と言う事かしら?」

「もし、監視なら毒竜(ラステマ)じゃないわね」


 エスティルの言葉にエリスが持論を展開する。


「根拠は?」

「まず、毒竜(ラステマ)にとって、私達は路上の石にも等しいぐらいどうでも良い存在よ。そんなどうでも良い存在にこれほどの手練れをよこすとは思えないわ」


 エリスの言った根拠は十分な説得力があった。エリスの言った通り、これほどの手練れを雑魚と思っているアディル達に送り込む必要はないだろう。


「……となると別組織というわけね」

「何者かしら?」

「敵意をまったく感じないのは、やはり敵対の意思が無いという事かな?」


 アディル達は追跡者の正体を話し合いながら歩いて行く。さりげなく人通りの少ない道に向かっている。


「こっちに向かうと言う事はそういう事よね?」


 ヴェルがアディルに尋ねるとアディルがニッコリと笑って頷いた。アディルが微笑んだのは別に心安らかというわけではなく、監視者に気づいていませんよというアピールをするためである。


「みんな、そのまま聞いてくれ」


 アディルが前を見ながら四人に告げる。四人はにこやかに笑いながらアディルの次の言葉を待つ。


「これから、そこの角まで一気に走るぞ」


 アディルはそう言うと同時に走り出した。四人はそれに続く。


 角までは僅か百メートル程である。アディルは全力ではなく八割ほどの速度で走った。


(全力で走らないということは、追いつかせるのが目的ね)


 これが四人の考えであった。アディルと行動をする事によって全員仲間の行動の目的を考えるようになっているのだ。

 もちろん、日常の場合はそれは影を潜めるのだが、現在のように相手がいる場合では自然にスイッチが入るのである。


 アディル達は角まで一気に走るとピタリと止まる。ヴェル達はそのままアディルの後ろへと回った。

 すると三人の人物が走り込んできた。


 アディル達が待っていた事に対して、三人は驚くことは無かった。


(まぁこんな子供騙しで流れを掴めるほど甘い相手じゃ無いよな)


 アディルは三人を見て即座に判断する。


 三人はアディル達と同年代の少年と少女、五十代半ばの白髪の男性だ。


 黒髪、黒眼の美少年と美少女、白髪の老紳士という取り合わせであるが、身なりの良さから上流階級の者であるのは容易に想像できる。


「あら、こんにちは♪」


 黒髪の少女がニッコリと笑ってアディル達に挨拶をする。


「やぁ、どうも。そんなに急いでどこに行くんだ?」


 アディルの問いかけに少女はゆったりとした表情を浮かべると口を開く。


「あっちの店にどうしても欲しい指輪があるのよ」

「ふ~ん。そうかそうか。もう一つ質問があるんだけど良いかな?」

「良いわよ。ああ、私に恋人はいないわよ♪」

「そりゃ良かった。君みたいなカワイイ子と恋人になれるチャンスが全くないのは悲しいからな」

「あら、お上手ね」


 アディルと少女がにこやかな表情を浮かべながら会話を交わすが、互いが放つ雰囲気は警戒感を大いに含んでいる。


「質問して良いかな?」

「どうぞ♪」

「君達は俺達の敵か?」


 アディルの言葉に少女は呆れた様な表情を浮かべた。後ろの少年、老紳士も同様の表情だ。


「随分と直接的な問いかけね」

「嘘つくなら、別に構わんぞ。嘘だと判断したら俺達も嘘をつくだけだからな。俺達に何かさせたいんだろ? 協力を願うならそれなりの態度って必要だと思うけど?」

「ふ~ん、強いだけのアホじゃないというわけね」

「照れるな」

「ふふ、素直なのは良い事だと思うわ」


 少女がニッコリと笑って言うと後ろの少年が動いた。アディルの意識が少女に向いた瞬間に動いたのだ。


 少年は一瞬でアディルの間合いに跳び込むとアディルの顔面に裏拳を放ってきた。


(速い!!)


 アディルは少年の裏拳をバックステップで躱すが少年の追撃の前蹴りが放たれた。アディルは咄嗟に右手でガードをして前蹴りを受け止めた。


「ちぃ!!」


 アディルの口から舌打ちが発せられる。少年の前蹴りの威力が想定よりも遥かにあったのだ。

 少年は止められた蹴りを引かずにそこを基点に反対の足でアディルの側頭部に蹴りを放った。


 ビシュン!!


 アディルは後ろに跳び辛うじて回避に成功する。


(今の一連の動き……まったく淀みがない。こいつ……ここまで強いとはな)


 アディルのこめかみの所に一筋の血が流れる。少年の蹴りが直撃したわけでは無いのだが蹴りの風圧でアディルの皮膚が裂けたのである。


「アディル!! この……!!」


 ヴェルが少年を睨みつけ両手を少年に突きつけた所でアディルから制止がかかった。


「待てヴェル。喧嘩を売られたのは俺だ。俺がやらせてもらうぞ」


 アディルの言葉に少年はニヤリと笑った。それは本当に楽しそうな笑顔であった。

 この三人の正体はみなさんわかってらっしゃるでしょうけどお付き合いください。

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