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下部組織の受難:闇咬③

 窓から五人の少女達が侵入してきた事に闇咬(イビルゼルガ)の面々は思考を停止させていた。

 灰色の猟犬(グレイハウンド)に怒りを叩きつけてやろうと武器を持って飛びだしたまでは良かったが、出入り口にとんでもない強さを持ったガキが立ちふさがったと思った所に窓から新手が現れるというのは彼らの想定を遥かに超えた出来事だったのだ。


「威力を間違えないようにしないとね」


 ヴェルが小さく呟くと両手の指を闇咬(イビルゼルガ)の面々に向けると同時に魔力の鏃を連射し始めた。


「な……が!!」

「へ? ぐはぁ!!」


 闇咬(イビルゼルガ)の二人がヴェルの魔弾をまともに受ける。ヴェルが本気で放てば一発で彼らの肉体は吹き飛んでいただろう。しかし、ここでの目的は殺戮ではなく制圧であるために威力を押さえていたのである。

 ただいくら威力を押さえていたとはいえ、一撃で骨が砕けるほどの威力である。闇咬(イビルゼルガ)の二人は口から血を吐き出した所を見ると内臓が傷付いたのは間違いない。




「よっと……」


 エリスは自分の最も手近なところから数を減らしに向かう。呆けた闇咬(イビルゼルガ)のメンバーの懐に飛び込むと右拳を腹部に叩き込む。

 腹部に強烈な一撃を食らった男はくの字に体を曲げたところにエリスは左肘を男の顔面に叩き込んだ。


 ギョギャァァァァ!!


 異様な音が響き男が口から血と歯を飛び散らせながら三メートル程飛んで床にたたきつけられた。エリスは吹っ飛ぶ男に目もくれずに次の相手に襲いかかる。

 エリスの次の相手は吹き飛ぶ仲間を目で追っており、エリスが次に自分を獲物と定めた事に気づいていない。

 男は仲間が吹き飛ぶ様を見ていた所で顔面に衝撃を受ける。エリスが右肘を男の顔面に叩きつけたのだ。エリスはそのまま袖口に仕込んでいる鎖を男の首に巻き付けるとそのまま男を背負って投げ飛ばした。


 ドガシャアアアアアアア!!


 凄まじい音が発せられ男は背中をしたたま打ちあまりの苦痛の為に意識を手放した。




「ぎゃやあああああああああ!!」

「ひぃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お、俺の腕がぁぁぁぁ!!」


 エスティルが魔剣ヴォルディスを抜き放ち、その剣技を披露していた。エスティルは一振りで男二人の腕を斬り飛ばしたのである。


「呑気ね」


 エスティルは冷たく嗤うと苦痛に蹲る男二人の顔面を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた男二人は宙を舞い壁にぶつかってそのまま落ちる。動けない相手への追撃は騎士道精神に反する行為であると責められそうであるが、ここで一手間惜しんだことで自分ではなく仲間が殺されるような事だけは認められない。

 仲間と敵の安全のどちらを取るかなど考えるまでもないことである。




「う~ん、乗り遅れたわね……」


 アンジェリナは小さくぼやく。アンジェリナが突入したのは他の四人よりも五秒ほど遅れてからであったのだ。アンジェリナが後れをとったのは躊躇したからではなく、シュレイの格好良さに目を奪われたからであった。


「兄さんが格好良すぎるのがいけないのよね。本当に兄さんって罪な人よね」


 アンジェリナの言葉は戦いの喧噪に紛れて誰の耳にも届かない。


「くそ……何なんだよ。てめぇらは……」


 恐怖に満ちた声がアンジェリナに投げ掛けられるとアンジェリナは声の主に目を向けると剣を構えた男がアンジェリナに突っ込んできた。


魔矢(マジックアロー)


 アンジェリナはほぼ一瞬で魔術を構築すると魔矢(マジックアロー)を男に向けて放った。放たれた魔矢(マジックアロー)はたった一本であったが、放たれた魔矢(マジックアロー)は男の振り上げた剣に直撃する。その衝撃は凄まじく剣が男の手からこぼれた。

 呆然とした表情を浮かべた瞬間に男の顔面にアンジェリナが(ロッド)を叩きつけた。男は錐揉み状に飛ぶとそのまま床に転がった。


「何なんだよって、あんた達の敵に決まってるじゃない」


 アンジェリナの言葉を男は意識を失っていたためにまったく届かなかった。




「何か大したことないな」


 アディルが呆れながら男へ天尽(あまつき)を振り下ろした。峰打ちではあるが、骨の砕ける感触がアディルの手に伝わっており、決して手加減を受けたという印象は男達にはないだろう。


 男達は為すすべなく人の形をした天災により次々と床に転がされていった。あれ程戦意過剰であった闇咬(イビルゼルガ)であったが、さすがに天災レベルの不幸が本拠地(ホーム)を襲えば心が折れるというものであろう。




「今更、雑魚を狩ってもね」


 アリスはそう言うと奥にある階段目がけて走り出した。その際に進行方向にいた二人の闇咬(イビルゼルガ)がアリスの双剣により斬り伏せられ床に転がった。もちろん、急所は外しておいたために致命傷ではないのだが、その事に男達が感謝する侵攻には決してならないだろう。


 アリスは階段を登り始めた所で、二人の男と出会う。その二人とはジムドと報告に来た男であった。

 もし、この二人が下の蹂躙劇を知っていれば、もっと慎重な行動に出たであろう。だが、彼らは下で戦闘が行われていると思っており、蹂躙が行われているとはまったく考えていなかったのだ。


「てめぇ、アマテラスの……」


 ジムドの問いかけにアリスはニンマリと笑う。


「ええ、その通りよ。あんた達に勝ち目なんか無いわ。降伏しなさい」

「ざけんなぁぁぁ!!」


 せっかくのアリスの申し出であったが、ジムドは完全にそれを無視してアリスに襲いかかった。

 振り下ろされるジムドの剣をアリスは左剣で軽くいなすと同時に右剣でジムドの両太股を斬り裂いた。


「が!!」


 強烈な苦痛がジムドを襲い、ジムドは反射的にかがみ込んでしまいそうになってしまう。アリスはジムドの顔面を剣の柄で殴りつけるとジムドは階段の壁に顔面から突っ込むとそのまま階段を転がり落ちていった。五段ほどの高さであった事が幸いしたのかジムドは命を失わなかった事は幸運であった。


「ひっ!!」


 ジムドがあっさりと敗れると残る男は恐怖の叫び声を上げた。そして次の瞬間にアリスに手で足を払われると階段で転んでしまう。男はそのまま階段を滑り落ちていくが、その際にアリスは男の胸を踏みつけて階段を駆け上った。

 アリスに胸を踏みつけられた時に男の胸骨はポキリと折れてしまう。男は階段から転がり落ちる苦痛と胸骨を砕かれた二つの苦痛の為に体勢を立て直す事も出来ずにそのまま一階にまで転がり落ちてしまった。


 階段を駆け上がったアリスはそのまま廊下を進むと扉を蹴破り室内に飛び込んだ。


 アリスの視線の先には闇咬(イビルゼルガ)のギルドマスターであるエファンの姿があった。エファンは胸当てをつけている最中であったのだが、突然のアリスの登場に一瞬呆気にとられていた。


「ノックをすべきだったかしら?」


 アリスはニヤリと笑ってエファンに言い放った。

 次回で闇咬戦は決着です(^∇^)

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