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邂逅①

 闇咬(イビルゼルガ)との戦いが終わって三日、アディル達は穏やかな日々を過ごしていた。

 別にバカンスを楽しんでいるのでも緩んでいるのでもない。ただ次の一手を打つタイミングを計っているだけなのだ。


「早いところ毒竜(ラステマ)の二人は合流しないかしらね」

「そうね。正直暇よね」


 ヴェルとエリスが大通りを歩きながら言う。


「そう言うなよ。待つしかないのは分かってるだろ?」


 二人のぼやきにアディルが苦笑混じりに言う。情報で毒竜(ラステマ)は六人揃ってからムルグ達へ報復するという事がわかっているため、現段階では相手側から動く気配はないのだ。

 ならばこちらから仕掛けるという選択肢もあるのだが、情報提供者達は毒竜(ラステマ)の本拠地を誰も知らないという事であった。毒竜(ラステマ)は多くの拠点を持っており、情報提供者達も把握していないという。


「あ、そうだ!! 買い出しに行っておかないと。兄さん、一緒に付き合ってください」


 アンジェリナがシュレイに向かって言う。アンジェリナはやや上目遣いにシュレイに頼み込む。多少あざとさが見られる仕草ではあるが、アンジェリナの容姿は十分に美少女にカテゴライズされるために不快感を与えるものではない。


「そうか。みんなも一緒に行かないか?」


 シュレイの言葉にアディル達は揃って首を横に振る。アディル達がシュレイの誘いを断ったのは二人を邪魔しては悪いという気遣いから来るものではない。シュレイが言った時に、アンジェリナが視線で凄まじい意思表示をしたためである。ちなみにアンジェリナの意思表示をアディル達は「邪魔したらわかってるよね?」というものであった。

 わざわざ虎の尾を踏んで命を失うような危機管理の出来ない者はアディル達の中にはいないのだ。


「兄妹水入らずで楽しんでこいよ。ヴェルは俺達と一緒にいるから二人が護衛から離れても大丈夫だよ。……な?」


 アディルがシュレイに返答した後にヴェルに向かって言う。


「ふぇ!! あ、そうそう!! アディル達と一緒だから少しぐらい離れても大丈夫よ」

「はぁ? そうですか」


 アディルとヴェルの態度にシュレイは少しばかり首を傾げるが、それを口に出すようなことはしなかった。


「それじゃあ、アンジェリナ行こうか」

「はい♪」


 シュレイの言葉にアンジェリナは無駄に良い笑顔を浮かべるとシュレイと二人でアディル達から離れていく。二人を見送りヴェルがポツリと漏らす。


「私、あの二人の主人のはずなんだけどな……」

「今さら諦めろ……主人であっても恋路を邪魔すると碌なことにならんぞ」

「わかってるわよ。そんな危険な事するわけないでしょ」


 ヴェルは身震いしながら言う。もちろんこれが冗談である事はアディル達は十分に理解している。ヴェルはあの二人が幸せになる事をこの中で誰よりも願っているのだ。自分に付いてきてくれる二人に対し、幸せを願うのは当然であった。


「それじゃあ、独り身の俺達はその辺をぶらつくことにしようか」

「「「「賛成~♪」」」」


 アディルの提案に女性陣は嬉しそうに賛同する。


 アディル達五人は連れだって歩き出した。王都の大通りは多くの人で賑わっている。みな楽しそうな様子をしており、この国に大きな問題がない事を物語っていた。


「あ、見てあれ!!」

「うわぁ~カワイイ♪」

「うん。カワイイ♪」


 ヴェルが指差した先に動物をモチーフにしたぬいぐるみが所狭しと並んでいる店であった。


「やれやれ、みんな子どもね。ぬいぐるみなんかでそこまで騒げるなんて」


 アリスが呆れた様に言うが他の女性陣は不快になるようなことはなかった。なぜならアリスもまたチラチラとぬいぐるみを盗み見していたからである。


「なんだ。みんなぬいぐるみが好きなのか?」

「「「うん♪」」」

「う……そんなわけないじゃない」


 アディルの返答に女性陣は賛同するが、アリスだけはまだ素直な返答をしない。ただ、言葉の最初にうっかり本心が見えている。


「さてと……」


 アディルはそう言うと店の中に入ると四つのぬいぐるみを手に取りカウンターに向かう。アディルのような少年の客は珍しいのか少しだけ店員の女性は驚いた様であるが、店の外にいる四人を見て事情を察したのだろう。


「あんまり罪なことしちゃダメですよ」

「そんなんじゃないですよ。日頃の頑張りに答えたいと思ったまでですよ」

「まぁ、そういうことにしておきますね♪」


 店員の言葉にアディルは苦笑を浮かべつつ返答するが店員は素知らぬ風に軽く流してしまった。

 アディルは苦笑を浮かべつつ店を出ると四人が嬉しそうな表情を浮かべているのが見えた。アリスははっと気づくと興味のないように装っている姿にアディルは顔を綻ばせた。


「はいヴェルはイヌのぬいぐるみ」

「ありがとう♪」

「エスティルにはウサギ」

「うわぁ~ありがとう♪」

「エリスはネコだな」

「ありがとう!! 大事にするね♪」

「さて、アリスはヒツジだな」

「う、うん……その……ありがと……」


 アディルが四人にそれぞれのぬいぐるみを渡した。アリスもこの状況で受け取らないという選択肢はとらなかったようで真っ赤になりながら受け取った。


「ねぇ、アディル」


 ヴェルが首を傾げながらアディルに尋ねる。


「なんだ?」

「私確かにこのイヌのぬいぐるみが一番カワイイと思ったんだけど……どうして私がこれを欲しがってるってわかったの?」

「あ、それ私も聞きたい。ネコのぬいぐるみが欲しいってどうしてわかったの?」

「私もウサギが欲しかったのよ」

「私も言ってなかったのによくわかったわね」


 四人はそれぞれ不思議そうな表情を浮かべながらアディルに尋ねた。アディルは無造作に手に取ったようであったが、それぞれの欲しいぬいぐるみを渡したのだ。


「ああ、みんなの視線の先にそいつらがいたから、それぞれそれが欲しいんだろうなと思っただけだよ」


 アディルがあっさりと言う。アディルの言葉を聞いた四人は嬉しそうな表情を浮かべるとそれぞれのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱きしめた。


「アディル、大事にするね」

「私も!!」

「私も♪」

「ありがとう」


 四人は幸せそうな笑顔を浮かべてアディルに礼を言う。四人は確かにアディルがぬいぐるみを買ってくれた事に対して嬉しかったのだが、それ以上にアディルが自分達の事をきちんと見ているという事が嬉しかったのである。


「おう、いいって事よ」


 アディルはぶっきらぼうに返答するが、少しだけ照れたような仕草であった。四人があまりにも可愛かったために純粋に照れてしまったのである。


 その幸せそうな五人の姿を見ている者がいることにアディル達は気づいていなかった。


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